四十七 火照る
明日新幹線で東京に帰るのだが、死神しょうじ共に二人は今日の残りをゆっくりしようと決めた。道の脇で立ち止まり、スマホで温泉を探す。
「露天風呂がいっぱいあるやつがいい!いろんな種類があるやつ!」
「はいはい……」
しょうじはすっかり死神に振り回される役へと戻っていた。決してコキ使われて喜ぶ変態などではないが、死神が元のテンションに戻って嬉しいのだ。
「あ、ショージィ。それか混浴にしちゃう~?うきゃー!」
「猿みたいな声出すなや」
死神は眉を上げる。しょうじの腕に方が触れ合うほどに近づく。
「あれ?じゃあ混浴はYESってことですかぁ?」
死神がしょうじの反応を楽しんで弄る。彼のあばらをツンツンとつつき、邪魔をする。
「ば、バカじゃねぇの、お前と風呂なんか……なんか」
「うちと風呂なんか?何がなんかなの?否定できないんだぁー。ショージがそこまーで言うなら、い・っ・し・ょ・に入っても、いいよ?」
「よ、余計なお世話だって!」
しょうじは完全に顔を焼いて肩に顔面をうずめる。
死神は嘲笑いながら勝ち誇った顔をし、歩きだそうとした。しょうじの見ていないほうに行くと、胸に手を当てて大きなため息をつく。
ふぅ……やっばぁ。超心臓バクバクなんですけど。混浴とか何考えてんだろうち。そーゆーのに誘ったみたいじゃん!
と実は慌てている死神だった。
「おっ、悪くないの見つけたぞ今の時間ならちょうど夕飯前出し混んでないんじゃないか?」
「まじ?最高じゃん!ショージナイス!」
バスに乗った二人は大きなホテルの日帰り温泉券を購入した。
「今日泊まるところはこんなでかい風呂はないからな」
しょうじが靴をロッカーにしまうと、死神がニヤニヤしながら近寄ってくる。
「ショージ、今度は覗いちゃダメだよ」
「しないわ……人もいるし」
「人がいるからしないの?きゃー変態じゃん」
「うるせぇ!早く体洗ってこい!四十分後にここ集合な」
彼が伝えると、しょうじに手を振りながら死神は女湯に消えた。
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「いっ!」
しょうじが湯につかると、背中の傷が染みる。山頂のすぐ下にハイキングトレイルがあったから良いが、それでもよくあの高さで骨が折れいないな。
「最後の二日動けないとかやめてくれよ……新幹線で背もたれ使えないかもしれん」
しょうじは再度水に入って体を浸ける。
「忙しい一日だったな」
今日起こったことを思い出しながらしょうじは身体を癒す。
何にせよ、今日は死神と喧嘩したのだ。死神と喧嘩。その単語を組み合わせているのはこの世でしょうじくらいだろう。
だが仲直りをした。多分。彼女が飛び込んで助けようとしてくれた理由は分からない。一週間の約束を果たすためだったのか、それとも別の理由があったのか。演技とは言いづらい必死な表情だけが脳に張り付いている。どちらにせよ関係は改善された。
しょうじは辺りを見回す。はしゃぐ子供を洗う父親、湯に浸かりながら話す老人のペア、大学生の軍団。その中でしょうじだけが浮いていた。この中で独り、寿命が二日の男が。
寿命がより近くなって、崖から落ちて、だいぶ死への実感が湧いてきた。なかったわけではないが、自分のどこかではこのすべてのやり取りが嘘だと思っている部分があった。だが今では怖い。でも案外悪くないかもしれない。しょうじは死神が初日に、電車の中で言っていたことを思い出す。
「死ぬのが近いからって、不幸ってわけじゃない……か」
あんな奴の言葉が沁みるなんて、としょうじは嬉しく悔しかった。最後の二日間モヤモヤしていてもしょうがない。それなら仲良くパーッと遊んで、永遠の眠りにつきたい。
ザバァ。
「別の風呂にも入ってみるか」
露天風呂や壺湯を一通り回り、サウナにも入った後火照った身体を水風呂で冷やす。背中の傷はまだ少し痛むが、さっきまでの重い気持ちはさっぱりよくなった。
体を拭き、脱衣所で服に着替える。
「……あいつ、まだかな」




