二十九 もったいない
アラームが鳴り、死神は起こされる。睡眠を必要としない死神なため、眠りが浅くアラームの音で一番に起きた。かえってしょうじはうるさいアラームの中ぐっすりと寝ている。仕事のある今までと違って、休んでいると言うことに身体が許してしまっている。会社には病気で一週間ほど休むと伝えてあるが、会社の人たちはしょうじがこれきり戻らないことを知らない。死神に殺された後、病死ということになるだろう。
「ショージ、早く起きるって言ったじゃん」
死神が思い切り掛け布団を叩くと、しょうじは悲鳴をあげた。
「起きた?ほら今日どこいくの?」
「ちょ、今動けん……」
しょうじは掛け布団の上から急所を抑える。
「うちショージの目覚ましに起こされたんだからね?ショージ起きなかったんだからね?」
死神がしょうじを引っ張り上げると、彼は内股で階段を降りた。
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鍵を元の場所に戻し、しょうじと死神は家を後にした。朝ご飯を食べず、朝六時半に飛び出す。
しょうじはまだ死神にどこへ行くかを伝えていない。USJの前に朝ご飯を食べに寄るつもりだ。
「どこに行くかなんで教えてくれないのー?別にいいじゃん」
しょうじはICカードを改札にタッチし、死神は切符で通る。
「サプライズだと思ってくれ」
しょうじは死神の頭を撫でる。髪の毛が少し崩れてしまう。死神は爪で前髪を直そうと必死だ。
「とりあえず、朝ご飯だ。何か食べたいものある?」
死神は聞かれると、腹を服の上からポンと叩いた。
「ステーキの気分」
「朝から?ヘビーだな」
「じゃあ聞かないでよ!」
「悪いって言ってるわけじゃなくってな?」
「じゃあ早く行こ!」
死神はしょうじの腕を引っ張り、電車に乗り込んだ。
都会の癖に空いている電車はなんだか優越感があり、しょうじには気持ちがよく感じた。街が眠っているのに、自分が起きている。孤独とは違う静かな独りが、心地よい。電車の揺れに身を任せて、何も考えずにいる。
「もっとこういう時間が必要だったかもな、前々から」
絶対に時間が取れないと分かっていて言った。
しょうじが目を瞑ってみると、死神も同じようにしてみる。時々片目をあけて彼の様子を伺いながら。
「なぁ死神。そんなにくっ付くのをやめてくれないか」
しょうじはゆっくりと目を開け、自分の肩に寄りかかる死神を見下ろす。死神は目を閉じたまま、深く寄りかかる。
「髪の毛触っちゃうぞ」
「ダメ」
死神はきっぱりと答えた。
「なんでそんなにくっ付いてくんだよ」
「なんでダメなの?狭いからしょうがないじゃ~ん」
「お前そっち側にあんな場所あるじゃんか。あと、お前みたいなやつが俺に寄りかかってたら捕まるって、俺が警察に」
「うちが高校生に見えて、ショージが老けたおっさんみたいだから?」
「おい俺はまだイケメンな三十代だぞ」
しょうじが死神を引きはがそうとする。死神は自分で起き上がり、しょうじの膝を叩いた。
「うちなんて死んだのUSJの前だし。年齢だけで言ったらうちのほうが十歳くらい年上だから。うちの方が若く見えるから!」
USJにしょうじは一瞬固まった。
「そ、そうなんだ……でもほら、周りの人は年齢なんてわかんないから見た目で行くしかないんだよ。ね?」
「ん……」
不満そうに死神はしょうじから完全に離れ、反対を向いた。
「ショージ変だよ……」
「お前もだ」
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電車から降り、死神ちゃんのリクエストしたステーキのためにレストランへ向かう。向かう間、大通りを歩き、赤信号を待つ。
ふと、しょうじはスマホの地図から見上げる。赤信号。走る車。そして、横断歩道の真ん中にいる子供。親は近くに見当たらず、ただ小さな幼女が道路のど真ん中に立っている。これからひき殺されるという恐怖なんて一切見せずに。
助けなければ。しょうじは片足をアスファルトの上でずりっと進めた。
だがしょうじは思った。考えてしまった。自分はどうせすぐに死ぬ。だから自分が代わりに跳ねられてもいいだろう。しかしもう期限が迫っているのに、貴重な時間をこのために捨てるのか?もし助かったとしても、病院送りになったら残りの日々はベッドに寝たままだ。
もったいない。その思いがしょうじの足を一瞬止めた。
しょうじは腿を叩くと同時に飛び出した。向かってくる車と女の子をどちらも視界に入れながら。道路に踏み込んだ瞬間、舌を噛んでしまう。足がバランスを崩す。
最初迷ったために、いざ助けようと動いた時、しょうじの脳も、身体も、準備が整っていなかった。
転がり、アスファルトに手を付きながら少女を抱え込む。彼女を確保すると、車の進行方向から避けようとそのまま前に進んだ。しょうじからして、これが時間を無駄にせず幼女を退けることのできる方法。
しかし、車の運転手は少女を視認し、ブレーキを踏んだ。しょうじがさらに飛び出してきたのに驚き、今彼らが逃げようとしている方向にハンドルを切っていた。あと10メートル。
「ショージ、そっちは!」
死神が手を伸ばして叫ぶ。
ブレーキが間に合わない。少女以外の三人は察していた。
車に振り返ったまま、しょうじは女の子のために体を張る。運転手はブレーキを踏んづける。死神はしょうじを追う。
もうダメかもしれない。




