十五 登り
千本鳥居。二人が次に行くと決めた場所はそこだった。
死神にからかわれてから、しょうじは銀閣寺に行く気を無くしてしまった。
「おい死神、あと何日と何時間だ」
「ええっと、五日と十一時間……ってまたうちを時計に使ってる?!」
隣で喚く死神を無視しながらしょうじはスマホいじる。バスが千本鳥居の近くまで行く間に今後の五日間の予定を立てている。ホテルなどの寝る場所、そして最後の最後家に帰るため。
「はぁ……」
ちょうど終わった頃にバスがついた。
「死神、降りるぞ」
清水寺、そして京都駅からはだいぶ離れているが、千本鳥居もとても有名な観光スポットだ。毎度おなじみのものに加えて、金髪、茶髪の頭が沢山ある。
「よし、登るぞ」
「えー、うち疲れるの嫌だよ?」
「あっそ、じゃあおいてくぞ」
「ひいっ。つ、冷たい……」
しょうじは張り切っていた。旅行なんてあんまりいかないし、特に楽しむ方ではないのに。今回の、人生最後の旅行ではなぜかものすごい積極的に観光しようとしている。しょうじも、疲れることは苦手なのに。
先を行くしょうじ、あとをのろのろつける死神。千本鳥居なだけあって、そこら中にいる沢山の守り神が、人々を見下ろしていると死神が言っていた。当然、他の死神もいるが、守り神に監視されていては、簡単にしょうじを狙うことはできない。
ようやく二人は本物の千本鳥居に差し掛かる。
「本当に千本あるのかな」
子供のような可愛らしい疑問を持った死神は早速数え始めた。
「一、二、三……」
「千本ってのはな、千本あるから千本鳥居なんじゃなくていっぱいあるって意味なんだよ」
死神が数えている間にしょうじが言う。
「あーねぇ、わかんなくなっちゃったじゃん!」
死神はしょうじの言葉を無視して、一発腕に拳を入れてからスタート地点に戻り、また数え始めた。
しょうじは少し笑いながら先を歩いた。彼女の、年を取らない死神なのに子供っぽさが可愛らしく見えた。自分のような毎日ロボットのように働いて何の生きがいもない癖に生き続けたい人よりも、彼女が生きているべきなのに……
「今誰かうちのことババアって呼ばなかった?」
遂に死神が千本鳥居の出口から現れる。先に歩いて行ったしょうじはとっくに外で待っていたのだ。
「あれ?千本無いじゃん!詐欺だ詐欺!」
数え終わった死神は大声で言う。
「コラ、黙れお前。他の神が見てるとか言ってたくせに。死神にも天罰が下るぞ」
しょうじが黙らせて先を急ぐ。
「もたもたしてたら今日これで終わっちゃうぞ。明日の昼ぐらいには大阪行くんだからさ」
「はーい」
そこから山を登る。多くの鳥居をくぐりながらどんどん上へと上がっていく。階段が無限に続くような気がする。
「あ、見て見てショージ!無料のおみくじがあるよ」
死神はいつの間にかしょうじを抜かすと、六角形の箱を振って札を一枚出した。
「んー、三十三番!」
張り紙の番号を見て照らし合わせる。
「げっ、吉のち凶だって」
「俺もやるか」
しょうじも箱を持ち、よく振るようにした。
番号が出たら張り紙の番号と照らし合わせる。
「凶のち吉か」
「え、ねぇうちそっちの方がいいんだけど?」
「交換できるもんじゃないだろ。先行くぞ」
登り続け、途中でラムネサイダーを買ってから山頂を目指す。
「ねぇまだぁ?」
「いやまだだ。半分くらいじゃない?」
「うそー?もう足ヘトヘトなんですけど。ショージおんぶしてくんない?」
「絶対嫌だわ」
しょうじは後ろを歩く死神と距離を取ってさらに上る。
「あー疲れたー、しんどいよー。あっ、見て見てまたおみくじ!」
おみくじを見るたびに瞬間移動しているのか、またしょうじの前に現れた。
「いいの来てよね!」
死神は縦にも、横にも、斜めにも振って振って札を取り出す。
「おみくじってなんかいもやるもんじゃぁないぞ」
しょうじが注意するが、死神は気にしない。そもそも死人に運気なんてあるのか。
「げっ、三十三番。よし、もう一回」
先ほどとおんなじ番号が出ると死神はまたシャカシャカと箱を振った。今度は台の上で転がしてみたり、札を取り出すフェイントを入れたりしてみた。
「来いっ!は?三十三番また?!」
死神は驚きを隠せない。
「あんたらこれ仕組んでないでしょうね!いいや、これ絶対仕組んでるっしょ!」
死神はこの辺りにいるらしい神たちと口論してる。
「ほら行くぞ」
だがその口論はしょうじによって短く終わり、死神は再び山を登らされる。
残りはそんなに長くなかった。平らな部分が多く、そこまで上がらない。気づけば、二人は頂上に立っていた。
「やったね!いやーマジチョロかったわ。余裕だったね」
死神は腰に手をあって額の汗を拭く。
見上げた先は巨大な盆地の中の美しい町!……ではなく森。
「木、木?!」
「木ばっかだな」
「キーッ!誰も見てなかったらこんな森吹っ飛ばしてやるのに!」
死神は不満だ。
「落ち着けって……」
「いや、そもそもそんなこと出来ない」
「とにかく、休んでる暇ないぞ。降りるんだからな」
「はーい。登りは疲れたけど、まぁ下りなら……」
「どうしたんだよ、上りは余裕だったんだろ?下りなんて一瞬じゃないのか?」
「そうそう、一瞬だってばー……あはは」
二人は存在しない京都の景色を存分に堪能したと、山を反対側の道で下り始めた。




