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二章 第二十話 冷遇


龍神皇国 中央区



「このスコーン、美味しい…!」


「でしょう? 私も好きなの」


フィーナは、セフィリアに連れて来てもらったティーラウンジで感嘆する


「こんなお店に来ると、ちょっと大人になった感じがする」


「ふふ、楽しいのならよかった」



フィーナは、龍神皇国騎士団の訓練に参加した

魔法使い適性が高いため、後衛職の訓練に参加させてもらったのだ


「魔法使い系の騎士が褒めてたわよ。まだ十六歳なのに凄いって」


「そんなことないよ。セフィ姉はもっと凄かったし、ピンクなんて騎士学園で無双してるんだから」


フィーナは知っている

セフィリアが騎士学園時代に、魔法と特技(スキル)を合わせて属性を極める奥義を習得していたこと


年下のピンクは、特技(スキル)の頂点の一つであるブレスを使いこなし、フィーナが一度も出来なかった騎士学園生徒同士の試合、総合闘武大会の優勝を果たしていることを



「私なんてまだまだだよ。あーあ、私もラーズと同じ年だったらなぁ」


「どうして?」


「ラーズとヤマトが最後の年に凄い試合をしたでしょ? …ちょっと羨ましかったから」


「重属剣とプチ奥義のぶつけ合いね」


「うん」



ラーズの重属剣は、輪力と魔力、闘力を一つにして爆発させる必殺剣


ヤマトのプチ奥義は、ポーションなどで魔力補助を行い、特技(スキル)と魔法で土属性を跳ね上げる一撃



準決勝でぶつかったが、実質の優勝決定戦

この激戦を制したのはラーズだった



「フィーナも複合魔法があったじゃない」


「私のじゃ、発動速度が足りなくて勝負にならないよ」


「同じ年だったら? 今年か来年のフィーナなら」


「それを試したい。試したかったの。悔しかったなぁ」



フィーナは二歳年下

成長期の騎士学園の生徒にとって、この差は大きい


フィーナの魔法の実力は高い

もし同じ年ならば、セフィリアやピンクに負けない才能を秘めている



「あの年で、あれだけの魔法が使えるのは凄いって、騎士達が言ってたわ」


「でも、やっぱりプロの騎士の人たちには勝てないもん」


「もうすぐ範囲魔法(中)に成功しそうなんでしょ。これからよ」


「うーん…」


「フィーナ、上だけを見ても仕方ないわ。大切なのは、自分の実力でどうやって課題を解決するか。そして、実力を伸ばしていくかだもの」


「うん。私もプロの騎士の人たちが使う、あんな魔法を使ってみたい」


フィーナが見てきたプロ騎士の魔法

それは、範囲魔法(大)


範囲魔法(中)は、プロの魔法使いの必殺技

銃と並んで人類の主力兵器の一つだ


だが、この更に上の魔法として(大)が存在する

超広範囲攻撃、しかも高火力


才能と努力の二つを持たなければ得られない、選ばれし者の魔法だ



「フィーナなら、大学を卒業する頃にはできるんじゃないかしら」


「そうかなぁ…」


「卒業後、うちの騎士団に来ない?」

セフィリアが尋ねる


「行ってみたいけど…」

言い淀むフィーナ


フィーナはクレハナの王族

第四位の王位継承権を持つれっきとした姫だ


そんな立場であるため、騎士という危険な仕事を簡単には選べない



「…ラーズとの生活はどう? 仲良くやってるの」

セフィリアは話を変える


フィーナに騎士団に来てほしい

しかし、フィーナの境遇を理解しており、今すぐに結論が出ないこともわかっている


だからこそ、今議論をする必要もない



「普通かな。何度か喧嘩したけど」


「何を?」


「ラーズ、お皿洗いを食べてすぐやらないんだよ。それなのに、片付けには変にこだわって文句言ってくるし」


「あらあら。二人で遊びに行ったりしないの?」


「行ったよ、映画に」


「仲良くやってそうね」


「そんなことなかったの! ラーズったら、変に照れて誘ってもなかなか、うんって言わないんだから」

フィーナがプリプリする




「ラーズ、この映画見に行きたい」


「えー…やだよ。フィーナとなんて」


「どうしてよ」


「妹と一緒に遊びに行くなんて恥ずかしいだろ」


「兄妹で映画って変なの?」


「変………じゃないか、別に」


「そうだよ。これ、すごい感動するんだって」


「俺、怪獣が暴れるこっちの方が…」


「私が先に誘ったんだからダメ」


「理不尽すぎる!」




………




……








「どうだった?」


「…まぁまぁ、だったな」


「泣いてたでしょ」


「ほっとけ。フィーナこそ目が赤いぞ」


「私は元から赤目だよ!」


「知ってる、冗談だろ」


「私と映画、楽しめてよかったね」


「ふ、普通に楽しかったよ、ちくしょー」


なぜか悔しそうなラーズ

すぐ勝ち負けで考える、変な癖だ



「フィーナこそ、楽しそうだな。俺と出かけられて嬉しかったのか?」


「ポンポンするな、子供扱いするなー!」


怒りながらもフィーナは続ける


「…私、お城で育ったから誰かと出かけるとかなかったから。騎士学園でも寮生活だったし」


「そ、そうか」


「ラーズがいてよかった」


「…また行こうな」


「しょうがないなぁ」


「何で上から目線!?」




セフィリアは、楽しそうに話すフィーナを見て微笑む


クレハナから連れてきた時は、引っ込み思案で口数の少なかったフィーナ

それが、こんなに明るくなった


それと比例して、魔法使いとしての実力も伸びている

その成長が微笑ましい



「…」


セフィリアは、ふと思い出す



フィーナとは逆に、セフィリアの立場は良くない


「ドルグネル家だと? 龍神皇国の逆賊じゃないか」

「裏切り者が騎士団ででかい顔をしようっていうのか」

「ドルグネル家は危険思想を持つ。これ以上の権限を持たせるな」



これが、貴族界におけるセフィリアの評価だ


セフィリアは、若くしてドルネル家の家督を継いだ

その理由は、ドルネル家の当主が相次いで不幸に見舞われたからだ


前当主でセフィリアの父、ジュリアノ・ドルグネルは、乗っていた飛行機が墜落したことで亡くなった


その後、当主代行となった母、セリアは過労の末に倒れ、昏睡状態となってしまった



…龍神皇国の貴族界には悲願がある


龍神皇国とは、約百年前に全身である大国・龍神皇帝国が分裂し、その七割近い国土を受け継いだ国だ


皇帝国は、龍神皇国を含めて七つの国に分裂

ラーズが住むシグノイア、フィーナの母国クレハナもその内の一つだ


当時の栄光

超強大国だった龍神皇帝国は貴族達の誇り


今なお、龍神皇国はかつての皇帝国があるべき姿

現在の皇国は歪な形であり、是正の必要性を感じている


そう、悲願とは、この龍神皇帝国を復活させることなのだ



しかし、皇帝国の復活とは

その手段とは


…皇帝国から分かれた、皇国以外の六つの国を吸収して、一つの国に統合するということだ


父、ジュリアノは、この貴族界の悲願を否定した


皇帝国という大国が分裂したのには原因があった

それを力ずくで元に戻すなど、侵略行為に他ならない


そんなことは許されるはずがない、と



その結果、ジュリアノは不可解な死を遂げた


落ちるはずのない飛行機の墜落

現場検証の結果、争った痕や墜落前に亡くなっていた形跡のある遺体


…ジュリアノの死には疑惑がある

事故死ではない、暗殺の疑惑だ



そして、貴族界の悲願に意を唱えたドルグネル家は冷遇されることとなる

それが、母セリアを追い詰めることとなった



「セフィ姉、どうしたの?」


フィーナが尋ねると、セフィリアはハッと現実に戻って来る


「何でもないのよ。考えごと」


「そう?」


セフィリアとフィーナはおしゃべりを続ける



…セフィリアは、当主としてドルグネル家の再興を図っている


だが、ドルグネル家への冷遇は続いている


その影響は、騎士団で名を挙げれば挙げるほど、セフィリアへと迫るのだった



セフィリアの過去 一章 第十三話 合格発表

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