四十一 裏の料理店
「夜どうすっかなぁ……」
しょうじがスマホを取り出すと、死神が勢いよく手を挙げる。
「はいはいはーい!中華の気分です!」
「いや、大阪だぞ?ここ。さすがにお好み焼きとか食べてないのがあるだろ」
しょうじは有名なお好み焼き店を調べ、死神を連れて電車で向かった。
「えー、中華が良かったなぁ~中華全然食べてないし」
「死んでるやつが言うなよ」
「だってー、ショージも死ぬ前に一回くらい食べたいっしょ?」
「お前、いったい何のためにわざわざ近畿来てると思ってんだよ」
「うーん、よさげなお墓を選びに来た?」
「近畿の食文化やらを楽しむためだわ!」
しょうじは膝をパンパン叩きながら立ち上がる。
「もう八時過ぎだし、お前が俺にくれた一週間なんだから。だいたいなんで着いて来てんだよ。花火とかグミとか勝手に持ってこさせて、俺に金使わせて……どうせ死ぬからそこまで気にはしてないけど、親にもお金残してあげたいし、大きな金額が抜けてくたびに精神削られるんだからさ……ったくよ。変なぬいぐるみも買って。思ったより高かったんだぞあれ。毎日高級の料理食べて。しかもお前が選んだやつだろ。たまには俺が食べたいものでも……これじゃそこら辺の彼女に全額奢る彼氏じゃないか。彼女いたこともないのに……お前も貧乏死神とはいえ金じゃなくていいからなんかしてくれればいいのによ」
しょうじはブツブツと誰にも聞こえないひとりごとをずっと繰り返しながら夕飯を探しに行った。
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「ここ?」
大きな看板と、外に出されたメニューを見て死神が立ち止まる。
「ん?ああ。ここだ……って、は?」
時刻は八時半を過ぎている。それにも関わらず、うねうねと人の行列がレストランに巻き付き、大通りの歩道を支配していた。
「あの、どのくらいですか?待ち時間」
しょうじは驚くも、サービスが速いか、これから大量の人が店内から出てくるかに賭けて最後尾と言う看板を持った人に話しかける。
「あっ、え、私よく分かんないですけど……このくらいだったら二時間、三時間あったらすぐに席をご用意できますよ!」
人見知りのような最後尾看板の子が言う。
全然すぐじゃない!それじゃあUSJの待ち時間よりひどいぞ。
「あ、はい。ありがとうございます……」
その子には申し訳ないと思いつつも、しょうじは列に並ばなかった。
「他にお好み焼き店ないのか?」
ネットで調べるうちにしょうじは裏路地へ進んだ。
「もう諦めなってぇ、良いところはこんな時間でもこんなに混んでるんじゃん、多分。もう中華にしちゃおーよー」
そこがその時、怪しそうな道の奥に一件、明かりのついているところがある。気になって近づいてみると、そこは夫婦らしき二人が働く中華飲食店だった。場所はとてもボロく、パッと見た口コミは四年前に一件だけ。悪いことは書かれていなかったが、どうも一般的に見たらアブナイ店である。
「ほーらね?女神さまが中華だってさ」
死神が肘でしょうじのあばらを突く。
「絶対ないわ」
仕方なく入る二人。
チリーン、とドアが開く音と共に風鈴のような涼しい音が鳴る。
こっちを全く見ずに、中国人のおばちゃんが雑巾を振り回している。
「どっか好きにスワレ。はやくシロ」
初対面から口の悪いオカンのような人だが、そのオカンっぽさが逆に安心感を与える。まぁしょうじのオカンには似てないが。
しょうじと死神はラミネートされたメニューをもらい、目を通す。中国語っぽい日本語なのか、日本の漢字で書かれ、カタカナひらがなが全て抜き取られたようなメニューとなっている。
「なんかいっぱい頼めばいいじゃん!」
死神がメニューに指を走らせる。
「ナンダ?決まったノカ?はやくイエ」
おばちゃんがおたまを持て、今にも殴って来そうに聞く。
「え、えっとぉ、このチャーハンで!」
「レタスゥー|炒飯≪チャオファン≫ネ」
紙切れにメモリながら、おばちゃんは死神のことを一切見ない。まだ入って来てから一回も見られてない気がする。
死神がしょうじにメニューを渡す。
「あと、チンジャオロースと、これとあれと、それとこれで」
「ハイネ。水飲んでマッテロ」
そういうと、おばちゃんは聞き取れない中国語でペラペラとキッチンに立つ夫を叱るような感じで支持を出していた。なんだか夫が言われるがままにトボトボと始めるもので、可哀そうな気もする。
しばらくして出てきたホカホカの料理はまるで彫刻のように美しく盛り付けられていた。日本語で言えば、量が多くて嬉しいということだ。たくさん頼んだのはまずかったかもしれない。値段の安さを見て油断していた。
「ん?んんーん!」
死神が炒飯を一口いくと、美味しそうに頬を抑えた。
「これ人生で一番おいしい炒飯かも!」
「人死じゃないのか?」
「おいしい食べ物の前では皆同じなのだー。生きてるときとは違って太っちゃうこと気にせず食べれるし、健康も考えなくって良い!もう幸せぇ……」
そんな食べ物に心を奪われるものかよと、味に半信半疑だったしょうじだったが。
「おわっ、なんだこれ!」
彼の食べたチンジャオロースはこれまでとは別格だった。中華専門店に行くよりも良いかもしれない。
「早く食ったら金払て帰るネ」
不満そうに言うおばちゃんだったが、口元が確実に上がっていた。自分の旦那が世界一の腕だと確信しているかのように。
「うう……お腹いっぱい。何とか食べきったぞ」
「お腹いっぱいにならないはずなのに……美味しさではちきれそう」
腹を抱えながらしょうじと死神は席を立ちあがる。
「ありがとうございました。めっちゃおいしかったです!」
しょうじは代金を支払いながら何度も伝えた。代金もこの旅行一安い食事だ。
どうしてこのような怪しい料理店や屋台の方が三時間の行列ができている店よりも静かで、提供が早く、美味しいのかを誰かが研究すべきだと、しょうじは思うのだった。その人にはプチっと折れてケチャップとマスタードが同時に掛けられるのを作った人と共にノーベル賞をささげましょう。
四日目終了。
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