十一 膝の上
二度寝はかえって眠くなると聞くが、そんなものは死神には関係ないのだろう。コンビニから戻り、顔を洗った死神はすぐに寝てしまった。しょうじを目覚まし係として。予定通り、彼は彼女を朝ご飯ちょうどの時間に起こした。
「ほら、行くぞ」
しょうじは死神の身体を揺さぶる。
「えー、もう?」
「置いてくぞお前」
布団に潜ろうとする死神から掛布団を剥がす。
「いやーん」
死神は面白がって声を出した。
呆れたしょうじは布団を壁に寄せると、一人でスリッパを履いた。
「待ってよー今行くってば」
死神もしょうじに続いて部屋を出る。
「それでそれで?朝ご飯は何なのよさ!」
食事会場に向かう死神は、よだれを袖で拭く。
「さっきのエクレアだけだよ。あとは俺の分」
しょうじは少しニヤけている。楽しそうだ。
「えっ、いやそれはないじゃん。うちまだお腹空いてんだけど」
「お腹空かないんじゃなかったのか?」
「空かないけど食べたいから空いてるの!ハングリーとエンプティーは違うのよ、英検三級落ちた人」
「おい、黙れコラ。お前太っちまうぞ」
「死神は太らないの!」
二人は食事会場の受付に並ぶ。
スタッフが一組ずつ中に入れているようだ。
「えー、部屋番号をお願いします」
「207号室です」
「新嵜さんですね、どうぞあちらのテーブルへ」
中に入った死神はすぐに気が付いた。
「ワァオ!ビュッフェじゃん!」
そして、とてもはしゃいでいる。
しょうじがテーブルに荷物を置きに行く間、死神は既に皿をもって片っ端からすべての物を盛り付けて言った。
「これおいしそうだなぁ、うっわこれも、これやばー、なにこれー?!」
「お腹が空かないとか言っておきながら、あんだけ取りやがって。食べなくてもいいのに五千円も払ってやってんだから、感謝してくれよな」
死神が聞こえないところでしょうじは彼女を観察しながら呟いた。
「見てみて!」
テーブルに戻った死神は、大盛り山盛りの皿をずっしりと乗せた。
「混ざって変な味になっちゃってんじゃないのか?」
「混ぜる順番気を付けたから大丈夫」
そう言って、割り箸を取っててっぺんから食べ始める。都会でビルを崩すみたいに、上から徐々に、ひとつずつ食べていく。
「どうだ?」
自分の分をとってきたしょうじが死神の皿を観察する。もう半分ほど減っただろうか。
「さすがに餃子とチョコは混ざっちゃいけなかったね」
なんだかやばい実験をしていそうだった。
「お、おうそうか」
二人はおいしく、そしてまだ歩いても破裂しないくらいに食べた。
「よし、行くか」
二人は小量の荷物をまとめ、会場を出る。
今日は死神の治りかけた機嫌の完全回復、そしての他の死神に殺されないように京都を観光するのがミッションだ。
「じゃあまずは手始めに、定番の清水寺から行こうかな。どう思う?」
ホテルのフロントで死神と決める。
「あ、うち今見えてないから独り言になってるよ」
その言葉にしょうじは受付の方を見る。スタッフ一人、こちらを見ている。
恥ずかしくなり、しょうじは何も言わずに道路へ出た。
「ば、バスで行けるかな」
スマホで最短ルートを調べる。
「よし。ほら死神、行くぞ」
口に食べ物を含みながら死神はしょうじに着いて行った。
京都駅に着き、清水寺に行くバスを見つける。
「これだ!」
しょうじは死神を連れて乗り込んだ。死神がどうしてもというので、バスの券も買ってあげた。二人は後ろの方の席に座る。
「清水寺って、飛び降りて生きてたら願い叶うんでしょ?じゃあうち最強じゃん!」
死神はしょうじのスマホを覗き込む。
「いや、お前もう死んでるだろ」
「あ、そっか」
バスが動き出す。
「三十分くらいだから、九時くらいには着くかな?バスが二十分で十分歩く……おわっ!」
時間を確認するしょうじの膝を超えて窓の外を見る死神。
「東京都はちょっと違うね!」
死神は窓に手を当てる。
「仕事で京都に来たことないのか?」
しょうじはスマホをポケットにしまう。
「いや、来たことあるけどさ。殺して帰るだけだからあんまり見れてない」
「お前、公共の場なんだからもうちょっとワードチョイス考えろよ」
「はーい」
次へ次へのバス停に停まると、徐々に人が乗ってくる。
「お前が券買ってなんて言うから……誰か吸われたかもしれないのに」
しょうじが無駄に金を使わされたことを死神に言うと、彼女は突然彼の膝に手を置いた。
「うちがここに乗れば、場所は一人分じゃん?」
「は?」
「いやだから、うちがショージの膝に乗れば、席が空くじゃん?」
「いや、は?」
「お邪魔しまーす」
「ちょ、は?は?」
バスのなかのいろんな人にジロジロ見られながらも、死神はしょうじの膝によじ登った。
死んでいるはずの死神だけど、確かに膝に重りを感じるし、暖かい。というか暑い。
「えへへ、皆に見られれるよーショージ。あんまり気持ちよくないね」
「えへへじゃねえよ」
死神は背中をしょうじに寄りかからせる。髪の毛がちょうどしょうじの鼻に当たる。
「どぉどぉ?」
「マジで恥ずかしいからやめてくれ……」




