二十八 ホテルじゃない
「うちのたこ焼き……」
死神はまだ川にたこ焼きを落としたことを引きずっていた。
「ちなみに俺の金な」
「うちのタコ……」
「ちなみに俺の——」
「うちのたこ焼き……」
「あ、はい。一個譲ってやったんだからいいだろ?」
「良くない」
死神は腕を組む。
二人はそのまま道頓堀を進んでいく。
「九時だな、そろそろ帰るぞ死神。ホテルじゃないからチェックインとかは無いが、明日は早めに起きたい」
「はーい……」
死神はしょうじの言う事を聞くと、彼に着いて行って道頓堀を引き返して行った。途中でひとつ、最初来た時に見逃していた店が目に付く。死神は腕を縦にブンブン振りながらその店をしょうじが気づくように指差す。
「見て見て!たい焼き!」
「たい焼き?お前たこ焼きくったばっかだろ。一文字しか変わんねぇし」
「魚も食べたい!」
「魚は入ってないだろ」
「それくらい知ってるよ~やだなぁ」
「まぁ、最後にひとつくらい買ってもいいか。食べすぎると夜苦しくて寝られなくなるし」
しょうじは自分の腹部を服の上からさすった。まぁまだもう少し、たい焼きひとつくらい食べられるだろう。二人は人をかき分けて店に立ち寄る。
「あんこかカスタード、どちらになさいます?」
店員に聞かれ、死神は元気よく答える。
「カスタード!」
「じゃあ、こしあんで」
しょうじもひとつ頼むと、店員は小さな紙袋を取り出し、トングでたい焼きを持ち上げ、サッと流し込むようにたい焼きを中に入れた。
「毎度あり~」
しょうじと死神はたい焼きを受け取り、食べ始める前に道頓堀を後にした。道頓堀を見下ろすように、駅近くの端まで到着。人間の川でにぎわった川の両岸を行ったり来たりしながらたこ焼きを持つ。しょうじが自分のこしあんたい焼きを食べようとした時、横からものすごい視線を感じた。
「な、なんだよ」
「うちもそれほしい」
「カスタードって言ってカスタードもらったじゃんか」
「でもこしあんもほしい」
「ほら、貸せ」
しょうじは自分のたい焼きを半分に割ると、死神のも同じようにした。そして自分のたい焼きの頭と、死神のたい焼きのひれをくっ付ける。
「これで両方食べられる。どうだ?」
「うん!ありがとーショージ」
「ああ」
電車の中では食べられないからと、二人はゆっくり歩き、改札の前で最後の一口を食べた。
「よし、ちょっと予定変えたから、泊まるところが少し遠いぞ」
二人は大阪城の近く、森ノ宮駅まで電車で戻った。
「どんなホテルなの?」
死神がたい焼きの紙袋のゴミで遊びながら聞く。
「ホテルじゃなくって、人の家を借りてるんだ」
「人の家を借りる?」
「ああ。ホテルだって、部屋を貸してるだろ?それを家でやってるのと同じさ。個人が家をレンタルしてるんだ」
「それマジすごくね」
「よく詐欺がどうとか盗聴器がどうとかカメラがどうとか聞くけど……」
「それマジ危なくね」
「ほんの一部の例だけだから、ほとんどの場合は安全だよ。日本だし、さすがに100%安全ってわけじゃないけど大体事件が起きるのは海外だから」
「じゃあだいじょぶか」
「きっとね」
二人は京都での時と同じように裏路地を歩き、やっと目的地にたどり着いた。
「もう十時だわ。入ったら荷物置いてすぐ風呂入って寝る、いいな?」
「はい隊長」
「誰が隊長だい」
しょうじはスマホの通知を確認し、暗証番号を目の前の家の郵便箱に打ち込む。扉がパかッと開くと、中には鍵が入っていた。
「おー」
死神がそのカギを取り、家の扉の鍵穴に差し込む。
「開いた!」
玄関はとても狭く、入った先は左に階段、右に細い廊下と扉が四枚。
「ここは全部寝室っぽいな」
階段をあがると、リビングに到着した。キッチンにダイニングテーブル、ソファーにテレビとメインエリアが二階の様だ。三階に上がると、寝室が二部屋、そして屋上スペースがバーベキューのためにセットされていた。
「二人しかいないのに何でこんないっぱいベッドがあんの?」
死神が三階の寝室を覗く。
「本当は八人用だからな。一番安かったからここにした」
「じゃあ選んでいい?」
「いいとも」
死神はウキウキしながら一階に降りていき、寝室にひとつずつ入ってベッドの上に寝っ転がった。
ひとつ目はギシギシ鳴っていて、今にも崩れそうだ。
ふたつ目はグラグラと横に揺れて、これも今にも崩れそうだ。
みっつ目はシミがついていて、乗りもしなかった。
よっつ目は布団で、寝返っただけで全て外れてしまう。
死神は三階に上がり、ひとつ目の寝室を確認する。中にはエアーマットレスが一枚。布団も、枕も、何もなし。最後、三階のふたつ目の部屋に入ると、そこにはシングルベッドがふたつ並んでいて、片方にはしょうじが寝っ転がっていた。
「じゃあショージのとなりでいいや」
死神は一度寝そべって寝心地を確かめる。
「よーし」
「決まったか死神。シャワー浴びるぞ」
しょうじが隣でムクっと起き上がり、二階に降りる。
「風呂場はあそこだ。お前先入っていいぞ。死神は汚れないんだろうけど、どうせ入りたいとか言うんだろ?」
「ピンポーン!うち入る~」
死神はタオルを一枚肩にかけると、風呂場の扉を閉めた。
その間、しょうじは背もたれの取れそうな椅子に座り、ベトベトしたテーブルを見つけながら死神を待った。
「つい、いつもの癖で最安のにするのはダメだったな。まだあいつには言ってないけど。USJ、喜んでくれるといいな」
しょうじは一万円近いチケットを二枚購入した。
三日目終わり。
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