十四 口付けず
道の奥。
通り魔が走って近づいてくる。人ごみで逃げ場もない。
「まだ二日目なのに。他の死神にうちの邪魔をしないでほしい……」
死神は走ってくる男を見て言った。
「あれは死神がうちみたいに、一般人からでも見えるようにしてる」
「やばいだろ、話が違うじゃないか!俺こんなに死神に狙われてるの?!」
「……随分とあからさまになってきたし。ショージ、うちが引き留めるからその間に……」
しょうじを守ろうとしての言葉だった。だが、死神がしょうじの方を確認した時にはすでに遅し、しょうじは立ち上がって人に化けた別の死神の方に向かって行っていた。
「一般人が居るのに俺のせいで巻き込みたくない!」
しょうじは何も作戦を立てずに飛び込んだのだった。
「うらぁぁぁああ!」
ナイフを持った通り魔はしょうじを目掛けて走る。
「俺は自分のせいで他の人が傷つくのは嫌いだ!」
しょうじは構える。そして、相手も刺す準備をしながら走ってくる。
「うらぁぁぁああ!」
「おらぁぁぁああ!」
しょうじはかがみこみ、ナイフをかわすと通り魔を持ち上げ、270度回転させて背中を地面に叩きつけた。
「おらっ!」
「ぐはぁっ……!」
「うそ!」
しょうじの死神も信じられないという顔をしながら見ている。
通り魔がナイフを落すと、しょうじはそれを遠くに蹴る。
「貧乏、ここは任せな!早く二人で逃げろ!」
観戦者のなかから妙に見覚えのあるおじいさんが出てきた。他の何人かと一緒に通り魔を押さえつける。
「藤さん!」
死神は男性を見て言った。
「サンキュー藤さん!ほら、ショージ、行くよ!」
今度はしょうじが死神に腕を引っ張られて連れていかれる。人々をかき分けて逃げる間、誰かが通報したのか警察が来るのも見える。
十分以上して、人の少ない離れたところの道に辿り着く。
「もういいのか?逃げなくて」
しょうじは短い呼吸の間に言う。
「他にショージのことを狙ってる死神がいっぱいいて、全員飛んでこれるのに逃げても意味ないよ」
「そうか」
「ってか、さっきすごかったじゃん!正直、うちショージが死ぬかと思ったよー。そしたらうちが報酬もらえないじゃん」
心配してくれたことに感動しそうだったのに……
しょうじの心はまたもやどん底だ。
「母親から護身術教えてもらってさ。小さい時からずっと叩き込まれてたんだよ。絶対使わないって思ってたけど、なんだか体が勝手に動いて……」
しょうじの母親は偉大なのかもしれない。
「武道とかってこと?」
死神は自動販売機の隣に座り込む。
「いやっ、そうなのか?よく分からん。なんか部屋にめっちゃナイフみたいなのとか飾ってあったし、母親変なヒトだからなぁ。いつも知らない間に現れるんだ。本当に瞬間移動みたいに……」
どこからか馴染みのある視線を感じたしょうじは最後を小声で言った。
まさか本当に母親が来たのか?きっと気のせいだろう。
「まぁ、ってな感じで身体能力は人より高めってわけだ。他の死神から逃げ切るためにも必要だろう?」
「ふーん。うちもある程度戦えるから、うちが殺すまでは頼ってちょ」
「頼っていいのかそれは……」
しょうじは財布を取り出し、死神の座っている隣の自動販売機を指す。
「何かいるか?買ってやるよ」
「えっ、いいの?今日なんだかやさしいじゃん。ショージから何か買ってくれることなんてないのに」
死神は一本選んでボタンを押した。
ガタン。
炭酸のプシュッと言う音が鳴る。
「強いねこれ」
「強酸だからな」
しょうじは死神の飲んでいるところを見る。
「分けないかんねー。間接キス狙ってんなら」
見られていることに気が付き、死神はキャップを閉めてゆっくりボトルを左右させる。しょうじの反応を楽しみながら。
「ば、バカ言え!狙ってなんかないわ」
「ほんと~?うちとの間接キスがどうってことない、ってこと?」
「そ、そうだよ。別に何とも思ってないわ!」
しょうじは慌ててスマホに目先を送る。
「あっ、そうだ。次どこ行くか決めないと。まぁ、銀閣寺とかかなぁ」
「銀閣寺?いいんじゃない?」
死神は賛同したが、彼女は別のことを考えていた。別の企みを。
「じゃっ、行こっか。京都は東京ほど電車がなくて大変だねぇ」
「京都にも電車は歩けど、ここ盆地の端だからな。ほぼ山だし電車も通れないさ。ここはバスに頼るしかないな。ほら、それ飲んだら行くぞ」
「あぁ、うちもう喉渇いてないからのこり、ア・ゲ・ル」
半分くらい残っているサイダーをしょうじに渡す。
「ショージも飲んだほうがいいって。あんだけ走ったしさ」
「お、お前……」
しょうじは彼女の行動が信じられなかった。こいつ、死神だからって何でもしていいと勘違いしてないだろうか?
死神は横目にしょうじの表情を読む。
「だって、別にうちとの間接キスとか気にしてないんでしょ?ほら、飲みなよ。あったかくなって炭酸抜けちゃうよー」
彼女はわざとしょうじを急かす。
「くっ……」
しょうじは、唇がペットボトルにつかないよう飲む。ものすごい飲みづらく、炭酸の強さが喉を焼いた。死神がずっと隣で笑いをこらえているのも、もちろんわかっていた。
死ぬまでに、絶対今までの分仕返ししてやる。と思うしょうじだった。




