二章 第二十三話 武部会1
用語説明w
フィーナ
ノーマンで黒髪、赤目の女子。ラーズの義理の妹で、飛び級でハナノミヤ聖女子大学に進学。クレハナの王族であり、内戦から逃れるために王位を辞退して一般家庭に下った。騎士の卵でもあり、複数の魔法を使える。
ロン
黒髪ノーマンの男性。トウデン大学体育学部でラーズの同期。形意拳をやっていたが、ゴドー先輩の強さに感化されて総合空手部に入部。熱い性格で、ラーズとよくつるんでいる
ゴドー
鬼のゴドーの異名を持つ獣人男性。ケイト先輩の一年先輩だったが、留年して同期になった。好戦的な性格で、体格とセンスにも優れる。その実力はプロの格闘家を並み
「暑くなってきたね」
「寒いよりいいけどな」
俺とフィーナは、午前中をゆっくりと過ごす
今日は、お互いに午後授業のみだ
「大学はどうなんだ?」
「まぁ、ぼちぼちかな」
「お貴族なお嬢様が多いんだろ。大丈夫なのかよ」
「合わせることはできるから。でも、ブランド物の話とかが多くて、あんまり面白くないかな」
フィーナは元王族
しかし、一般家庭である俺の家に養子として入った
そのため、仕送りは俺と同額
お嬢様たちのお高い買い物は、とてもじゃないけどできない
「ドースさんは、仕送りしてくれるって言ってただろ。貰えばいいじゃん」
「それじゃあ自立って言えないもん」
「まじめだな…」
バイトしなくても好きなものを買える
最高なのに
「ラーズ、今日は?」
「あ、忘れてた。部活の飲み会があるんだって。ご飯はそれぞれで」
「ふーん。それじゃあ、私も遊びに行こう」
「どこに? 誰と?」
「急に何よ。詮索して」
「だって、フィーナはコミュ障で友達作れないタイプなのに…」
「失礼すぎる! ラーズに返す! 誰がコミュ障、異議ありすぎる!」
「ラップかよ、韻踏むの上手いな」
「…」
フィーナも言った後に気がついたのか
赤面してしまった
俺達は、準備をしたあと一緒に部屋を出る
「えっ、男がいるのかよ」
「男って、友達の彼氏だよ。四人で遊ぶだけだし」
「でも、気をつけろよ。男は男なんだから。女子大生を口説いたってことだぞ」
「心配しすぎだよ」
「俺はお兄ちゃんとして…」
「ふーんだ。ラーズには関係ないでしょ」
言いながら、階段を降りる
すると、ちょうど103号室のビタリさんが帰ってきた
「こんにちは」
「ああ、出かけるのかい?」
「はい。今日は午後から授業なんです」
「そうかい、行ってらっしゃい」
そう言うと、ビタリさんは部屋に入っていった
「疲れてたね」
「警備の仕事って言ってたっけ。夜勤明けなんじゃない?」
「仕事って大変だよな」
俺達は学生
学校に通えるのは当たり前じゃない
ありがたいことだ
・・・・・・
講義 現代歴史学
その名の通り、ここ百年くらいの最近の歴史を取り扱う授業だ
「…」
俺は、発掘とかをやる古代の歴史が好きなため、現代の歴史にあまり興味はない
だが、この授業は必修科目
頑張らねば…
「現代歴史学は、龍神皇帝国の分裂から始まる」
講師がスライドを進める
龍神皇帝国とは、俺の実家がある龍神皇国の前身
約百年前に崩壊し、六つの国が独立、皇帝国は皇国として再出発した
その崩壊の原因は民族の弾圧と言われている
…当時の皇帝は、皇帝国内に住んでいた魔竜族という民族を反逆の意志有りとし、徹底的な弾圧を行った
その手法は民族浄化であり、民族を消し去る虐殺
しかし、この皇帝国の動きに他の民族が立ち上がった
それ以前にも、特定の貴族の後ろ盾を持たない民族が不当な扱いを受けており、反発があった
この状況下でのジェノサイドが後ろ盾を持たない民族の危機感を煽り、反発の火種が爆発、独立戦争を引き起こしたのだ
この時に発起した国は六つ
シグノイア
ハカル
クレハナ
バティア
クシュナ
黒色
皇帝国は、皇帝と貴族、その取り巻き民族と、後ろ盾を持たない外様の民族の睨み合いとなり、皇帝国全土が内戦状態となった
当時は外交的にも危うい時期であり、当時の皇帝は、もはや龍神皇帝国の存続は不可能と判断
六つの国の独立を認め、実質的に龍神皇帝国の終焉を認めた
同時に、皇帝国の国土の約七割を受け継いで龍神皇国が樹立
皇帝国という超大国の崩壊は世界各国に影響を与え、近世から現代への歴史の大転換となった
この現代歴史学の発端の出来事を「龍神皇帝国崩壊」と呼ぶ
もっとも、龍神皇国は龍神皇帝国の崩壊を公式には認めておらず、龍神皇国である現在の姿は一時的なものとしている
よって、龍神皇帝国崩壊は通称である
・・・・・・
「おーう、ロン」
「ラーズ、授業は終わりか?」
「うん」
俺達は総合空手部の道場へ向かう
道場には、もうゴドー先輩が来ていた
「お前ら、おせーぞ」
「授業終わってすぐに来ましたよ?」
「さぼれよ、今日くらいは」
「いや、必修だから無理ですって。…今日くらいは?」
「前に言っただろ。今日は飲み会だぞ」
「ああ…、言ってましたね。ケイト先輩が」
ロンがすかさず言う
「まぁ、いいや。今日の稽古は早めに終わる。お前らはケイトの手伝いをしろ」
「はい」
「了解っす」
最初の稽古はシャドー
ジャブ、ワン・ツー、ワン・ツー・スリー、そしてフォー
「フォームを崩すな。腰をしっかり回せ」
「はい!」
「パンチの源は腰の回転だ」
「はい!」
しばらくパンチを繰り返す
「次は蹴りだ。右ミドル、左ミドル、始め!」
「はい!」
空を突き、蹴る
コンビネーションを身体に覚え込ませる
「よし、次は、動きながらだ。前に進みながら、突き、蹴りを好きにやってみろ。始め!」
「やーっ!」
前に出ながら突き、蹴り
ワン・ツーから左ミドル
ストレート、ジャブの逆ワン・ツーから右ミドル
思いつく限りのコンビネーションを打っていく
「しゃあぁぁっ!!」
道場は狭いため、すぐに壁まで到着
すかさず後ろを向き、また反対の壁までコンビネーションを打ちながら進んでいく
「はぁ…はぁ…」
いつも思うが…、本気できつい
たかだかパンチやキックを何回か打つ
たったそれだけ
時間にして数分、しかも三分以内
それなのに、この呼吸の乱れ具合だ
「きつい…」
「あぁ…」
俺とロンは畳に大の字
もう動けねぇ…
「おら、立て」
「ぶぎゅっ!?」
「ぐがぁっ!!」
ゴドー先輩が、平然と俺とロンを踏みつけて通り過ぎる
「ひ、酷い…」
「人間じゃねぇ、どんな血の色をしてやがるんだ」
「うるせぇ、休んでもいいが、立ったままにしろ。そうすりゃ、少しはスタミナがつく」
「…」
ゴドー先輩に言われて、俺達はフラフラと立ち上がる
「それじゃあ、今日は時間がねぇ。最後に打ち込みをやるぞ」
「柔道じゃないのに打ち込みがあるんですか?」
柔道の打ち込みとは、技をかける直前まで入る練習のことだ
「空手の打ち込みはもっと簡単だ。サンドバッグに蹴り続けるだけでいい」
ゴドー先輩が、ぶら下がった二つのサンドバッグの間に立つ
「ラーズは右、ロンは左。俺がいいと思うまでミドルを蹴れ」
「え…」
俺とロンは、それぞれのサンドバッグの左右に立つ
ゴドー先輩は、両脇のサンドバッグを二つ押さえる
「1!」
ロンが左ミドル
俺が右ミドル
揺れる二つのサンドバッグをゴドー先輩が支える
「2!」
ドシッ!
バシッ!
「3!」
「はぁっ!」
「らぁっ!」
「4! …どっちが先に止まるかだなぁ」
「…っ!?」
「…!!」
「5!」
「せぃっ!」
「ふっ!」
「6!」
ドンッ!
バシッ!
………
……
…
し、死ぬかと思った
ロンと俺の目線がぶつかる
おいおい、何なの、その眼
絶対に負けねーからな
こ、こいつだけは
こいつにだけは負けられねぇ!
そんなチキンレースは、ケイト先輩がやって来たことで更にヒートアップ
やめられない、止まれない
地獄のような、男のプライドを削り切る稽古だった
「こ、この…、意地……はるんじゃ………ね…え…」
「こ、こっちの……セリ…フ……ふぅ…ふぅ…」
「俺は……もうちょっ……と…やっても……はぁ…はぁ…」
「お前…ケイト……先輩……来たから……だろ…」
「ロン…こそ……」
そんな俺達を、ゴドー先輩とケイト先輩が見下ろしている
「二人とも、熱入ってたねぇ」
「すぐへばりやがって」
「もー、ゴドーったら。でも、これだけ動けるならランディ先輩に紹介できるね」
「…どうだかな」
そう言うと、ゴドー先輩が俺達に言う
「おら、寝てねーで汗流してこい。これから、ぶぶかいの準備だぞ」
「二人とも、よろしくね」
そう言って、ケイト先輩が俺達に水を渡してくれた
ぶぶかい?
俺達はフラフラしながら立ち上がった




