三十五 ダイナソー
二本のロープに挟まれた狭い通路。行ったり来たり、ジグザグと、本来列が並ぶところを通り抜けていく。待ち時間十五分が、入口から乗り場まで歩くのが十五分ということなのかもしれない。
「ここ全部が人で埋まるってことっしょ?やばくね?」
死神がロープを持ち上げ、二人はくぐってショートカットをいくつかとる。人もいないし、やっても害はないだろう。
「そうだよ。列も一向に進まないから待ってる間すごい疲れるんだよな。座ってるか、せめて常に歩いてたなら……」
「うわ、めっちゃわかるんですけど!」
死神に共感され、しょうじは気分がいい。
「足踏みでもすれば?」
「なんか違うんだよな」
「うーん」
二人はショートカットを駆使しても、階段エリアを上り、乗り場に到達するまで予想以上の時間がかかってしまった。
「やっとだぁー!」
ゲートが開き、死神としょうじは一番前の扉に進む。カートが到着すると、扉も開き、二人は中に入った。先頭から見たジェットコースターのカートはプテラノドンの形をしていて、カートと呼べない構造になっている。
「わわっ、これどうやって乗るんだろー」
死神がシートベルトで遊んでいると、係員が手伝いに来てくれた。
「このジェットコースターは、建った状態のような形でそこに背中を付け、後に足を入れます。靴ひもがしっかり結べているか、乗る前に確認してくださいね!」
「はーい!」
死神はしょうじを真似ておしりをジェットコースターに付ける。ベルトを固定すると、足を抑え込む。胸全体を覆う安全バー代わりの部分が降ろされると、死神も、しょうじもどれだけ動いても落ちなさそうだった。
「本格的だねぇ~」
安全器具の多さに死神が言う。
「じゃなかったら死ぬわ」
しょうじの声と共にアナウンスが流れる。まもなく始まるようだ。
「おおーっ!」
死神は突然身体を持ち上げられ、ゆっくりと回転してから背中が上、お腹が下と、うつ伏せの向きになってしまう。
「てかこれやばーっ。下見えじゃん。うちのスカート大丈夫だよね?」
しょうじは死神の不安を聞いて即座にどうなっているのかを見ようとしたが、自分もまた固定されていて動けなかった。決して彼女の下着が見たいからではない。彼女の不安を解消しようとしてあげただけなのだ。
プシュー。
入って来た扉とゲートが閉まり、しょうじと死神、そしてともに乗っている他人が全員出発する。
カタカタカタカタ……。
乗り場から出ると、ジェットコースターは遊園地内のしょうじたちが今来ているエリアを見下ろしていた。
「人がいっぱいだぁ!やっほー!」
死神が叫ぶと、下から手を振ってくれる人もいた。
顔が下を向いたまま、どんどん上る。乗車口は既に高かったが、それでは足りないというかのように急上昇し、体勢のせいで垂直に登っているのではないかと疑うほどだ。
「キャーこわーい!」
まだ登り切りそうもないのに後ろから叫び声が聞こえる。その女性の彼氏も笑っているようだ。
「おっと、来るぞ」
どんどん上っていき、しょうじたちは少しだけ下がる。ジェットコースターの真ん中地点がてっぺんを超えないと勢いよく下がりはしないのだ。
「キタキタキター!」
死神は足を押さえつけられている状態でもバタバタする。
ゆっくり下がっていき——
急降下。
重力に押しつぶされているような感覚に襲われ、二人の後頭部はシートに押し込まれる。体を揺らされ、左右にガタンガタンと揺れながら大きな上下運動も起こる。
「わぁ、いい眺め!次はあそこ行きたいなっ?!」
少しの良い眺めが与えられたと思うと、すぐ後に超高速ダイブが待っている。
そしてこのジェットコースターの山場。一つではなく、二つのループを通り抜ける。
視界が宙返り、頭がまたシートに叩きつけられる。気づけば死神の手がしょうじのを掴んでいた。
「キャーッ!」
「キャーッ!」
ジェットコースター定番の悲鳴も後方から聞こえてくる。
そして、
プシュー。
気づけばもう終わりだ。ジェットコースターに振り回されている時間が一瞬に感じたが、頭の後ろに残ってる痛さは長い。それがまたいいのだ。
乗り場に戻り、安全バーが外れる。
しょうじはスマホがポケットから落ちていないことを確認すると、ジェットコースターを降りようとした。しかし、立ちあがろうとしたその時、何かに引っ張られる。汗だくの死神の手だ。彼女の手が彼をぐっと握っている。
「も、もう終わったぞ」
席に座ったまましょうじが言うと、死神の顔が一瞬赤くなる。
「わっ、ごめん」
少しだけ死神の手が強くなり、その後すぐにしょうじの手のひらを撫でるように放した。
出口に行き、階段を下りる。
「あのさ、死神——」
「あのさ、ショージ——」
二人の声がコーラスのように重なった。しょうじの低い声が死神の高い声を押し上げる短いハーモニーのような。
「あっ、先言っていいぞ」
「しょうじが先に良いよ」
また二人の声が重なる。
「じゃあ」
「じゃあ」
……
「はっ、はははっ!」
「ふっ、ふふふっ!」
二人は顔を合わせた後、笑いを堪えて階段を下りる。
「ふふふ……ぶぐっ?!」
死神の頭の上にスマホの角がレンガのように落ちた。
「あらー、ごめんなさいねー!大丈夫ですかぁ?」
上から女性が顔を出している。
「ぐぬぬぬぅ。うちが死神じゃなかったら死んでるよ……痛い」
小声で言うと、階段を上ってスマホを返した。
「あははははっ!はっ」
「なに笑ってんの?ショージ。笑う時は一緒じゃん?何が面白いのかなぁ」
「あっ」




