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二十五 写真

「あ、ねぇ見て」


 死神が人混みの中で突然止まったせいで、しょうじが彼女の踵を踏んづけてしまった。


「痛っ!」


「ご、ごめんな」


「もう!」


 死神が腕を組んでしょうじを向いた。


「急に止まったお前も悪いだろ」


 しょうじは息を吐きながらため息のように言った。


「ショージ……」


「なんだよ」


 しょうじは死神の視線を追う。その先には、見たこともないようなキャラのぬいぐるみが店の棚に飾ってあった。


「あれが欲しい!」


 死神はウキウキとしながらぬいぐるみに近づき、棚から降ろした。


「ショージ、これ買って」


「はぁ?買うって、なにすんだよそれで」


「可愛いじゃん!」


「どこが?」


 しょうじが死神の持っているぬいぐるみを見つめると、なんだかぬいぐるみの大きな目に魂を覗かれているような気がした。


「……」


 死神の手が緩み、ぬいぐるみを自分から少し遠ざけた。死神は下を向いていて、すっかりと黙ってしまった。


 しょうじはさっきの一言で彼女を気づつけてしまったのだと思った。死神と言っても、見た目も、心も人間。

 

「ご、ごめん。いや可愛いと思うよ?」


 さすがに今言うのは手遅れか。


「ううん。そうじゃなくって……なんかこう、懐かしい感じがするの」


「そうなんだ?」


 確かに、死神の目は気づつけられた、悲しい、というより懐かしい眼差しだ。

 死神も、もとは生きていた人である。女の子である。女子高生である。いったい何年前に死んだか分からないが、その時に流行っていたキャラかもしれない。あるいは、もっと小さいときに持っていたぬいぐるみかもしれない。懐かしの、思い出の品。生きていた時の記憶がないと言っている彼女なら、その懐かしい感覚だけが頼りなのかもしれない。


「……買ってやるよ」


「え、ほんと?やったぁ!」


 その懐かしいどうたらみたいなのが吹き飛んだみたいに死神は喜んだ。


 ▼▲▼▲▼▲

 

「こんなぬいぐるみに、い・ち・ま・ん・え・ん……クレカいったいどうなってんだろ。月の初めだから上限はまだまだ来ないと思うけど」


「死ぬんだから口座なんてどうでもいいじゃん!」


「お前なぁ……ちょっとは親孝行としても残しておきたいから」


 ちょうどその時、二人の観光客に方を突かれた。服装がしょうじと似ていたため観光客だろうと思った。


 だが、その観光客は金髪。死神のような染金ではなく、ナチュラル。外国人観光客のカップルだった。男性側はビルのように背が高く、女性はいろいろ大きい。死神よりも。

 まぁ死神はずっと茶色のローブを羽織っているので見えはしないが、おんぶした時によく分かった。風呂場では残念ながら分かりづらかった。良い感じに濃い湯気がセンサーシップのように。


 そのとき、しょうじはダメだと思った。学校で習ったレベルの英語じゃあ何も役に立たないし、死神はもっとダメだ。ハローで何をすればいいのだろうか。そもそも、この人たちが英語圏から来たかどうかなんてわからない。フランス語でも、イタリア語でも話し始めたらどうしよう。

 

「すみません、私たちの写真を撮ってくれませんか?」


 普通に素晴らしき日本語の発音で驚いてしまった。しょうじは言葉が出なかった。見た目で判断するのは良くないのかもしれない。でも明らかに外国人な顔立ち……


 俺より日本語うまくね?


「もっちろ~ん」


 しょうじが呆気に取られていると、死神が代わりに答えた。仕事の経験上、いろんな人を殺す(に会う)から驚いていないのだろう。


「ありがとうございます」


 外国人女性に連れられて、夜の街を歩く。気づけば、通天閣の前に立っていた。


「この辺でお願いします!」


 外国人カップルは通天閣を背景に二人で並んだ。スマホを受け取り、しょうじは何枚か二人の写真を撮った。少し下から、縦、横、いろんな写真を撮るようにした。なんだか二人が毎回ポーズを変えようとするので、何種類引き出せるか面白くなってパシャパシャと何十枚と撮っていた。


「も、もう大丈夫ですよ?」


「あ、はい」


 しょうじはスマホを二人に返した。


「お二人の写真も撮ってあげましょうか?」


 親切に女性が聞いてきた。それより男性は日本語が話せないのだろうか。ずっと黙り込んでいる。

 

「うーん、いや」


 どうせ、撮ったところで週末には死ぬ。

 そう思った。断るつもりだった。


「ねぇショージ、お願いしよっ!」


「え?」


「記念に、ね?」


 記念に……


「でも……」


「ショージ、写真が残るか残らないかが大事じゃないんだよ。その瞬間、思い出だから。写真に撮って、その瞬間を噛みしめるんだよ。自分はここに来たって思えるようにさ。ね?」


 本当は、自分がこの世界に生きていたって思えるようにって言いたいんだろう。


「お願いします」


 しょうじは二人に撮影を頼んだ。同じ場所に並び、死神と二人でぬいぐるみを持つ。


「笑ってよね、ショージ」


「うん」


 女性がしょうじのスマホを目の高さに上げる。

 

 パシャ。


 でも死神よ、そんな残すだなんて。


 遺すだなんて……


 ——なんて。


 余計終わりが怖くなるじゃないか。

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