十七 勉強
伏見稲荷大社から死神をおぶって離れる。死神の足で引き上げられてしまった服を引っ張り戻しながら彼女の下で腕を組み、時々休んだり、スマホの地図を見たりして歩く。
「よし、こっからは歩け」
「えーなんで?」
死神があたりを見ると、明らかに人通りが多くなっていると気付いた。しょうじは女の子をおぶっているところを見られて恥ずかしいんだろう。
「ねぇもうちょっと行かない?そしたら自分で歩くから、ね?」
「いーや、ダメだ」
今度こそはと死神の我儘を聞かず、彼女をストンと下す。
「そもそも最初から自分で歩けよ」
「ううっ。ショージにいじめられた……」
明らかに嘘泣きである。と言うか、言っている事だけで声は笑っているし、口元が上がっている。
「ほら、電車乗るぞお前。置いてくからな」
駅に入るしょうじの後ろを、ひょこひょこ疲れたとアピールをしながら着いて行く死神。しょうじに払わせた電車賃で乗り、空いた席にしょうじと向かい合わせで座って鼻歌を歌う。
「ふ~んふんふんふふ~んふん」
「今は死ぬ前提で使ってるから問題ないけど、もしこれでやっぱなしとかってなったら相当まずいからな」
「閻魔様だし、それはないよ。それにバタフライ効果が待ってるんだからやっぱなしはできないじゃん?」
「そうか……」
「ってか京都の電車ってなんだか新幹線みたいな椅子してるね!」
死神は窓の外から視線を逸らして立ち上がった。自分の座っているところから立ち上がり、向かい合わせのしょうじの隣に座る。
「これのことか?確かにな。なんでだろうな。人の真隣には座らないみたいな感じの今ではどうなるんだろうなこれ。他の人の足があったらちょっと座りづらいな」
「ねー、寝れないじゃん」
「寝るところじゃないだろうがよ。近畿はこんなデザインだって聞いたことあるな」
「じゃあ明日大阪を確かめに行かなきゃだね」
死神は自分の肩をしょうじの腕に擦り付ける。
「えへへ」
「えへへじゃねえよ。馴れ馴れしいわ」
「Your personal Shinigami☆じゃあないですか」
死神がウインクしながらピースサインをする。
「喧しいわ。なんで無駄に発音良いんだよ」
「あーっ。うちのこと、バカだと思ってんでしょ。ギャルだから勉強できないーってさ」
「実際バカだけどな。貧乏だし」
「わあぁぁーー!貧乏って言うなし!ちょっとくらいお金あるもん!」
「じゃあその金で電車賃払ってくれよ」
「ほれ」
死神は何かをポケットから取り出したが、しょうじは差し出された手のひらに何も見えなかった。
「は?」
「そこにあるって。見えない?」
「……見えない」
「でしょ?」
「死神の通貨は人間の目には見えないってことか……」
「ようやく分かってくれたんだね、ショージ!」
「ごめんな死神。俺が仕方なく出すか」
「まっ、手のひらには何にも乗ってないんだけどね」
しょうじは前言を撤回した。とてもこいつを殴りたい。しかしこれ以上殴ったら、こいつの数少ない脳細胞がいなくなってしまう……救えないバカだ……と、しょうじは思っていた。
「でも英語は学年四十位だったし。だからいいのよさ?」
「良くねぇよ。でも四十位はすごいんじゃないのか、何人中だ?」
「ひ、一クラス……」
「……」
「Your personal girlfriend! ってイケメン外国人彼氏が出来たら言わなきゃなーって、それだけ練習した」
「やっぱりとんだバカだわ」
「あーっ!言っちゃいけ何だよそういうの!こ、こんな若い子に……死苦死苦」
「死神の年齢入れたらババアだろお前」
「おいショージ!うちが一週間後って言ったからって何でも言っていいわけじゃないぞ?!」
「おっ、乗り換えだ」
しょうじは車内のアナウンスを聞いて電子看板を見る。
「ショージ?!聞いてる?!」
「ほら、降りるぞ」
死神を無視して、電車が停止し、ドアが開くと乗り換えに急いだ。




