四十五 死神の独り言
遠くからショージの叫び声が聞こえる。まじ心が痛くなるけど、あそこにいても痛さが増すだけじゃん?ショージのことはもう許してるよ。あんなこと言うはずないじゃん。うちのせいだよ、ほんとさ。だから、うちのことも許してね?
ショージが言ってくれたんじゃん。うちの生きたいところに行こうってさ。でも、本当はね、ショージの生きたいところがそうなんよね。うち知ってるんよね。ショージが、自分だけじゃなくって、うちが楽しいような予定を立ててくれてんの。どこまでもお荷物だわ……ちょっと嬉しいくなっちゃうって。
ほんと、うちってバカだよ。死神になってもすぐ貧乏だし、生きてた時もそうだったんじゃん?多分。でも暗記だけは得意だかんね?特に覚えておきたいことはね。うーん、思い出、とか?ふふっ。
「だてつのカフェ、まちわか」
死神が道を歩きながら繰り返して声に出す。
「忘れちゃいけないじゃん?だからこうやって覚えないと。だてつのカフェ、まちわか」
しょうじのスマホに乗っていた地図と記憶、謎の呪文と指の動きで行き先を思い出す。
「だてつはこっち!」
死神がたどり着いたのは大仏鉄道博物館。
「よっしゃー!迷わず一人でたどり着いたっ!うちってほんとは天才なんじゃーん?ひとりで、独りで……」
死神は嬉しそうな顔をするが、寂しい顔が続いた。右腕が伸びて、何もない隣の空を掴もうとする。
「ショージなら値段で驚くね。うちが透明になって入ればいいのに、買ってくれる。うちは体験体験言ってごまかしてるけど、まだ気づいてないんだね、ショージ」
死神が透明になると背中に大きな鎌が現れ、受付のおばさんの前を難なくスッと通り過ぎた。
「うちが体験体験言ってるからこんなところに連れてくる予定だったなんて……彼女がいないからこんなに良いデートプランが作れる才能がもったいないじゃんね」
ミュージアムの中にはさまざまな歴史的鉄道の展示物があり、見たり読んだりして奈良や周辺の歴史的価値を知ることができた。死神は展示物を見ながらも、ずっと考えていた。
しょうじならなんていうかな。
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「カフェまちわか!」
カフェに入った死神は立ったままメニューを眺める。
「お金なくって食べれないのは残念だなぁ、全部美味しそうじゃん。ショージよく分かってんねー、ちょうど甘いもの食べたいよ今の時間。まぁ、我慢しなくっちゃだけど」
死神はメニューをもう一度見てから、周りのテーブルを見る。沢山のカップルが自分の頼んだスイーツの写真を撮ったり、相手に食べさせたりしている。
その人たちを見ていると、どこか体が熱く感じる死神だった。
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「まちわか、ってことはならまち到着!」
その次にたどり着いたのはならまち。
「よく分かってんじゃんショージ。やっぱり京都と同じで和風の中の食べ歩きだよね!」
死神は瓦の屋根を見たり、浴衣姿で写真を撮る観光客を見たりしながら町並みを取り込んだ。
「江戸時代からあるとかなんとかさっき話してたよね。ここ京都よりも和って感じじゃん!」
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「わか。若草山」
死神は登山を始める。飛んでいけば疲労無しに一瞬で頂上まで行けるが、千本鳥居での登山を思い出し、あえて自分の足で上がることにした。
「あーもう歩きたくなぁい。山にエスカレーターとかくっ付けてくれないのかな……」
突っ込み役が欠けていては、彼女にとっても少し面白みがない。
「わぁっ!綺麗じゃん!」
登り切った死神は奈良の街を見下ろし、夕焼けが沈むのを見る。
「写真撮るもの無いじゃん……ショージも別に一枚くらいしかとらないけどさ。どうせブレてるし」
彼の名を口にするたび、彼女の身が削られているような感覚になる。
「ショージ……変かな、うち。離れたくない……だから離れたい。このままだと、もっと離れられなくなっちゃうから」
死神が独り言を呟きながら日が沈んでいくのを眺める。
「うちとショージも、夕焼けみたいに……うちが月で、ショージが太陽。一緒に居ることはできないもんね。今は……うちが作り出した皆既月食、ってことかな?おおー、頭良さそうなこと言っちゃった!」
死神は小さくため息を吐くと、自分の服を掴んだ。そう、しょうじが買ってくれたUSJの恐竜の服。
「ちょっと汚れちゃたじゃん。ごめんねショージ……」
死神が服から土埃を払う。
そして突然、感覚的にその手が止まった。
彼女の鼓動が早くなり、足音が上がってくるのが聞こえる。
「もう一人の時間も終わりかぁ」
嬉しそうにも、悲しそうにも聞こえるようなトーン。
彼女は自分の潤んだ目から、汚れていなさそうな手の甲で水滴を拭きとる。
「死神っ!」
突然、階段の方からしょうじの声が聞こえ、彼が顔を出す。
「えっ?!あっ、ショージ!来たんだ……」
死神は立ち上がり、しょうじの前まで駆け寄る。抱きしめる勢いで近づき、目の前で止まる。
「俺、言いたいことがいっぱいある。でも、一番は……ごめん!」
頭を下げるしょうじ。その頭を、死神はそっと撫でた。
「知ってる」
死神が小さく言うと、しょうじはそのまま彼女に身を任せる。
二人だけで、何も言わずに、ただ立っているだけ。
「死神……俺」
「しーっ」
しょうじが続きを話そうとするが、死神に止められてしまう。
「もうちょっとだけ。ね?」




