ボクは明日、なにが出来るのか
「うぅ〜、恥ずかしかった……」
「そんなんで、凪くんの前にその服着ていけるの?」
カナメのいうファッションショー──まあ、ただボクが試着するだけの話なのだけど、着慣れない服でコーディネイトされたものを着て、人に見せるというのは、ボクの羞恥心が耐えられたのが奇跡と言っていいと思う。
正直、この相手が充や凪くんだったらボクは死んでいた自信があるよ!
「着替えるたびにカナメが変なこと言うから、余計恥ずかしくなったんじゃないか! 静かに見てくれるだけで……それはそれで恥ずかしい」
「でしょ? エリーは可愛いんだからさ、もっと自分に自信もったら? こんな可愛いボクを見られるんだから、感謝してほしいね! くらいのつもりでいいんだって」
だれだい、その自信家な娘は。そもそも、ボクは自分の容姿がどうかなんて考えたことないんだよ。
どれほど美人でも嫌いな人は嫌いだし、どれほど醜くても好きな人は好きなんだ。
……なんでボクは、服装のことでここまで悩んでいるんだろう。
「今エリーが何考えてるか分かるから、このカナメ先生が答えてあげよう」
「本当にテレパシーつかえるんじゃないかい、君は?」
「ふふふ、それはどうかな? 『ボクは見た目をそんなに気にしないのに、なんでこんなに服装を気にしてるんだろう?』。そんなこと考えてるでしょ」
大体当たってる……カナメは本当に何者なんだい?
「それは簡単なことだね。エリーは今、見た目がどうこうとか、考えていない! 凪くんにどう思われるか──ひいては、凪くんのことしか考えていない! 違う?」
ああそうか。ボクは凪くんに喜んでもらいたくて、服を選んでいるんだ。自分が周りにどう思われるかとかどうでもいいけど、それで凪くんが喜んでくれるなら頑張れる。そう言うことなんだね?
「あたってるでしょ? あたしたち女ってのは、恋しちゃうとその相手に染まっちゃう。考え方も、物のセンスも、行動さえも、ね」
カナメは小さく微笑むと、ボクの目の前までその綺麗な顔を近づけてきた。
「こんなに顔を真っ赤にしているエリーが、その実一人の男の子のことしか考えてないとか、親友のあたしですら嫉妬しちゃうんだから。凪くんは本当に幸せ者だね」
「ぼ、ボクに思われたところで、彼が幸せになんて……」
「ま、それは本人にでも聞いてよね。……さ、女の子が一番力入れるのはこの先でしょ? 次いこ、次」
女の子が一番力を入れるもの? 服装を選んで、次に選ぶもの……。
「ああ、アクセサリー!」
「そ。ファッションで一番自分を出せるのは小物だからね。頑張らなきゃ!」
そうか、服装に大きく左右されない分、自分の個性や好みを出しやすいんだね。
そう考えると、むしろアクセサリー考えるのが怖いんだけど……。
「ま、男なんてそういうの全然見てないから、気にしすぎても仕方ないけどね!」
「えぇ……それ、アクセサリー頑張って考える必要あるのかい?」
「さぁてね?」と嘯く彼女の表情からは、真意が掴めない……カナメが言うんだから、必要なことなんだろう。真剣に考えよう。
※ ※ ※
流石に、服からアクセサリーまでを見て周っていると、時間が経つのは早いみたいだ。
窓からさす日差しは大分赤みを帯び始めて、モール内の人混みも落ち着いてきたように感じる。
「文句言ってた割に、すごい真剣に考えてたね、エリー」
「別に文句なんかないさ。カナメの言うことが間違っているとは思わない。凪くんのためなら、妥協なんて許されないからね」
彼に喜んでもらうためなら、なんだってやるさ。……まあ、普通に選んでるのも楽しかったから、全然苦にはならなかったんだけど。
「夏も近づいてきてるとはいえ、夜はまだ肌寒いから、上着は絶対忘れちゃだめ。──まあ、敢えて忘れてって、彼に上着を借りるのもありだけど?」
「な、凪くんの上着……」
そんなもの着せられてしまったら、ボクの頭はパンクしてしまいそうだよ。でもちょっといいなそれ……てダメだよ、そんなの!
「それじゃ、凪くんが寒くなっちゃうじゃないか! ちゃんと忘れないようにするよ」
「優しいなぁ、エリーは。ま、それならそこは気をつけてもらうとして……後は髪型だね」
髪型か。ボクは基本的に髪を結うのは下手なんだよなぁ。このポニーテールにしたって、お母さんに結ってもらってる訳だし。
「今のエリーも可愛いんだけど、綺麗な髪だから自然なままなのも一つの手か。んー、でも遊園地デートで長い髪そのままってのも、ちょっと動きづらいよねぇ」
「そうだね。今日は室内ばかりだったからさほど気にならなかったけど、外を歩くとなれば汗もかくかもしれないし……これじゃダメなのかい?」
ボクは、割とこの髪型は嫌いじゃない。
若干、頭の後ろに重さは感じるけれど、髪は肌に触れないし、鏡でみてみると動物の尻尾がついてるみたいで、なんか可愛いんだ。
「別に悪くないし、エリーらしさもあっていいと思う。けど、やっぱりもう少しおしゃれで行きたいよね」
「うーん……凪くんが喜んでくれるならやりたい」
「エリーってさ、自分で髪結ったりできるの?」
カナメの質問に、思わず全力で首を振ってしまった。だって、髪を結うなんてできっこないから。ボクにはとっても難しいんだよ、あれ。
「だよねぇ。エリーのお母さんならいっか。似たような髪型で、ちょっとだけおしゃれしちゃおうか。また後で霞さんに連絡しておくから、明日の朝やってもらいな」
「うん? 分かった」
霞さんというのは、ボクのお母さんの名前だ。友達のように接しているせいか、互いに名前で呼び合っている。
歳が離れていても関係なく、そう接することができるのも、カナメの凄いところだよね。
「後は──料理はできたっけ?」
「一応、お母さんから教えてもらったりはしてるよ。そんなに上手くは無いけど、下手ではないつもり?」
「おっけ。じゃあ、凪くんの胃袋はゲットできるね!」
胃袋を……? それってまさか
「お弁当作るってこと?」
「そう! あの遊園地小さいからレストランとかも少ないし、家族連れとかは割とピクニック気分で食べてる人もいるしね」
「いやいや! ボクの料理なんかじゃ、可哀想だよ。お店と比べたら美味しくもないし、お母さんの料理ならともかく、ボクの料理じゃ彼に失礼じゃないかな?」
凪くんがボクの料理を食べるなんて、想像したら……ちょっと嬉しいけど、でも美味しくもないお弁当なんて嫌だもんね。
「味なんて最低限できてれば十分。エリーの丹精こもった料理なら、彼も喜んでくれるって。自信持ちな!」
「そ、そんなものなのかい? むむむ……」
本当に喜んでくれるだろうか。
凪くんが、ボクの作った料理を食べて、笑ってくれて──ちょ、ちょっと身体が熱くなってきちゃうじゃないか!
「明日の作戦も決まったところで、暗くなる前に帰りますかぁ」
モールを出ると、空は暗くなりつつあり、街灯も明るくなっていた。もう、そんな時間なんだね。
「うん。今日はありがとう、カナメ。明日はなんとか頑張ってみるよ」
「ま、変に意識しなければ多分大丈夫でしょ。……男は皆ケダモノ、体だけは簡単に許さないようにしなよ」
ケダモノって、体だけはって、それはつまりえ──
「ば、バカを言わないでくれ! そういうのは、その……ボクだって考えているけれど、まだ早いというか……。凪くんはそんな子じゃないよ!」
カナメの悪戯めいた笑顔は、更にボクの羞恥心をくすぐってくれる。
もぅよしておくれよ、カナメ……。




