三十九 新エリア
昼過ぎ。新エリアの整理券の時間を過ぎていたので、しょうじと死神はウキウキ気分で向かった。朝に比べれば新エリアへ移動する人は少なくなっているものの、いまだ明白な人の流れができている。整理券も、入る時間を示すだけなので、入ったまま出てこない人だっている。昼の今頃いけば、どの乗り物も行列間違いなし。救いは、まだあまり乗ったことがないので、互いに待ち時間キョロキョロできるわけだ。
「はい、整理券を確認しますね」
スタッフにスマホを見せると、しょうじと死神は奥へと通される。長い道の先には大きな緑色の土管が、新エリアへの入り口となっていた。全日本人、いや世界のほとんどが知っているであろう、あのテーマソングが流れ、前世の記憶がない死神も思い出せそうなほどに全員の心を躍らせた。
「懐かしいけど思い出せない……んー」
死神が考え込むと、しょうじは彼女を引っ張っていって土管の中へ進んだ。反対側には大きなエリアを見下し、沢山の人と動いているギミックが目に入る。
「忙しいな」
しょうじが呟くと、今度は死神に引っ張られる。
「何あれ、あっち行きたい!」
二人が並んだのはカートレーシングの乗り物。とはいえ、決まったレールの上を特別なARゴーグルでレースしている気分になるだけだ。
「何この亀」
死神が指すのは皆おなじみの緑色の甲羅に黄色い肌のあの悪い亀である。
「このゲームのメインの悪役だよ。姫を攫って主人公が助けに来るんだ。この待ち場はこいつの城っぽいね」
しょうじは先を見る。カーペットに壁、他に乗ったふたつと比べれば待ち時間に退屈しなそうなつくりである。
「えー、うちも攫われてみたーい!そしたらショージに助けてもらおっかなぁ」
「お前が攫われたら、俺が殺されないってことだから、好都合だけどな。そのまま見捨てるわ多分」
「漢っちゅうのはそれでも助けんだぜ?」
死神がまたしょうじの声真似をしようと自分自身の喉を抑え、ガラガラ声になる。
「絶対そんな声じゃないわ」
「でも自分の声は他人には違うように聞こえるじゃん?」
「そうだけど……さすがにそこまでガラガラじゃないわ」
「待って、ってことはうちの声が他の人にはさらに良く聞こえてるってこと?」
死神が手を合わせて飛び跳ねる。
「いや、年齢に合って老いた見たいな声だよ」
「ショージ!」
死神がしょうじの腕を両手でつかみ、それぞれ逆方向に回転させてしょうじの皮を引きのばす。
「痛い痛い!冗談だって!」
列が進むと、飾りがどんどん増えてくる。最初の大きな像とトロフィーから、図書館や工場のようなところを通った。
「おっ、列はもうあそこで終わりだ」
しょうじが先を指す。いっぺんに十何人かが別の部屋に案内されている。
「まじ?もう?」
「ああ。ちなみに一時間くらい待った」
「うっそだぁ!そんなに?他の待ち場もこんな感じにすればいいのにね」
「先に作ったんだから無理だろ。しょうがない」
二人の番がやってきて、他の人とテレビが三台ほどつるしてある部屋でルール説明の平蔵を見た。
「よし、分かった!」
映像を見終わった後、死神が乗りたくてずっとそのばで足踏みをしていた。
「本当かー?」
しょうじは映像再生中に配られたヘルメットを調節し、装着した。
「そういう奴ほど間違えてたり、話聞いてなかったりするもんな」
「心配しすぎだてー」
が、これに乗ったことのある人はご存じの通り、一回や二回どころでは済まされない。
後々、列が続くにつれてその映像は別の部屋でも流れる。並んでいる間に壁で流れ、頭上でなかれ、係員に言われ、しまいにはまた画面で流れ……
「もういいわ!台詞一言一句覚えちゃうってば!涼宮USJの憂鬱じゃん!」
順番が回って来た時、ヘトヘトになってしまったのである。
「ほら、来たぞ。乗るか?ちゃんとゴーグルみたいなやつつけたか?」
「うん」
はじめは元気なさそうにする死神だが、乗っている間すごく楽しそうな笑い声がずっと聞こえてきた。
詳しくは自分でUSJに行き、乗ってみましょう。
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待ち時間が短そうなものから乗っていき、エリアが閉まる三十分前になってしまった。
「さすが新エリアの人気というべきか」
日が暮れて、もう辺りが真っ暗になってもとんでもない数の人がウロウロしている。乗り物の待ち時間を諦めて出てきた人を考えれば、昼よりも人が多いともいえるだろう。
「あと三十分だし、もう待っても何も乗れないと思ってみんな出てきたんだな」
しょうじがぼそっと言うと、死神としょうじが顔を合わせる。
「みんなが諦めているということは?」
「ということは何ですかショージくん」
ほとんど待っていたせいで乗り物に乗った回数を考えると実感がないが、もう閉園間際なのだ。ゾロゾロと長い列を作り、ゆっくりとエリアから人が出て行く。しょうじも少しお腹が鳴るが、これは最後の旅行の最後の遊園地。食べるくらいなら後でできる。空腹ごときでしょうじを止めることはできなかった。
「誰も並んでないから運が良ければもう一、二回くらい乗れるってことだ!」
しょうじがエリア全体を見下ろしているところから階段を駆け下り、出ようとする人の流れに逆らって乗り物の並ぶエリアに突撃する。
「よしっ、行けぇっ!」
死神もまた、しょうじに着いて行きながら死後人生で一番楽しい、死人遊園地の一日を満喫していた。




