三十四 サプライズ
死神が泣き出す。しゃっくりをしながら、服の袖で涙を拭こうとする。
「う、嘘だろ?」
しょうじは慌てて彼女の頬をナプキンで拭く。周りの客からの視線が冷たい。
「ご、ごめん、そんなに嫌がるとは思ってなくって!も、もしかしてディ〇ニー派?ごめんよ死神!」
しょうじは必死に謝るが、死神が言いたいのはそう言う事でなかった。死神が鳴いている理由は嫌だからではなかった。うれし泣きだったのだ。
「どうして……どうしてそこまでしてくれるの?ショージ……うちのために」
「どうしてって?まぁ世話になったしな、川や町中で死にそうになったときとか。さっきも助けられたし。お礼がしたくってな」
「だ、だってうちもショージのこと殺そうとしているんだよ?!」
涙目になった死神は全く周りのことを見ていないのだろう。先ほどの冷たい視線はなくなったが、死神の言っていることがちょっと引っかかっているようだ。
「バカ、お前ここで殺すとかいうな!」
「うん……」
しょうじは死神を何とか落ち着かせる。
「だって高いんじゃないの?」
死神が先に沈黙を破り、しょうじの残っているステーキを見つめる。
「ああ。高いさ。お前のせいでかかった金は信じられないくらい多いさ。このステーキもな」
「じゃあなんで……うちだって他の死神とそんなに変わらないのに……」
「変わるさ。俺の中では大いにな」
しょうじは自分のステーキを少し死神に分けてやった。
「俺のことを助けてくれる。一緒にいてくれる。正直、お前が嫌いだ」
話の合間に自分もステーキをナイフで切り取り、口に運んだ。
「俺はお前が嫌いだ。まだ四日目なのに、この一週間が人生で最高の一週間だって分かるんだ。お前はずいぶんとムカつくやつだけど、一緒にいて楽しい。一緒にいて楽しいのに、お前が俺を殺さなきゃならないから、お前が嫌いだ」
「それは愛の告白~?」
死神が冗談でしょうじを弄る。すぐに「ちげぇよ」などと返されると思っていたが、しょうじは否定しなかった。
「ち……いや、分からんな」
しょうじはまた一口食べる。
「あとお前、俺のステーキをもらっといて残したら許さんぞ」
「うん。うち嬉しい。めっちゃくちゃ嬉しい。ショージが気持ちよく死ねるように頑張るよ」
「うーん、嫌なふうに聞こえるなぁ」
後に、二人は周りのテーブルの客から変に睨まれて会計をするのだった。
▼▲▼▲▼▲
USJ。大阪と言えばUSJ。
しょうじは小さいときに何回か連れてこられたことがある。大きな感染症が何年か前にあり、遊園地がどこもすっからかんの時、しょうじはUSJに連れていかれたのを覚えている。あんなに混んでいるはずのテーマパークが、待ち時間ゼロでジェットコースターに乗れたのだ。今回はそういかないだろうが。
「お前は言ったことあるのか?」
USJのある駅に向かう途中、しょうじが電車内で死神に聞いた。
「ないよー。大阪来るのもほとんど仕事だしぃ、うちが生きてた時はそもそもUSJなんてなかったからねー」
「へぇそんなに……」
そうコメントしたと同時に死神ににらまれた気がしたので、しょうじは黙った。
「おし、降りるか」
駅からUSJまでは駅からそう遠くなかった。いつも、東京から両親に、車で七時間ほどかけて送ってもらうしょうじは、気づいていたら毎回到着していた。そのため、駅から歩いていく道は新鮮だった。
「まだ開演前だからきっと人が並んでるよ。あと二十分くらいかな」
しょうじはスマホを確認した。ついでに、園内の地図をダウンロードする。
「何年か前に追加された、このエリアに行きたいんだよね。めっちゃ」
「そうしてそんなに行きたいの?後ででもよくない?人気のエリアなんだったら混んじゃうじゃん。その間に空いてるところを回ったらお得っしょ!」
しょうじのスマホ画面を覗きながらエリアの部分に指差す。彼女は入口から線をなぞり、他のアトラクションに触れてからそのエリアまで指を動かした。
「それがそうとはいかないんだな。人気すぎて、入るための整理券があるんだよ。俺らはどうあがいても二時まで入れないって訳」
「今があとちょっとで九時だから、お昼食べてから行けるじゃん!」
「ああ、そうしよう」
二人は入場を待つ列の最後尾に並んだ。彼らの後ろにも後から来た人がすぐに列を伸ばしている。
周りには制服の女学生、おそろいのカチューシャを付けたカップルと、しょうじよりも若そうな人ばかり。自分が大衆の中で浮いているような気がして、背筋が震える。自分がこんなところにいて良いのかと。まだ死神の方が見た目的に、USJに行ってそうだ。
「ほらショージ、荷物検査だって!」
「ん?ああ」
しょうじは警備員にポケットの中のスマホ、そして財布を見せる。死神に関しては手ぶらだ。
「どうぞ~楽しんでくださいね」
女性の警備員に送られ、ゲートを通ると二人は園内にいた。園内の地図を確認する間も、辺りを見渡す暇もなく、後ろから押し寄せてくる人の波に連れられる。そうやらみんな同じ方向に向かっているようだ。新しいエリアだろうか。
「走らないでくださーい!」
警備員が歩道で拡声器を使って呼び掛けている。
「走らないでくださーい!」
その前を見たこともない速さで早歩きをする老若男女。そう、早歩きをする孫についていているのか、戦争から生き延びて良そうな人もいた。そんな人がいると、しょうじは自分が園内にいることを許されている感じがした。
「死神、ここで外れよう!」
しょうじは死神の手を引っ張り、ジェットコースターの方へ連れて行った。
「ど、どこいくん?」
「USJと言えばこれなのさ!」
しょうじは知っていた。これがこのパーク一番の乗り物だと。そして初めて来たとき、乗れなかった悲しみを。
「他の人に着いて行かなくっていいの?」
死神は遠くから人の川を眺める。
「お前、このジェットコースターを舐めるなよ?後で乗ろうなんて思ったら五時間待ちで乗れないんだからな」
「ご、五時間?!」
死神は頬を下に引っ張る。
「今一回乗って戻ったら並ぼうとしたら、きっと一時間以上には膨れ上がってるだろうな」
「げっ、じゃあほとんど待ってるってこと?」
「まぁ、そうなるな。そのためのデイパスだから。待ち時間の短いやつから乗っていけばいいのさ」
「任せたよ、ショージ。USJのプロ!」
「いやぁプロと言うほどでも……」
しょうじと死神は大きな門をくぐり、頭上の恐竜を眺めながらジェットコースターの列に並ぶ。幸い、入口の看板にはまだ十五分と書いてあった。




