十 コンビニ
二日目の朝。
昨晩九時と早めに寝たこともあって、アラームを六時に設定していたしょうじは四時に起きてしまった。仕事の時はどんなに早く寝ても、遅く寝ても、アラームが鳴っても体が起きるのを拒むのに。なんだか学校の日はいつまでたっても起きないのに、休みの日はとんでもなく早起きする子供みたいだ。
布団の上に座り、暗い部屋を見渡す。さすがに太陽も出ておらずカーテンの隙間からは街灯の光が漏れる。しょうじとカーテンの間には未だぐっすりと眠る死神がいた。
しょうじはそっと近づき、手を伸ばす。寝た時とは違って、こちらを向いている。
彼の手が彼女の髪に触れようとしたその時、死神の目がパッと開く。
「なによ」
「あ、いやなんでも。ちょっと虫がついてたなぁって」
「あっそ。見えないのに?」
死神はそのまま起き上がり、服をもってトイレに入った。
どうやら完全には機嫌を直していないらしい。一晩寝たら忘れる人間の男とは程遠い。仮にも女の子だ。根に持つ、めんどくさいタイプの。まともに女性と話したことのないしょうじにとってはだいぶ難関だ。
「はぁ……今日の朝ご飯にビュッフェを予約してあるから喜んでくれるといいけど、あと二時間は待たなきゃだしなぁ」
しょうじは死神の機嫌を直そうと考える。
死神がトイレで着替えている隙にしょうじも着替えた。昨日のしゅぱつ直後に死神と選んで買った服だ。
「なぁ死神、朝ご飯の時間までまだまだだし、ちょっと散歩しない?すぐそこにコンビニがあるから何でも買ってあげるよ」
トイレから出てきた死神にしょうじが言うと、彼女は確かに反応していた。
「うん……まぁ行ってもいいけど」
つま先をトントンしている。
本当は行きたいんだ。としょうじは感じた。
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外にでると、真っ暗ではない。夜中とさほど変わらないが、微かに太陽の光が入ってきているような気がする。盆地なだけあって、あまり見えないが。
コンビニに入ると、昼のように中が明るい。店員もまあよくこんな朝にやっているなと思った。
「ほら、朝ご飯の邪魔にならないくらいの物なら何でもいいぞ」
そう言われた死神は、コンビニの通路を行ったり来たりして嬉しそうに商品を見る。
「ほんと昔だったら好きな物取っ手っちゃうんだけど、最近は防犯カメラがあるからねぇ」
彼女は犯罪者みたいなことを言いながら巨大なエクレアを取った。まぁ実際犯罪はしているのか。殺人を含めて。
「ほら、何にするか決めた?」
「うん。これ」
レジに行き、エクレアを購入する。
帽子をかぶった変な店員だな。角みたいなのが生えてる……?
「329円だ。貴様、袋はいるか?」
バーコードをスキャンした店員がため口で聞く。
死神が何か言おうとした途端、奥から店長が出てきた。
「コラ、貴様って言うんじゃない。いりますか、でしょう?君が、琉太くんが出張でいないからコンビニで寝泊まりして、朝早くから役に立ちたい。って言ってくれたんだから」
「あ、いえ大丈夫ですよ。袋はいりません」
しょうじはそう伝え、カードで払うとペコペコ謝る店長と、角のついた帽子をかぶる不思議な店員に見送られて出た。
「落とすなよ」
しょうじは財布をポケットにしまいながらプラスチックの袋を頑張って開ける死神を見る。
「大丈夫だって。んっ、なかなか開かない……」
死神は両手で袋のギザギザを引っ張るが、なかなか開かない。
「ほら、貸しな」
しょうじはエクレアを受け取ると、いろんな方向から試す。
「確かに開けづらいな……」
すると思わぬ方向から袋がびりっと破れ、エクレアが零れ出る。
「あっ!」
死神がダイブしてエクレアを受け止める。手と顔がチョコレートだらけだ。
「セーフセーフ!」
死神がエクレアを嬉しそうに持っている。
その顔に泥のようにチョコがついたまま食べる死神を、しょうじは笑うしかなかった。
「あっはははは!」
「な、なによ!」
「チョコが顔についてて……」
死神はポケットから手鏡を持ち出す。
「ぷっ、あははははは!」
「あははははは!」
二人は喉を鳴らしてホテルに戻った。
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