二十七 恥をかけ
通天閣を下りた後、しょうじと死神は新世界を離れ、再び電車に乗った。向かった先はしょうじが本当の食べ歩きを約束していた場所。そして大阪と言われたときにUSJ以外で最初に思いつくであるところ。
そういえばUSJ行きたいな。
——そう、かの有名なグリコポーズのある、あの川。
「ここどこ?」
死神が電車を降りて改札を出た辺りにしょうじの肩を叩いた。
「ここはな、多分大阪で一番賑わってるところだ」
「賑わってる?USJ?」
「USJじゃないわ。もっとこう、街みたいな、ってか食べ歩きができる街って言わなかったか?」
「じゃあ、新宿みたいな?」
「うーん、惜しいようなちょっと違うような。そういえばあの場所って結構ユニークだな考えてみれば。日本、というか世界にあんまりああ言うところないんじゃないかな」
「そんなすごい所なんだ?」
「そうネットで読んだ」
しょうじと死神はついに例のところに辿り着く。人の少なかった駅とは違い、ここはぎゅうぎゅうに人が川の両岸を埋め尽くしている。奥には片足をあげ、腕を横に突き出しているグリコポーズの真似をする人、ボートツアーを楽しむ人、そして沢山の店から食べ物を買い、食べ歩いている人がいる。
ここは、道頓堀。
「すっごーい!」
死神が橋の手すりから身を乗り出す。
「実際に来てみるとやばいほど人がいるな」
しょうじはスマホを確認した。八時。しょうじは辺りをみる。人だかりがとても八時とは思えない。住んでいる東京もこうなんだろうが、夜に出歩くことはあまりないし、出ている時は会社の残業でくたくた、そんな夜の街を楽しむなんてことはあまりしなかった。
「ここと言ったらまずはたこ焼きとグリコポーズだな」
二人は階段を降り、川の脇を歩く。向かってくる人の流れが川の流れよりも強そうだ。
「あっ、見て」
死神はたこ焼き屋を指差す。
「ここも行列だけど、他よりは短そうだな」
しょうじが並ぶ前にもう二人が間に入る。
「どこもかしこも人気で人だらけだな」
「自分の味選べるって!決めとこショージ」
「どれがいい?定番のソースとマヨか、醤油か、塩だってさ」
「やっぱりそこはデフォじゃん?」
「ソースマヨね?」
「うん!」
「三個か、六個か……」
「二十四個頼めるよ!」
「絶対そんな持てないわ」
「じゃあ六!」
「分かったよ。三個ずつな」
たこ焼きをソースとマヨ、六個で頼み、目の前で仕上がるのを見る。たこ焼きシェフがひとつずつひっくり返していく。
「はっや」
はっやと言う間にたこ焼きは出来上がった。
「熱いから気をつけろよ」
死神がたこ焼きを受け取るとしょうじは注意した。
「分かってますー」
死神は串でひとつ刺し、クルクル回転させながらフーフーと息を吹きかける。時々舌を当て、熱いか確かめる。
「だいじょぶそー」
「ほんとか?中は熱いぞきっと」
「マジDJB」
最後に小さくひとかじりした。死神の歯は思ったより深くいき、自分で刺した串に上顎が刺される。
「イッターい!」
死神が勢いよくたこ焼きを顔から遠ざけるとたこ焼きの玉はポロッと串から落ちてしまい、川に入った。
ぽちゃん。
「あっ」
「あっ」
たこ焼きの落ちたところの前を船が通り、乗っている十数人が死神を見上げる。
「あーあ~」
十数人が口を揃えてWiiスポーツのミスった時の声を出す。
「ねぇショージ、アイツら殺してもいい?」
「ヨクナイヨ」
しょうじは死神の肩を掴み、川を背にさせる。
「じゃあショージ、あーんして」
しょうじは串を死神の手から取ろうとする。
死神はそれをスッと遠ざける。
「チッチッチ」
死神は指を振る。
「なんだよ」
しょうじはまた串を取ろうとする。
死神がまた遠ざける。
「ショージが、口を開けるの」
「なんでだよ」
「うちが恥をかいたから、こんどはショージの番」
「自分で落としたくせに」
「あーん」
「自分で食べるって」
「あーん」
「まだ熱そうだし」
「あーん」
「いやだからいいって。いらないよ」
「あーん」
「だから」
「あーん。だからあーん」
「……」
「あーん」
しょうじは目をつぶり、ゆっくりと口を開ける。
「よろしい」
死神はしょうじが言う事を聞くと、串でたこ焼きを指した。
「まだか死神」
しょうじは目を瞑ったままたこ焼きを待った。
「喋ったら口に入れられないじゃん」
「すみません」
「はいあーん」
ぱくっ。
あまりの熱さにしょうじは吐き出しそうになるが、頑張って口の中で崩しながら喉奥から息を吹きかける。
「あっふあっふ!」
死神はものすごくニヤニヤしている。
「おー!」
船の十数人が過ぎ去っていきながら歓声をあげる。
「あいつら殺してもいいかもしれん」




