二章 第二十二話 地下水路2
用語説明w
レイコ
ゴーストハンター資格を持つ有限会社クサナギ霊障警備の社長、ドワーフの女性で童顔だが年上。クサナギ流除霊術を修めた凄腕だが、社長の割に威厳と権限は少なめ
ビアンカ
クサナギ霊障警備の社員、ダークエルフの女性で元軍人、圧縮空気を推進力として利用するホバーブーツという変わった装備を使う。武器はククリナイフとハンドガン
ホフマン
クサナギ霊障警備の社員、魚人の男性で元ゲリラ兵の経歴を持つバウンティハンター。ゴツい体格と風貌で、見た目は完全にあっちの人。銃火器のプロでバウンティハンターの資格を持つ
カツーン…
カツーン……
俺たち自身の靴音が響く
地下水路は、水路の脇にメンテナンス用の通路が続いており、蛍光灯で薄暗いながらも照らされている
「気味悪いですね。本当に何か出そうです」
「実際に、出たから俺達が呼ばれたんだ」
ホフマンさんは、ごっつく長い銃を両手で持っている
「これはショットガンだ。ゾンビ野郎には、貫通力よりも破壊力だからな」
「ラーズ。私たちはプロだから、大船に乗った気でいなさい!」
そんなレイコ社長は、祓い棒を手に持ち、腰にはお札の束を入れたホルダーを付けている
「レイコ社長、それってプロテクターですか?」
「そうだよ。下は、清めた布で作った戦闘服」
「お払い棒を持ってるのに、巫女さんの服とかじゃないんですね」
「あ、袴の方がよかった? やらしー」
「いやいや、祓い棒にプロテクターと戦闘服って、アンバランスだなって」
「レイコ社長の体型で巫女服着ても、コスプレにしかならんしな」
「ちょっとホフマン、どういう意味よ!」
俺達三人は、話しながらも悪霊を探す
ちなみに、プリヤさんは地上で待機中だ
「レイコ社長! ビアンカと悪霊が接触。場所は直進後、二つ目の角を右!」
「了解!」
プリヤさんからの無線が入り、俺達はすぐに向かった
「グギャァァァァァッ!」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
立っていたのは、半分白骨化した人間…の上半身
背骨を身体から垂らして、宙に浮いている
髪は肩までの長さでぼさぼさ
スーツの上衣のようにも見えるボロボロの服を着ているが、その下には腐った肉と骨が露出している
顔は、頭蓋骨の眼下に濁った眼玉がはまっているが、顔の肉は三割ほどしか残っていない
口が異様に大きく、歯がギザギザと異形の様相だ
ガキィッ!
「ちっ…」
この悪霊は、手に銛のようなものを持ち、大きく振り回して襲ってきていた
「ビアンカ!」
「ごめん、社長」
「えっ、何が?」
突然、謝られたレイコ社長がキョトンとする
「こいつ、思ったよりも力を持っていたみたい。空間を封印された」
「…ほんとだ! えっ、まずいじゃん!」
レイコ社長が目を閉じ、そして焦り始める
「どういうことですか?」
俺はホフマンさんに尋ねる
「ああ、よくあることだがな。悪霊ってのは場を支配するんだ。地縛霊ってやつだな」
「地縛霊…」
地縛霊とは、その土地や建物に縛られた悪霊のこと
場所から動けない代わりに、その場所に対して特殊な能力や力を持つことがある
通常、浮遊霊よりも地縛霊となった悪霊の方が力は強い
「こいつは、どこかから流れて来た悪霊みたいだね。それが、それなりの時間をこの地下水路で過ごしたことで地縛霊となった。死んだ場所とは関係ない所で地縛霊になるなんて、珍しい霊障だね」
レイコ社長が考察
「グギャァッ! ゴギャァァ!」
悪霊が銛を振り回してビアンカさんを追いかける
ボゥッ!
ビアンカさんが、ホバーブーツのエアジェットを噴射
もの凄い勢いで飛び出す
「すっ、凄い! あんな勢いで…」
……ォォォォオオオッッ!
「うわわっ!」
ビアンカさんが、突如、真後ろから戻って来る
えっ、たった今、そっち側に行ったばっかりなのに!?
「範囲は狭そうだな」
「そうだよ、ホフマン。気が付くのが遅かった。レイコ社長も」
「うー…、ごめんよ」
レイコ社長が反省する
ドォン!
「ゴヒャァッッ!!」
ホフマンさんが、無言でショットガンを発射
その後も、油断なくショットガンを構えたままだ
「ど、どうなってるんですか?」
「空間が閉じられてるのさ。地縛霊がよくやる封印空間だな」
ビアンカさんが、鉈のような剣を構える
つまり、この空間は閉じられている
真後ろに進むと、反対側から出てくる無限ループになっているらしい
どうやってもこの空間からは出られず、悪霊から逃げ出すことができないということだ
「…悪霊って、そんなことまでするんですね」
「モンスターとは違う、元人間だからな」
悪霊とは、カテゴリーとしてはモンスターにもなる
だが、彼らは元人間であり、知恵や欲望がある
そのため、人間の知識を曲解して理不尽なルールを押し付けることがあるのだ
このように、モンスターとは違う対処方法が必要となり、ゴーストハンターというハンター資格が生まれたのだ
ズガァッ!
ビアンカさんが、悪霊の銛を持つ腕を切り落とす
ビアンカさんの剣は、ククリと呼ばれる大型のバトルナイフだ
「ビアンカ、どけ」
ホフマンさんの声で、ビアンカさんがエアジェットで飛び退く
ドォン!
ガショッ!
ドォン!
二連続で発射
悪霊の顔面が吹き飛ぶ
「はぁっ!」
レイコ社長が後ろで気合を発し、払い棒を立たせる
「…!」
すると、なぜか空気が変わったような感じがした
「よし、封印空間を押し退けたよ! 任せて!」
そして、レイコ社長がお札を投げる
柔らかいペラペラのお札が、カードのように一直線に悪霊に直撃
ボシューーーッ!
悪霊が、白い煙を吹き出しながら消滅した
「よし、終わったか」
「さぁ、帰ろう」
ホフマンさんとビアンカさんが言う
今回は、特にトラブルなく…
「あの、あれって…」
俺は、目の前に悪霊の腕が浮いているのに気が付いた
その手には、銛が握られたまんまだ
「うわぁぁぁぁぁっ!?」
ガギィィィン!
突然、その腕が銛をフルスイング
俺は、ギリギリ頭を下げて躱す
ズドッ!
ガッ!
ギィン!
「ちょっ、まっ、どうなってんのぉぉぉっ!?」
「おい、レイコ社長?」
ビアンカさんが振り返る
「ちょっと待って…。なるほど、そういうことか」
「レイコ社長、説明を」
ホフマンさんが言う
「…って、冷静に話してないで、助けて!」
銛を持った悪霊の腕は、執拗に俺を狙ってくる
「いや、意外と余裕あるなって」
「あるように見えるの!? 目薬使えっ!」
俺の顔の真横を銛が通り過ぎる
「この野郎!」
思いっきり拳を握り込み、鉄槌で悪霊の腕を叩き落す
グシュッ…
肉が崩れるような、気持ちの悪い感触
だが、その甲斐あって銛が落ちる
チャンス!
「ラーズ、待って!」
「え?」
レイコ社長が大声で言うが、俺は止まれずに銛を蹴り上げる
「あー!」
「どうした、レイコ社長?」
「ビアンカ、追って! その悪霊は、銛に囚われた浮遊霊。本体の地縛霊は、その銛の方だよ!」
「何っ!?」
ビアンカさんが腰を落とす
ボゥッ!
その直後、エアジェットでビアンカさんが飛び出した
俺が蹴り飛ばした銛が、そのまま水路の奥へと逃げ出そうとしている
まるで、蛇のように
しかし、ビアンカさんはメンテナンス通路を蹴って、水路の壁を蹴り、立体的に動いて銛の真上へ
天井を蹴って、銛を空襲、掴んでこっちへと投げる
「社長!」
「ナイス!」
レイコ社長が、お札を突き出して銛を受け止める
その直後、銛からも白い煙が吹き出す
銛は、いきなりボロボロになっていき、朽ちて崩れてしまった
・・・・・・
「いやぁ、まさか銛が本体だなんてねぇ」
レイコ社長が頭をかく
片付けを終え、俺達は地上へ向かう
「いやぁじゃない。霊力見たら分かったんじゃないのか?」
「あっはっは。そんなに簡単じゃないのよ、霊視ってやつは。…でも、プリヤには内緒にしとこうね」
「…」
ホフマンさんが肩を竦める
「ビアンカさん、ホバーブーツ凄かったです」
「そうか?」
「はい、カッコよかったです。忍者みたいな動きでした」
「高機動が売りだからな。制御は難しいが、この装備の汎用性はピカイチだ」
「汎用性…」
あの人間離れした動きと速度
確かに、どんな悪霊の攻撃も避けられる気がする
そんな俺を見て、ビアンカさんが言う
「…そんなに気に入ったのなら、ラーズもやってみるか? ホバーブーツ」
「え? 俺でもできるんですか、やったことないですけど」
「誰だって最初は未経験だ。私も特殊部隊に配属になって初めて触った。当然、最初から使えたわけでもない」
「そうなんですか…」
「ラーズがやりたいのなら、教えてやってもいい」
「…本当ですか?」
「ラーズは、この会社のクソみたいな職場環境で続けられる、貴重な戦力だからな。特別だ」
「ちょっと、聞き捨てならない!」
「それなら、やってみたいです。ビアンカさん、本当にかっこよくて、憧れました」
「そうか、そうか。それなら、手解きしてやろう。かなり難しいが、途中で投げ出すんじゃないぞ」
ビアンカさんは、満更でもない感じてで言う
「コラー、無視するな!」
「…」
そんな俺を、レイコ社長とホフマンさんが変な目で見る
「どうしたんですか、ホフマンさん、レイコ社長」
「ま、頑張れよ」
「ラーズ、やめないでね」
「?」
後日、軽はずみにホバーブーツをお願いしたことを後悔するのは、また別の話




