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四 支度

 チャックを引っ張り、スーツケースの口がパカッと開いた。


 服は途中で買うことを強いられ、しょうじはそれ以外を持っていくことにした。


 靴下、下着は別枠で入れ、隅に固める。その次に袋に入れた歯ブラシと歯磨き粉。


 顎を触りながら必要そうな、またはあったら便利であろう物を入れる。


 そんなしょうじを死神は興味津々といった様子で中身を覗き込んでいた。


「ふう、これでいいかな」


 パンパンになったスーツケースを両手で押さえる。


 ん?


「閉まらないな……」


 頑張って体重をかけて閉めようとするが、スーツケースが膨れ上がってなかなかチャックを回せない。


 さすがにこんなあふれるほど物を入れた覚えがない。

 何かが引っ掛かっていると考え、しょうじはパズルのように組み替える覚悟でスーツケースを開いた。


 すると、中には山のようにグミ系のお菓子が入っていた。


「な、なんだこれ……」

 

「途中でお腹すくっしょ?」


 自分の行いを満足そうに、死神が白状した。


「いやいや、遠足じゃねぇんだよ」


「だって一週間分とうちの分も入ってるもん」


「だけどこんなに持っていけないし、いらないわ」


 しょうじは両腕まで使ってグミを取り出す。


 だがその間に、しょうじは更に余計なものが入っていることに気が付く。


「おいなんだこれ」


 グミをとりあえず床に置くと彼はスーツケースから花火セットを取りだした。


「持ってかねぇよ!ってかいったいどこにあったんだよこれ……」


 花火セットも床に置く。


「なんでこんなに白紙が入ってるんだ?」


「うちを描写するため?」


「このスコップはどこから来たの?」


「旅行先でお墓でも掘りなって!哀れなグミよ、なむなむ……」


 死神はひとつの袋からグミを取りだして口に入れた。


 死神の余計なもののせいでしょうじはなかなかスーツケースを閉じることができない。


「こうなったらリュックで行ってやるか」


 今度は死神の邪魔もなく、荷物を最小限にして再チャレンジ。


 歯ブラシ、歯磨き粉、靴下、下着に、携帯の充電器、財布。


 これをリュックに入れ、死神の変なものが入っていないのを確認すると、リュックのチャックを閉めた。


「新幹線でどこかに行こうかな。ずっと近畿行きたかったんだ。大阪、奈良、京都に」


 しょうじは死神から許可が欲しいかのように言った。


 「ふーん」


 死神は口の中のグミをもぐもぐしながら頷いた。


「別にどこでもいいけどさ、遠いと移動時間もったいなくない?」


「それも含めてだよ。ていうか妨害してたやつが言うなよ。どうせ最後なんだ、旅の移動も楽しむさ」


 しょうじは肩の力を抜きながらグミの山を見つめた。

 いくつか手に取ってリュックのポケットに入れる。


 そして部屋から廊下に出て、電話を一本。

 十分後、ぎこちない動きで戻ってきた。


「必需品は持ったし、金も死ぬなら貯金使っても問題ないし、会社も……」


 彼は仕事が楽しかったわけではないが、小さくも人間関係や、喪失感で明日職場にいる自分を思い浮かべる。

 だがそんな考えを振り切ってリュックを背負った。


「よし、お前も来るんだろ?」


 しょうじは死神に聞いたが、来ないはずがない。


「もちろん!あんたのこと見てないといけないしね。この一週間は比較的安全とは言われたけど、死神として仕事を全うしなくっちゃ!」


「今の状況からしてそれ言えるか?」


「うっさいっ!」


 しょうじは少し笑い、死神のことを一度見た。


「それで表に出たらちょっとやばいと思うけどな」


「大丈夫。死神はこういう時ほかの人からは気にされもしないモブキャラって認識されるようになってるから!」

 

 彼女の口調はこのフレーズを何度も言ったかのように合間無く出てきた。

 

 しょうじは玄関に座り込み、靴を履いた。


 彼の後ろに靴を履いたままの死神が玄関に降りる。


 そういえばこいつずっと土足だったのか。と一瞬の怒りを鎮め、旅の前に部屋を振り返った。


 散らかった部屋、生活感の薄い、見慣れた風景。趣味のものもなければ、娯楽もない。生活のためではなく生存のための最小限のものしかない部屋。


「何センチメンタルになってんの?」


 死神に雰囲気をぶち壊され、しょうじはドアを開ける。


「はいはい。じゃあ行くか」


 途中で服屋により、シンプルなデザインのセットをいくつか買う。


 これから向かう先は駅。新幹線に乗って、とりあえず関西まで行く。


 駅に近づくにつれて人が増えていく。


 人の流れに紛れながら、しょうじは前だけを見て歩く。


 死神はその横で、きょろきょろと周囲を見回していた。


「うわ、人多っ……」


「普通だろ」


「みんな急いでるね」


「休日のこんな時間だからな」


「なんかさ、死神が言うのも変かもしれないけど、こんなにたくさんの人を見ると、ついつい思っちゃうんだよね。自分っていても、いなくても、変わらないんじゃない?って」


 もの悲しく死神が言う。

 

 聞こえていたが、しょうじは何も返さなかった。ただ歩く速度を上げる。


 やがて、二人は大きな建造物と大きな音に向かい入れられ、駅の中に入った。

 室内では電車の音が振動に変わって足へ伝わる。


 そのまま二人して、ホームへ向かう。


 くっ、二人分払わなきゃいけないだと……


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