二十一 回り道
三日目の朝。
しょうじと死神は焦っていた。
それはそれは急いで準備していた。
二人はしょうじの人背最後の旅行に来たはずなのに、昨日いろいろありすぎたせいで、普段一日十時間モニターをガン見しているしょうじも、死神も持たなかったようだ。
「もうチェックアウトの時間になっちゃうって!早くしろよ!」
トイレの外からしょうじがドアをたたく。彼も同時に荷物をまとめてすぐに出発する準備をしている。
「急かさないでよぉ……出るものも出ないって」
便座の上にいるであろう死神の声が個室の中から聞こえる。
「だいたい死神はトイレに行かなくってもいいだろ!透明かなんかになってその辺でちょろちょろしろよ!」
「うちのことが見たいっていうの?!変態!」
「ちげえぇぇーー!もうチェックアウトの時間だって!」
「ちょっと今集中してるから静かにっ!」
やっと自分の準備が終わったしょうじは素直に死神が出てくるのを待った。
「はい!」
「よし、行くぞ!荷物持ったな?」
「うん。そんなに多くないけど」
「よろしい」
二人はエレベーターに向かってすっ飛んでいく。
「しっかし、まさかこんなに寝坊するとは思わなかったな。昨日早く起きちゃったから目覚ましいらないとか油断してたな」
「ほんとだよショージ。何してんだよん」
「しばくぞコラ」
「ハイ……」
チーンと言う音と共にロビーに着く。
そして無事、時間内にチェックアウトを済ませる。
「ふうー。よかったぁ。あぶねぇあぶねぇ」
「次はどこに行くの?」
死神の質問に対してしょうじはニヤリと口を急な弧の形にした。
「大阪の街だよ」
「あのかの有名な遊園地の?!」
死神はとても目を光らせていた。これから行くところがとても楽しみで、期待でいっぱいのようだ。
「うちが死んでから作られたからさ、生きてる人が行ってるところは見たことあんだけど、自分で行ったことはないんだよねー」
「あ、えっと……そこにはいかない、と思う」
「え」
その一瞬で死神の顔から全ての楽しみが吸い取られ、抜け殻になったような顔だった。
「多分一日中やるものだし、並んでる時間がちょっとね……」
しょうじは死神の背中をさすって慰めながら駅に連れる。
「大阪に行くには……」
スマホの車両と電子表示の車両を照らし合わせる。
「あっちか」
新宿などの東京の駅ほどではないが、京都駅も広く、慣れるのは大変だ。
「ん?いやあっちか」
駅の中を彷徨い歩く間に、死神がしょうじの袖を引っ張る。
「なんか警告出てるよ」
しょうじは死神の指さす方向を見上げた。そこには新幹線の遅延を意味する表示がいくつもあった。直後にアナウンスが流れる。
「名古屋、横浜区間の大雨のため、一時間の遅延が予想されています。五分後にもう一度お伝えします。申し訳ございません」
しょうじはスマホを見る。自分たちの新幹線がちょうど電子掲示板の物と一致する。
「今のところ五十分遅れか……マジかよ」
「えー、どうするの?」
「普通列車で行くしかないな」
「どのくらいかかるの?」
「五十分……」
「……」
「あーもう!早く起きてもうちょっと寺回ってから新幹線ですぐに大阪ついて観光始めたかったのによ!」
しょうじは手に力を込める。
死神はしょうじの突然の大声にびっくりする。
「ごはん食べないとイライラするってほんとなんだ……朝食べてないもんね」
死神は独り言をしょうじに聞こえないように小さく言う。
「しょうがないか。落ち着け俺」
「まぁ、いいんじゃない?電車でゆっくりと。途中で何か面白いものがあるかもしれないしぃ?」
「そうだな」
二人は新幹線を諦め、普通列車のホームに向かった。
「ショージちょっと止まって?」
死神が歩き出してすぐ言うので、しょうじは足を止めた。
「お、おう?」
死神はしょうじの背負っているリュックを開け、中をゴソゴソ漁る。
「はい!」
死神がしょうじに手渡したのはリュックの奥底に埋もれていたグミの袋だった。
「朝ごはん食べてないっしょ?これなら買う必要はないし、その場しのぎで大阪着いたら昼ごはん食べればいいっしょ?」
しょうじはグミを受け取った。
「おう。ありがとな」
しょうじが機嫌を直したようで死神は満足そうな笑みを浮かべた。
「ふふ~ん」
電車に乗った二人は向かい合わせで大阪まで乗る。
「大阪と言えば食べ歩きだしな。串カツとかたこ焼きとはお好み焼きとか?」
しょうじは思わずよだれを垂らしそうになってしまうが、前を見ると死神の膝にはすでに水溜まりができかけている。
「関西弁ってどんな感じなんだろうね」
「本場の関西弁か……」
「京都弁?はあんまりわかんなかったし。そこまで気づかなかった」
「まぁ、異国に行ったみたいに言語が通じなくなるよりはいいだろう」
「そだねー」
「死神って他の国とか行くのか?」
「いやぁ余程のことがない限りは。うちがPersonal girlfriend になってあげられない……」
「勝手に行けないのか?仕事がなくても」
「それがダメなんだよねー」
「そうなのか」
二人は電車に揺らされ、県境を越えたのだった。




