ボクのために?
「ほら! 進藤がゆっくりしてるから、凪くん帰ってきちゃったじゃん」
「俺のせいか? 別に、会ったらまずいってこともないだろ」
なんでカナメは、そんなに凪くんと出会ってしまったことを嫌がっているのかな?
ここにいる理由は分からないけれど、ボクに上着を渡しにきただけなら、なにも気にする必要はないと思うけど。
「進藤先輩と……そちらの方は?」
「え、あたし? ああ、そうだね。そう言えば初めましてかー」
「ボクの親友だよ。前も話したろう? カナメ。望月 カナメさ、凪くん」
納得してくれたようで良かったよ。
「そ。エリー……ああ、愛理の大親友のカナメだよ。いつも君の話は聞いてるから、全然初めてって気がしなくてね」
「よしておくれよ、カナメ! そんなこと言われたら、恥ずかしいじゃないか……」
いつも凪くんの話をしてるなんて、本人に話すようなことじゃないだろう?
「先輩が自分のことを……そうなんですね」
そんな嬉しそうに表情を緩めると、すごい可愛いよ? ボクもとっても嬉しいさ! でも、その分恥ずかしさが増し増しなんだよ!
「せっかくのいい雰囲気にお邪魔しました〜。ほら、進藤も行くよ!」
カナメが充の腕を引っ張っているけれど、テコでも動かないといいたげに、その場に佇んで凪くんを睨んでいる?
まさか、また喧嘩なんてしないだろうね?
「進藤ってば!」
「進藤先輩? 望月先輩が呼んでいますよ。いいんですか?」
「ああ、ちょっとな。お前と話してみたいと思ってたんだ」
なんだろう……今日の充はなんか、あまり穏やかな様子に見えないよ。大丈夫だよね?
「彼女さんをほったらかして、自分なんかと話していていいんですか?」
「あ?」
気になっていたけど、直接聞きづらかったことを、そんなあっさりと!
「ち、違う、違うからね、凪くん!」
カナメも焦ったように否定するし。……カナメがこんなに動揺している姿、みた記憶が無いよ、ボクは。
「違うんですか? 遊園地に男女二人で来るなんて、普通そうとしか考えられませんが」
それは偏見というものだよ、凪くん。……でも、ボクだってそう思ったんだ。
まだ二人が隠そうとしているだけで、実際はそうなのかもしれない。けど、それならそれでそっとしておきたいじゃないか。
……なんだか、知るのが怖いんだ。
「とんだ偏見をどうも。俺は友達と偶然遊園地に遊びに来て、偶然友達を見かけたから、なんとなく声を掛けただけだ。お前らの仲を邪魔する気も、俺たちの仲がこれ以上良くなることもない」
充は一々、言い方に問題があるよね。
「それはそれで、ちょっとショックだわー」て、カナメが悲しんでいるじゃないか。
「そうですか、それは失礼しました。……ですが、いくら親友とはいえ、自分と朱思先輩の邪魔は遠慮したいですね」
「凪くん、邪魔というのは少し言い過ぎじゃ」
「ああそれは悪かったな。別に邪魔がしたかった訳じゃないんだ。お前があまりにも、愛理のことを見てねぇな、と思ってな。世話を焼かせてもらっただけだよ」
凪くんがボクを見ていない……?
「充、凪くんはちゃんとボクのことを見てくれているよ!」
「そうか? だったら、日が落ちてきて肌寒くなるこの時分に、なんで冷たい飲み物なんだ? 上着の一つも貸すなり買ってやるなりすればいいだろ」
「飲み物は、ボクがジェットコースターで酔ってしまったからで、上着だってボクが忘れたんだ。彼をそんなことで困らせたくないよ」
呆れたようにため息を漏らしているけれど、ボクは事実を言ったまでだ。そんな筋合いは無いと思うんだ。
「そうだな。他にも──」
「進藤! それ以上はさすがに……」
カナメが止めにはいるけれど、充はあまりその気はなさそうだ。
「悪い望月。見て見ぬ振りはできないんだ」
何が見て見ぬ振りなんだい……?
「まず開始から最悪だ。服装から髪型まで、こいつは気にするような奴じゃない。のに、こんな小洒落た飾りなんてつけてきたんだ。可愛いだの綺麗だの、感想が薄すぎる」
「な、なんで充がそんなこと知って──」
「前回と同じシュシュはお気に入りなのか? 今日の猫は丸まってるのか。髪型は気合入ってるな、この前買った靴履いてきてくれたのか……服装だけでもまだまだ話題はつきないだろ」
逆に、なんで君はそんなにボクのことを見ているんだ。ボクは今、まともに正面を向けないぞ!
「メリーゴーランドで手が触れた時は、もう少し気遣いもできた。昼飯は──まあいい、あれは全面的に愛理が悪い」
急に貶された! 胸がドキドキしてたのに、いきなり貶されてボクはびっくりだよ、充!
「まあ、一つ忠告するなら、愛理を相手にする時はもっと話しかけてやるべきだ。話すことが何よりも好きだからな、こいつは」
「間違っていないけれど、その言い方はなんか、悪意のようなものを感じるんだが、どうしてだい?」
「お前の感じ方だろ。そんなつもりは微塵もない」
まるでペットや観葉植物のように扱われている気がするよ。
凪くんも、充の独りよがりのセリフに少し、俯いてしまっている。そこまで落ち込むような事じゃないんだよ、安心して欲しい。
「確かに、進藤先輩の言い分は間違っていないと思いますし、自分の不甲斐なさも重々理解しました。その上で、言いたいことがあります」
今度は凪くんが、充の目の前まで顔を近づけている。もう既に遅いかもしれないけれど、喧嘩はよしておくれよ、本当に……。
「《《愛理さん》》はボクの恋人です。幼馴染なだけのあなたに、とやかく言われる筋合いはありません! ……忠告だけは、ありがたく頂戴しますね」
今、ボクのことを名前で呼んだのかい、凪くん?
充も気難しい顔をしているけれど、なんだか少し嬉しそう……?
「言うじゃないか。まあ、今回の目的は済んだんだ。お邪魔虫は解散させてもらうよ」
今度は充から離れていく。
「進藤、待ってってば!」
カナメがそれについていく形だ。やっぱり、この二人は仲がいいよね。
「ごめんよ、凪くん。ボクの親友が君の心を傷つけてしまったみたいだ」
「いえ。身にしみる言葉でした。朱思先輩も、こんな不甲斐ない自分で申し訳ありません」
落ち込んでしまったね。そんなことないと言うのに。……名前では呼んでくれないんだね。
「凪くんはいい男の子だよ。ボクの最高の彼氏さ!」
恥ずかしいセリフだと思うんだけど、今回は真っ直ぐと、彼の顔を見ながら言えたんだ。なんでだろうね。
二人の間にちょっと恥ずかしい沈黙。
そういえば、もうじき花火の時間かな?
「ねぇ凪くん」
「朱思先輩」
どちらからともなく、声が重なるように互いの名前を呼んでいた。
二人してもう一度黙ってしまうけれど、ここは年上として、先に言わせてもらおう。
「か──」
「観覧車など、どうでしょうか? 花火を高いところから見てみたいです」
ボクと同じことを……でも、少し理由が違うね。
「うん。ボクも同じことを思っていたよ。今からなら多分まだ間に合うから、行こうか」
「はい!」
少し二人っきりの空間が欲しかった。ボクはそれだけなんだ、凪くん。
日は完全に落ち、暗闇の中の寒さは昼の暑さからは考えられないものだった。
ちょっと気は引けるけど、せっかく充が用意してくれたんだから、着ない手はないよね。
「……? なんだか少し、落ち着く匂いだね」
実際に着てみると、なにかは分からないけど落ち着く匂いがする。少しほっこりしてしまうな。
凪くんに引かれながらふと、頭をよぎるのは、充の格好だった。
かなり薄着だったけれど、彼は寒くないのかな?
ていうか、なんであんな詳しいことまで知っていたの……?




