二十 特別はいらない
満腹食べた二人は腹をそれぞれ抱えながら京都の道を歩く。レストランに向かう前は余裕があり、体をねじらせながら避けて、人の間を通っていた。それに対し、今は避けてもらっている感じだ。
「さすがに食べすぎたな……これより早く歩いたら吐きそうだ」
しょうじは20000円分の食事を無駄にするのが心配だった。
「ねぇー、うち夜景が見たい」
それに対し、死神は余裕そうだった。
「いいけど、どこで見るんだ?別にどこでも……」
しょうじは彼女が上を指していることに気づき、見上げる。そこには展望デッキの光る京都タワーがそびえたっていた。
「あれがいい」
「金かかるし、やだわ」
「えー、なんでぇ?ケチ」
しょうじは脛を死神に蹴られて呻く。
「おいマジふざけんな!」
「ねぇーしょうじいいじゃん別に」
「結構金使ってんだわ。まだ二日目なのに全部使い切りたくないわい」
「残念……しょうじも貧乏だね」
「お前ほどじゃねぇ」
「んぬぅー、ケチ」
「6000円以上すんだぞ?」
「……」
「じゃあ、これならどうだ?京都タワーか、こっちのクレープ――」
「クレープ!クレープ!」
死神はしょうじが言い終わる前にもうクレープの店に寄って行った。
「お前、食べ物にはほんとに目がないな」
「だってぇー」
注文の順番が回ってくる。メニューの物はどれもとてもおいしそうだと思ったが、さすがに焼き肉をたらふく食った後では食べられない。周りの人の持っているクレープを見限り、あんなものを食べたらお腹がはちきれてしまうだろう。
「うちはキャラメルイチゴチョコレートジェラートで!」
どっかの店の呪文のような注文を早口言葉のように言った後、死神はしょうじを見上げた。
「ショージは?」
「俺は、いいや」
「そう……?」
しょうじのお金を使っていつも食べている死神だが、それはしょうじと一緒に食べているからだ。こうも一人だけ注文していると、彼女の中の理論ではあまり納得がいかなかった。
「はい、キャラメルイチゴチョコレートジェラートクレープでーす」
店員が受け取り口で手を伸ばす。
「ありがとうございまーす……」
ちょっと元気のない声で死神が受け取る。
「ほら、ジェラートが溶けちゃうぞ」
しょうじに急かされ、死神は垂れてきたアイスを舐めながらかじりつく。
「ショージ本当にいいの?」
死神はもう一度チェックする。
「ああ。いっぱい食べたからな」
しょうじがまた遠慮したにも関わらず、死神はクレープをしょうじの口の近くに突き出した。
「んっ」
「なんだよ」
「んっ」
「好きじゃなかったのか?」
「ううん、んっ」
「お前もお腹いっぱいとか言うんじゃないだろうな」
「んっ、んっ!」
死神はクレープをしょうじの口に突っ込んだ。
「んがはっ!」
思わずしょうじは一口噛んでしまう。そしてイチゴをよく砕いてから飲み込んだ。
「うまいな……」
その言葉が聞きたかった死神はにっこりとした。これで安心して食べられる、とでもいうかのようにバクバク食べた。
「食べながら夜景を見るって話しだったのに……」
しょうじは嬉しため息をつきながら死神を連れて駅に入る。切符のいらないギリギリのところを歩きながら、外を見たりする。そしてやっと見つけたのは、京都の町を平行に見られる駅の通路。ガラスに覆われていて、暗い空と町の明かりが地平線で別れる。まるで波のようなスカイラインが広がっている。
「ワァオ!」
死神は窓に手を押し当てる。
「ほら汚いぞ」
そこまで高くなければ、街の中心部でとても明るい。だが、なんだかそれでも京都特有の、懐かしいような感じがする。
「なんでだろうな、この変な気持ち。初めて来たのに、ずっと知っていたかのような……」
「アニメの見過ぎじゃないの?」
死神の言葉がムードを壊してしまう。
「おら帰るぞお前」
しょうじは諦め、死神を連れて駅を離れる。お腹が落ち着いた今、彼らは昨日と同じ川を歩いてホテルに向かっている。ただ、今度は川の岸辺には下りない。
「昨日はここで最後かと思ったよ」
「え、ね。結構やばかったじゃん?今日も朝早くから大変だったし」
「なんだかでも明日どんな風に殺されそうになるのかが楽しみだな……やっば、俺もう頭壊れたわ」
「元々じゃない?」
「それはお前のことな。ポンコツがよ」
「ポンコツじゃないもん!」
そうして何とか、二日目も死を早めることなく、しょうじは就寝したのだった。
二日目終了。
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