三章 第三十五話 後期試験
用語説明w
アルバロ
神族の男性で、ラーズの人文学部の同期。女好きで合コン好き。チャラく緩く大学生活を楽しんでいる。
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる。
ゴドー
鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性で空手部の先輩。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み
ケイト
茶髪の獣人女性。トウデン大学体育学部の先輩で柔道部。明るい性格、ふくよかな胸でキャンパス内でも人気が高い。したたかな性格のヤワラちゃん
試験
大学の前期と後期に行われる試験
単位がもらえるかどうかが決まる重要なテストだ
「くそー、ダメだったか…」
「アルバロ、これから試験なのに、何でダメなんだよ」
「単純に出席日数が足りなかった」
「…」
そんな悲劇もありつつ、試験は続いて行く
「ついに来たな、戦いの時が」
「そうだな」
俺達、人文学部の学生の戦い
それは、文化人類学の単位を得るための戦いだ
一つが、実施研修
フィールドワークなどに出て活動し、レポートを提出して単位と認められる必要がある
これを三つ、三年生までに終わらせる必要がある
もう一つが、大学生として当然の試験
前期、後期で毎回テストを突破しなければならない
「今回はやったぜ。前期の借りを返す」
アルバロが言う
「借りって…、前期のテストで赤点取ったこと?」
「そうだ。あの時は、まだ大学に慣れてなかった。だが、今回は違う」
そう言って、アルバロがコピー用紙の束を見せる
「凄い量だな」
「ラーズだけじゃなく、たくさんのノートをコピッた。これで、今回のテストは完璧なはずだ」
「ま、頑張ろうぜ」
俺達は、教室に入っていった
……
…
「どうだったよ」
テストを終え、俺はアルバロに声をかける
「…」
「アルバロ?」
呆然としているアルバロ
最初の自信はどこに行ったのやら
「………俺、たくさんのノートを集めたんだ」
「ああ、頑張ってたよな」
テスト前は、大学のコピー機が行列
講義ではホワイトボードやスライドが使われる
その中で手書きのノートを取るのは、昔から変わらないのだ
「でもよ、ノートを集めすぎて勉強する時間がなかったんだ」
「え、アホなの?」
策士策に溺れる
アルバロは、また赤点の危機に晒されるようだ
俺は、それなりにできたからよかった…
・・・・・・
今日は一年生、今期の最後の日だ
俺は、旧道場へと向かう
「おーう」
中には、寝ころんだゴドー先輩とロンが話していた
「ラーズ、テスト終わったか?」
「ああ、やっとだよ」
俺は道着に着替える
「こんにちはー」
「あ、ケイト先輩」
やって来たのは、柔道着を着たケイト先輩だ
「どうしたんですか?」
「来年の八武大杯の相談に来たんだよ」
「八武大杯?」
「ゴドーから聞いてないの? 八武大杯は、大学対抗のチーム戦だよ」
八武大杯
八つの大学の対抗戦
スポーツや格闘技などの部活でライバル関係でもある大学で、格闘技のチーム戦を行う伝統ある交流大会だ
シグノイアにある、トウデン大学、サイジョウ大学、カホク大学、キョウナン大学
龍神皇国にある、テンドー大学、メイソウ大学、コウゲン大学、セイコウ大学
この八つの大学は、ことあるごとに練習試合も行っている
「そんな対抗戦をやってたなんて知らなかったです」
「前期でやるからね。一年生は、まだ入部したてで出ることはないもの」
「チーム戦って、どんな試合なんですか?」
「柔道とか空手、剣道でよくある団体戦みたいな感じかな」
団体戦とは、チームで戦う試合形式のこと
八武大杯は五人対五人で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に戦う
勝星が多いチームが勝ちになるが、引き分けもあるため、同点の場合は代表選を行う
「ルールは東玉流の試合と同じ。道着を着て、打撃、投げ、極め有り。ただ、試合会場がケージになるんだよね」
ケージとは金網のこと
トウデン大学でも、武道館の地下にケージが作られていて練習ができる
壁際に押し込まれてからの攻防があり、これもテクニックであるため練習が必要だ
「来年は出ようよ、選抜戦」
「この雑魚共とか?」
「もー、二人ともかなり強くなったじゃない。もちろん、優勝は厳しいかもしれないけど、経験にはなるんだから…」
「そんな軽い気持ちじゃ、ランディの奴が許さねーよ」
「…」
ゴドー先輩の言葉で、ケイト先輩が黙る
ランディ先輩は、柔道部の先輩
柔術もやっていて、寝技が得意だ
ゴドー先輩の同期だが、ゴドー先輩は留年しているため、今は三年生だ
「…ランディ先輩と何かあったんですか?」
ロンが尋ねる
お前、聞きにくそうなこと、よく聞けるよな!
「…何でもねぇ。ちょっと忘れ物しちまったんだよ、八武大杯にな」
「めちゃくちゃ大きな忘れものだね」
「うるせぇな」
ケイト先輩が茶化す
「それに、ランディは休学するんだろうが。八武大杯には出れないぜ」
「え、そうなんですか?」
俺達は驚いて尋ねる
「そうだよ。ランディ先輩は、グラレイド柔術を習うためにギアに留学するんだって」
「スゲー、格闘技のために休学を…」
「あの人、普通に世界トップクラスの寝業師だもん」
「ゴドー先輩とどっちが強いんですか?」
寝技のランディ先輩と拳のゴドー先輩
興味あるじゃないか
「ラーズ、よくそういうこと聞けるよな」
「えっ、ダメ!?」
いや、ロンが言うな!
「…大学卒業までには決着をつけてーな。同じ学年になるしよ」
ゴドー先輩が言う
「ゴドーは留年、ランディ先輩は休学。全然違うけどね」
「うるせーうるせー」
ゴドー先輩が耳をほじる
「前から思ってたんですけど、ゴドー先輩とケイト先輩って、どういう関係なんですか?」
ロンが聞く
確かに
ケイト先輩、後輩なのにゴドー先輩とタメ口だし
「幼馴染ってやつだよ。小学校まで一緒だったの」
「面倒見てやってたんだけどな」
「どこがよ。私がいつもフォローしてたんだからね」
そんな二人のやり取り
おぉ…、鬼のゴドー先輩にもそんな人並みの昔があったなんて
「ラーズ、ぶっ飛ばすぞ?」
「えっ、何で!?」
「ムカつく顔するからだ」
「理不尽すぎる!」
そんな話をしていると
「あっ、そろそろ戻らなきゃ! 二人とも、来年も頑張ろうね!」
ケイト先輩が手を振って武道館に走っていく
「よし、俺達も稽古をするか」
「はい」
「お願いします」
今期の稽古収め…、かと思いきや、普通に春休み中も練習はあったりする
バイトもあるし、休みが欲しいなぁ…
「今日は、新兵器を見せてやる」
「何ですか?」
ゴドー先輩が持って来たのは、木の板に藁を巻いた、「巻藁」だった
「すげー、空手とかで見たことあります」
「ここも空手部だが?」
「いえ、そうですけど、あまり空手っぽくないじゃないですか。総合格闘技とか、キックボクシングっぽいから」
「空手は本来、どんな状況にも対処する技法だ。総合格闘技を逆輸入したって不思議じゃねーだろ」
そう言いながら、ゴドー先輩が巻藁の前に立つ
ドパン!
ゴドー先輩の拳が板に突き込まれてしならせる
「こうやって、腰を入れる、突き抜く感覚を身に付けるんだ。拳も固くなるしな」
「やらせてください」
「よし、一人百回ずつな」
「えっ!?」
「最初は拳の皮がめくれるから、テーピングを貼ってからやれ」
強くなりたい
今よりも少しでもいい
部活なら他にもある
女の子にもてそうな部活だっていくらでもある
でも、俺達はなぜか格闘技を選んだ
つらい
苦しい
でも、面白い
そう思いながら、今日も拳を振るうのだった
個人プロフィール
氏名:ラーズ・オーティル
人種:竜人
性別:男
学年:人文学部一年生(後期)
バックボーン:キックボクシング、柔道
得意技:ワン・ツー、ローキック、左フック、大腰
スタイル:
キックボクシングの基礎を習得、パンチとキックをバランスよく使う。左フックのカウンターが決まりやすい。
また、柔道技による崩しから投げへの連携を覚え始めている。
特記事項:
萎縮してしまう癖があり、本人も自覚して悩んでいる。だが、スイッチが入れば突っ走る所もあり、今後は試合数を積み重ねて冷静さを身に着けたいところ。
本人は不本意ながら、喧嘩という実戦を積んだおかげで、多少は改善の兆しが見え始めている。
フィジカルが強い方ではないが、東玉流ルールのやることの多さへ高い順能力を示している。
打投極をバランスよく身に着けていきたい。
ランディ先輩と八武大杯 二章 第二十五話 武部会3
明日、閑話を投稿して三章終了です
読んで頂きありがとうございます
次章開始前に、一章の最後に閑話を挿入予定です
閑話の番号が一時的におかしくなりますが、後ほど修正予定です(今後は各章最後に閑話入れるつもりです)




