三十八 スペシャルゲスト
遊園地までの移動、そしてライドの待ち時間を合わせると、結構な時間が過ぎていた。涼しかった朝は強い日差しに置き換えられ、レストランが込み始めている。
「死神、ちょっとお腹空かないかって、お前そういうのないんだったな」
しょうじが地図を見ながら昼ご飯を変えるところを探していると、死神が手を振り上げる。
「はいはいはーい!うちも食べたい。おいしいものに胃袋は関係ないからね」
「それ満杯の時に言うんじゃ……デザートは別腹みたいな」
「いつもだから関係なし!」
「でもレストラン混んでそうだしなぁ……」
「ポップコーンとかないの?」
死神が濡れたしょうじの腕に捕まる。
「ベタベタするからやめろ!」
しょうじは死神を振りほどく。濡れた袖が吸い付くように肌にくっ付いている。腕が冷たい。
「君たち、ポップコーンをお探しかね?」
どこからもなくスポットライトが揉め合っているしょうじと死神の隣に立っている人を照らす。その人物は壁に寄りかかり、帽子の鍔を下げて顔を隠している。そして帽子の鍔を縦に持っているせいで帽子を顔面を隠すのに使い、被ってすらいない。
「だ、誰だ?!」
しょうじは死神を突き放し、謎の人物の顔を覗こうとする。
「なんで顔を見られたくないのー?」
死神が近寄ろうとするところをしょうじに引っ張り戻される。
「嫌だなぁ、不審者なんかじゃないさ。ちょっと、照明が眩しくてね」
人物は微かに見える口元をフッと笑って見せた。
「だいたい誰じゃあ!こんな真昼間なのにスポットライトなんか当ててきやがってぇ!」
「帽子被ってサングラスでもかければいいじゃないですか」
しょうじが突きつけると、死神も隣でウンウンと頷く。
「髪が、崩れるのさ」
「お前髪型ないだろ」
「言うなぁ!美容院で髪型変えるって言いづらいんだよぅ」
その人は叫び、壁を足の裏で蹴ってからしょうじたちの方へ歩く。すれ違い際に、近かった死神にポップコーンを一袋渡した。
「こ、この味は!」
死神がポップコーンをひとつ食べた後、去っていく謎の人物の背中を見上げる。
「まさか、小麦シャチノコ?!」
死神が声を上げると、しょうじも目を丸くした。
「えっ、筆者?!」
「間違いないよショージ、塩味の地味なポップコーンを選ぶ人間なんて、アイツ以外いない!」
死神が指をさすと、小麦シャチノコ(?)はピタリと止まり、振り向いた。
「人から貰ったものにいちゃもんとは何だぁ!」
拳を唇に揃える。
「コホン、会いたいと言うから来てやったのだ。感謝しろよ、そんじゃ!」
謎の人物は再び歩き出した。
「え、たったそれだけ?さすがに短すぎない?何しに来たの?」
去っていく謎の人物を見ながら死神はポップコーンを手に取る。
「ん?味がない……」
「あー、それ舐めといたやつかも」
遠くから声が聞こえ、謎の人物は角を曲がって見えなくなった。
「お゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛戻すな゛ぁ゛ー!」
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なぜだか口直しにレストランへ入った二人。ウェイターに水をもらうと、舌を前歯で削るように動かし、水で何回も流す死神。
「まじ取れた気しないわー」
手の甲で口から唾と水を拭く。
そんな嫌そうにすると傷つくぞ。
そんな死神にしょうじがナプキンを渡す。
「何頼むか決めたかよ」
「あ、ごめん。まだ全然見てない」
「おっ、このサメバーガーなんてどうだ?マジでサメなんかな」
しょうじがメニューをペラペラめくる。
「恐竜バーガー?!これもすごそうだな」
「んー、バーガー飽きた」
死神がナプキンを何枚か使って服の水分を吸い取ろうとしながら言う。一枚のナプキンが彼女の手から縦に落ち、身体に密着した濡れ衣の間にぴったりと入る。
「あっ……」
「——巨☆バーガー」
と言うとともにしょうじは顔面パンチを一発食らった。
「にしても、どれもワイルドだねぇ」
死神にメニューが渡り、彼女はあみだくじのように左右へと目を動かす。
「じゃあもういっそのことこれなんてどうだ?」
勢いで頼んだのはジュラシックプレートとかいう名前のついている、いわゆる全部乗せ。
「やばいな、これは」
「ほんとにこんなに食べきれんの?」
「男の腹を舐めるなよ」
「じゃあ太っ腹ってことで財布もきっと行けるね!これ五千円だって!」
「えっ?」
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お腹が破裂しそうで動けないくらいのしょうじはカニ歩きでゆっくりと歩いた。
「カップル割引なので、三千円ですね!」
カウンターの向こうにいる店員が金額を打ち込む。
「か、カップル……」
しょうじが一歩下がると、死神が小笑いし始める。
「あれっ?ショージ?お?ん?」
死神が下から彼のことを見上げ、指で二の腕を突いてくる。
「カップル割引でよろしいでしょうか?」
店員に再度言われると、しょうじは元の金額と見比べる。割引がありか無しで二千円以上の違い……まさかこれも政府の仕業か。(違います)
親のために、親孝行のために、死ぬ前に一円でも多く……残さなければ。
「です……」
顎をストンとおろして頷く。
死神がしょうじの隣でずっと腕をツンツンしている。
「なぁ死神……」
「なぁに?ショージ」
しょうじの顔を見たとたん、彼女の笑いが止まった。
「カップル割引だってよ。カップルだって証明しなきゃなぁ!」
「ぎゃああああ!」
腕を大きく開いたしょうじから逃げるために死神はまっすぐレストランから出て行った。




