五 死なせたくない
ホームに上がった二人は電車が来るのを待つ。
「新幹線?」
死神はわからなそうにほかのホームを見渡した。新幹線が一本もない。
「いいや、ここじゃない。新幹線の駅があるところまでいかなきゃだからな」
「そうなんだ」
つまらなそうに死神はボーッと電車が来るのを待つ。
しばらくして電車がホームに滑り込む。
「ほら、乗るぞ」
しょうじは降りる人の雪崩をよけながら中に入った。
人が多く、座れない。
「うっわ」
ドアが閉まった瞬間、死神はとても嫌悪そうな顔をした。
「どうしたんだ」
しょうじが聞く。
「この車両、死神に付きまとわれてる人だらけじゃん」
それにしょうじは驚く。
「そ、そうなのか?」
死神とはしょうじについてくるこの子のように、もうじき死に至る人を付きまとう。
しょうじ本人もう一週間を切って命を回収さえる者だが、彼のような死んでしまう人がこの車両にたくさんいるというわけだ。
しょうじは自分の目が信じられない。いつもとあまり変わらない電車だからだ。
「具体的に……どの人が?」
しょうじが聞くと、死神は指をさした。
人から人へ。ほとんどが疲れ果てて、すでに魂の抜けたようなサラリーマン。目の下にくまができていて、腕がぐったりしたまま膝に鞄が乗っている。
きっと自分も仕事に行くときはあのような感じなのだろうと思った。
「過労死じゃん、みんな」
死神だからわかるのだろう。しょうじは彼女の発言に対し、そう思った。
サラリーマンたちを見たときは何とも言えない気持ちだったが……
「あの人以外はね」
死神が最後に指さしたのが、優先席に座っているおばあちゃんだった。電車の揺れで遊んでいる小さい、孫らしき子が目の前にいて、二人とも笑っている。
だが、その老婆の後ろ、電車の窓にのめりこんでいるのは冷たい雰囲気を出している、灰色のフードを被った死神。大きな鎌が、微かに首元に近づいている。距離が短い。もう長くないのだろう。
死神たちの姿はしょうじには見えず、ただ死ぬという事実を伝えられただけだ。
「くっ……」
しょうじが歯を食いしばると、死神は手を仰いだ。
「考えたってしょうがない。ああいう死はどうしようもないからさ」
老婆は目の前ではしゃぐ孫に向かって、何度も優しく手を振っていた。
その笑顔は、しょうじの目にはごく普通の、どこにでもいる祖母にしか見えなかった。
だが、その背後には確かに死が立っている。
灰色のローブに身を包み、感情のない顔で、静かにその時を待っている。
しょうじは視線を逸らした。拳に入った力を抜く。
「……ああいうのを見ると、なんか嫌だな」
「死ぬのが?」
「……いや、死のこと自体はいつか皆来るとわかっている。死は、死だけは平等に訪れる。ああやって笑っている人間の後ろにも、もう終わりが立っていると思うと……」
「でもさ、あのおばあちゃんは今ちゃんと幸せそうじゃん」
しょうじは死神のその言葉にハッとした。
「死ぬのが近いからって、不幸ってわけじゃないんだよ。だからあんただってこうやって旅行しようとしてんでしょ?」
電車の窓にしょうじは自分の姿が見えた。
確かに、老婆の死はもう変えられないかもしれない。
だが老婆をあきらめても、しょうじ自身はあきらめていない。
目を逸らした先は学生。さっき死神が過労死と指さしたサラリーマンの中に紛れ込んでいた。きっと勉強の過労死ということだろう。まだ若いのに。
しょうじは吊り革を話す。
電車の揺れにバランスを取りながら、少年の近くに歩み寄る。
一本、鞄から未開封のペットボトルを渡す。
「悪いが、俺はお前に生きてほしい。頑張りすぎるな」
そういって、次の新幹線の駅で降りる。
少年は電車が再び動き出すまで、つぼみが開いたように目を開いていた。




