二十四 串カツ
新世界の道は混雑していた。旧世界かなんかから皆移住してきたのだろうか。奥に通天閣も見える。
小さな店、アウトドアやインドアシーティング。多くの店が客でにぎわっている。ここのエリアはなんだかお祭りのような雰囲気だ。
しょうじは死神を引っぱって、真っ先に空いているアウトドアシーティングに腰を下ろし、串カツの注文をタブレットでする。
「ねぇショージ、二度漬け禁止、だって」
「ああ」
「どゆこと?」
「一度ソースにつけた串カツを二度漬けるなってことだろ」
「そのまんまだね」
「そのまんまだろ」
店員が注文した物を運んでくる。金属のトレイには大きな皿が運ばれていて、座る二人の間に置かれる。綺麗に並べられた串カツ、漂う脂っこい香り。
「どれがどれだ?」
聞くことができる前に二人のテーブルから店員が消えて行った。
「形で何とか分かりそうだな」
しょうじはタブレットで注文した串カツと目の前に並べてあるものを照らし合わせた。
「これはオレンジで三日月形だからかぼちゃかな」
「うん」
「こっちの緑の三日月形はきっとアボカドだな」
「えっ?!アボカドなんてあったの?」
「うん」
「ずるい!うちも欲しいー!」
死神がアボカドの串カツを取ろうとするが、さっき電車でのことを思い出して、一度ストップしてしょうじを見上げた。
「いいよ」
しょうじが許可をくれると、死神は頷いてゆっくりとソースに漬け、口に運ぶ。
「どう?」
しょうじが咀嚼する死神のことをじっと見ながら聞いた。指はタブレットの上でもうアボカドを追加で注文する準備をしている。
死神が口の中の物を飲み込み、串を綺麗に舐めとる。最後の油粕、アボカドの残骸まで舌を棒に絡め、無駄にしない。
「うーん。おいしい」
曖昧な声色で死神が評価した。
「でも?」
「おいしんだけど、でもなんだか想像通りの味なんだよねー」
「そりゃそうだろ。アボカドつを付けただけなんだから」
しょうじはタブレットから指を放す。
「じゃあ、もういらないってことだな」
「いや、もっとちょうだい」
死神がタブレットをしょうじから奪い取り、アボカドの串カツを追加で注文する。
「ハァ……安し、いっか」
タブレットを持って、串カツを形で分ける。
「こいつらは野菜っぽいな。こいつらはたぶん肉かな」
しょうじが分けると、死神は真っ先に肉の方から両手に一本ずつ取った。
「食べなくてもいいのに食いしん坊だなぁ……」
「いいのっ!しょうじだって別に女の子の画像とか見なくてもいいんだしね」
「おまっ?!」
しょうじはすぐにポケットのスマホに手を添えた。
死神はニヤニヤしながらたっぷりとソースを着け、かぶりと大きな一口で丸ごと串カツを食べた。
「ん?これ肉じゃない!ゴボウじゃん」
「ほらざまみろ。罰が当たったんだ」
「うちが当てる側なんですけど?!」
「今はただの観光客、でしょ」
しょうじは鎌のない死神の背中にジェスチャーする。
「まぁ……」
「ほら、これなら多分牛だよ。牛他のやつの二倍くらいするからな。味わって食べろよ」
死神はしょうじの指さす串カツを持ち上げ、両側をしっかりソースに漬ける。ポタポタと机に垂らしながら急いで口に入れ、すぐに飲み込む。
「ん~おいしい!もっと」
「味わって食べろって言っただろ」
「んーだってぇー」
しょうじはスマホを取り出して見る。確かにもうすでに六時近い。朝も、昼も食べていない。これは昼ではなく、もう夜ごはんだ。しょうじは腹ペコだ。しょうじは。
「お前お腹空かない癖に。おいしいだけで食べてるなら俺にも食べさせろ!」
死神の取った最後の牛カツを奪おうとする。
「うちが先だった!」
「俺まだ食べてないんだよ!」
二人が取り合ったが、串カツは互いの手から落ち、ソースの中にベチャリと入った。
「あっ!」
「あっ」
なんだか周りからの冷たい視線を感じる。一度つけた串カツを、二度目ソースに触れさせてしまった。
大きな音を立てて店員までが駆けつけてくる。
「何かお困りで?」
「ひ、ヒィッ!いえ、大丈夫です!お騒がせしました!」
しょうじは座ったまま頭をカクカクとお辞儀のように動かす。
「ごゆっくり……」
こちらを見たまま店員がゆっくり下がる。なんだか視線が強かった。
「ほら、急げ!」
死神としょうじは二人で残り全部の串カツを平らげ、使用済みの棒を机の缶詰に入れてからすぐに出る。会計はオンライン方式でやり、二度漬けを見てしまったであろう関西人から急いで離れる。
「あっ、隣にも串カツやってるところあるよ。って同じチェーンじゃん!」
「もっと遠くに逃げるぞ死神」
しょうじは早歩きで人ごみの中を進む。
「こっちも同じチェーンだ」
死神は信号の両側にあるコンビニよりも互いに営業妨害していそうな店ばかり見ていた。人が溢れかえっている新世界エリアからして、支障がないくらい客が多いんだろうか。
「もういいかな……」
しょうじは一度道の脇に止まる。起こった関西人の追手は元からいないようだ。
「そんなに慌てることなかったと思うけどねぇ」
死神もしょうじと一緒に、壁に寄り添った。
「それより食べた後にこんな動いたら吐いちゃうかもよ~?」
「お前がほとんどとったから食べてないわ」
「てへっ」
死神は拳を自分の頭に当てた。
「でもあとでまた食べ歩きとかできるところに行くんでしょ?串カツで座ってたからまだ食べ歩きできたとは言えないし……次はどこに行くの?その食べ歩きの場所?」
「いや、それはもう行くけど、その前に……」
しょうじは通天閣を指差した。ここから見ると結構大きく見える。もうすでに六時を過ぎていて、通天閣はライトアップもしていた。
「あれに登らないか?」
「ワァオ!いいねぇ~!」
死神は賛成し、二人は通天閣を見上げながらその方向に歩いて行ったのだった。




