三十六 おそろいマジック
しょうじと死神は恐竜型のジェットコースターを降りて、園内の他の乗り物に乗ろうとあたりを見回し、居場所を地図と照らし合わせる。
「へぇ、ショージの言ってた通じゃん。まじ行列だわ!」
先ほど乗ったジェットコースターの最後尾が、二人があれだけ駆け抜けたテープの通路を全て塞ぎ、入口の近くまで来ている。
「三時間待ち?!」
「ああ。こいつはすぐこうなるから、開園すぐ一回乗って終わりだよ、だいたいは。こういうのが嫌になってあんまり遊園地も行かなくなったんだよな。久しぶりに来て脳がリフレッシュされた気分だ。あっちへ、入口の方に戻れば他のジェットコースターもあるけど」
「じぇ、じぇっとこーひゅたーはこりごりでしゅ~」
死神が魂を抜かしたようにヘロヘロと歩く。
「あっ、あそこ入ってみたい!」
立ち直った死神はギフトショップの方向に指をさした。恐竜のグッズがたくさん見える。
「なにがあるか見てみるか」
しょうじを引き連れ、死神は様々な恐竜グッズを棚から取ったり、触ったりする。
「壊すなよ、そのマグカップ」
「ダイジョブだって~ショージは心配性だなぁ」
死神が恐竜柄のマグカップを持って振り回していると、もう一人の客が彼女にぶつかってしまう。
「おっと失礼」
彼はそのまま通り過ぎてしまったが、それにより、死神がバランスを崩し、気づけばマグカップが宙を浮いている。
「危ないっ!」
しょうじが咄嗟に手を伸ばすが、床にズッコケた死神の股が全力キャッチ。なんだか柔らかそうなクッションだ。マグカップが羨ましい。
「セーフセーフ!」
死神がマグカップを戻すと、しょうじは安堵のため息を一つついた。
「ねぇ、これは?」
死神が指さしたのは恐竜柄のTシャツだった。ど真ん中にはティラノサウルスが大きく口を開けていて、白黒のアートが迫力ある。
しょうじは一着自分のサイズのTシャツを手に取った。昨日と同じだ。昨日も死神のために買おうとしたが、自分のことを殺そうとしている者にプレゼントをするのは変かと思ってしまっていた。ただ、彼の気持ちは晴れた。死神のことを友のようにも思っている。死神にそれ以上何も言われずとも、自然とおそろいのセットを購入していた。
「やれやれ」
「えーっ、まじショージありがとー!ショージガチ神!いや、神は他にいるのか。まじショージ最高!」
サイズの書いてあるシールを剥がし、死神は自分の身体に当ててみた。
「てか、お前それどうやって着るんだ?だっていつもローブ着てるじゃねぇかよ」
店を出た後、しょうじは今来ている服を脱ぐ。タンクトップになった後、恐竜Tシャツを上から着る。公共の場で何も恐れずに上裸、又は近い状態になれるという、男に生まれてよかったランキング五位のことだ。
「ふふん、前にも言ったけど、ローブくらい別に着ても来てなくってもいいの!他の死神はセンスの無さからやってるからね。うちはそんな詰まんないやつとは違うからぁ~」
「でもローブは着るのか?」
「そりゃだってぇ……自分以外のほか皆が着てたから……」
「同調圧力に負けたのかこのギャル死神」
死神はトボトボしながらローブを取り、しょうじに持たせた。下にはオフショルダーの灰色の服に、何かの黒い紐が肩にかかっているのが見える。灰色の服は小さく、彼女の身体に密着しているような感じだ。ズボンは半ズボンのように短く、青いデニムであった。
「どぉ?」
死神が一回転して見せるが、しょうじは仕事場のスーツを着た女性しかまともに見たことがないので、よく分からない。
「うーん、分からん」
「そこは、わぁっ、可愛いね!って言うんだよショージ!」
死神が指摘すると、彼女は新しく買ってもらったTシャツをその上から着る。ワンサイズ大きかったのか、風にそよぐその服はまさにカーテンのようだ。
「これはいい」
しょうじがボソッと言う。
「何がよ」
「いやなんでも」
死神が服をデニムのショートパンツに詰めると、しょうじは顰めた顔をする。
腰の周りに手を入れ、服を調節した後、死神はローブをしょうじから受け取る。伸ばされた服は中央にティラノサウルスが来たままだが、ティラノサウルスがおいしそうにメロンを食べているのがよく分かる。
「これはこれで悪くないかもしれん」
しょうじは顎に手を当てる。
「何よ」
「いや、なんでも」
しょうじは手に持っているTシャツを見た。そういえば、これも死神に東京で一日目に選んでもらったものだ。
「しっかし、これどうすっかなぁ。リュック今日持ってきてないし、捨てるわけにはいかん」
死神が一体自分のローブで何をするのだろうかとみると、彼女は茶色いローブを引っ張って腰に巻いている。さすがに袖の短いTシャツでできることではない。ポケットに入らない、ということはないが、股のすぐ横なので服の厚みをよくないことと勘違いされるかもしれないと思うと恥ずかしい。
「あっ、ショージ持っててあげよっか?」
死神が珍しく手を差し伸べてくれた。
「いいよ、お前の手がふさがるだけだし」
しょうじは悪いと思い、軽く手を振ったが、いつの間にか死神が先ほどは持っていなかった小さなポーチを身に着けている。
「ほらこん中に入れればいいじゃん」
死神が茶色いローブをほどき、畳まずに鞄の中に詰め込んだ。鞄は一瞬膨らんだが、中身が空っぽになったかのようにへこんでしまった。
「わっ、わっ!」
「えっ、あれだよ。入れても、入れても、いっぱいにならない系のポケット!うちが生きてた頃は結構有名だった。ような気がするんだけどあんまし覚えてない。変な青いキャラクターがいたような……」
「それ、アニメとか漫画の話だろ?現実じゃなくって」
「えっ、あれ現実じゃないの?」
「な訳あるかって、そのポーチほんとになんでも入るのか?」
「うん。入口を通るならね」
そういえば、昨日の夜も、死神に買ってあげたぬいぐるみ。タワーを下りてからも持っていたが、家に着いた頃には持っていなかったような気がする。その時にも使ったのだろうか。
「てか、何でも入るんだよな?どれだけでも」
「うん」
「じゃあさ」
「うん?」
「なんで俺はリュックを持ってきたんだよ!最初からお前のこれでいいじゃないか!あんなにグミ入れやがって、花火も忍び込ませようとしてんじゃねぇよ!お前のそれに入れたら、俺も、お前も楽ちんじゃねぇか!」
死神がしょうじからTシャツを受け取り、中に詰める。
「いいじゃない。☆Experience☆」
「こいつ……」
しょうじは呆れたというかのようなため息をつく。
「あ、あとさ」
死神がポーチを閉めると、その鞄は丸ごと二人の目の前で消えてしまった。周りの人は誰も見ていないようだ。
「なんだよ」
しょうじが死神に反応すると、死神が自身の背中に腕を回し、摩った。
「花火、あのあと別のポケットに入れといた」
「えっ?」




