◇life14 「縞パンは正義」
新年は出費がかさむよね…
さて、俺が一位、香奈が二位抜けを確定させた今日の試合だったが…。
事実上の最下位決定戦、晃と伊織の試合がこれまた長い。
いつの間にかギャラリーまでできているほどだ。(まぁほとんどがウチの生徒なのだが)
――ゲームカウント5-5――
出だしからバコりまくりの晃と、負けじとバコる伊織のバコりあい…。そのわりにミスが少なく、互いにキープを続け、かなりハイレベルな試合になっている。
「…本当に負けたくないのね」
「あぁ…、こいつらの負けず嫌いもここまでくると病的だな」
こいつらの負けず嫌いは心が読めなくたってイヤでもわかる。
さて第11ゲームは伊織のキープだな。
「相変わらず、しぶといん、だ、か、ら!!!」
キックサーブ―――バウンド後(サーバーから見て)右に跳ねるのが特徴、なおかつレシーバーのバック側に大きく跳ねるので強打で返すのが難しい。
女子で、しかも高校生でキックサーブを使うプレーヤーは極めて珍しい。
「グッ…うるせえ!」
晃は軽いジャックナイフで堅実にリターン――
―――しかし惜しくもわずかにネットに阻まれる。
15-0―――
「…死ねッ!!」
………。
しょうがない…。伊織は興奮するといつもの罵りが一段とレベルアップする。
だが、とてもでないが、ボールを打つ声にしてはおっかなすぎる気がする。
「うおッ!!?」
伊織がやったのは、"バーニングサーブ"、とでも呼ぼうか、能力でボールに炎を纏わせるというシンプルなもの。晃と同じやり口だが、明らかに見た目がいかつい。
なんといっても…燃えているのだ、ボールが。そんなもの、何の予知もなく打たれて取れる奴なんてそうそういない。
「てめ、卑怯だぞ!!」
「何言ってんの。能力の使用は自由よ?アンタが決めたルールじゃない。これで私が使える能力はあと1回、アンタもあと1回よ」
30-0―――
「うらぁァアァ!!!!」
「…完全に女を捨てているわね。彼女らしいけど…」
「あぁ…」
残念だが、俺の口からはそんなことは言えない…。
死にたくないからな。
「ハッ!!!」
今度はラリーの展開だ。バックのクロスラリーが続く。
っと、伊織が回りこんだ!
「腐れッ!!!!」
………。
…もう一度言う。あいつは興奮すると暴言を吐いてしまう、が本心からそう思っているわけではない―――と思う…。
「クソッ!」
伊織の回りこみ逆クロスは晃を崩すには十分すぎる威力だった。差し込まれた晃は当てロブでなんとか返球するが、そこは伊織。普通にオープンコートに返せばいいものの、わざわざスマッシュを晃に向けて打った。
「うおぉ!!?」
そりゃ俺でもビビる。間一髪伊織の殺人ショットを避ける、が当たればケガは免れなかっただろう。
「…チッ、外したわ…」
伊織マジで怖いな。こりゃ並みの男じゃ近づけないのもわからんでもない。
「てめえ!!!ふざけんな!!!!!!」
ついさっき殺人ショットを打った張本人は澄ました態度で答える。
「?何のことかしら…?もうッ、ちゃちゃっと構えなさいよ、このグズ!!」
40-0―――
「死ねえぇッ!!!」
さすがだ。まったく容赦ない。とてもあの容姿で放つ言葉とは思えない。
晃もこの伊織相手に精神的プレッシャーを感じたのか、再びリターンミス。
このゲームも伊織は危なげなくキープ成功。
チェンジコート―――
「この筋肉バカが…」
そうやっていらん挑発をするから、あとで悲惨な目に遭うというのに…。
「うっさいわよ、バーカ!!」
こいつらは本当にもう…。
――ゲームカウント伊織リーズ6-5
サーバーは晃。
「このゲームで決着つけてあげるわ」
「そりゃどーも。てめえとは白黒つけなきゃなんねえと思ってたからよ!!」
というものの、今のところあらゆる勝負で晃はほぼ全敗。しかしまぁ相手が悪いというのもある。どんな勝負をしても何故かこいつは伊織と相性が悪い。"いわゆる天敵"である。今回ここまで競っているのは、こいつにしては実はかなり健闘しているほうだ―――
「行けぇッ!!!!」
出だしからツイストサーブだ。キックサーブの回転による変化がより凄まじくなったのがこのサーブ。これは、かなり打ちにくい。
「なめんじゃないわよ!!!」
おぉ…、バック側に跳ねるサーブを無理やり回りこんで、バーニング…。すげえな、オイ。
―――それに対し伊織は晃相手なら相性抜群。
「………」
…あいつ、何かよからぬことを考えてるな。
すぐにわかった。晃はバカをやるときには決まって黙り込んで頭をかく。もちろんこのことは幼なじみならみんな知っていることだ。本人は気づいていないようだが。
0-15―――
「ハッ!!」
晃は高速スライスでしかける。伊織も負けじときつめのリターン。再び長いラリーに持ち込まれる―――と思いきや。
『うおおぉおぉおおおぉ!!!!!!!』
なんだなんだ!!?これまで特に声援を送るわけでもなかったギャラリー共が、一斉に声をあげた。
原因は―――
「いやああぁああぁあ!!!!!!!!」
「どうだ!!必殺、賢者の風車!!!」
…………ネーミングはそれらしいが、実質ただのスカートめくりだ。
『ふォッ!!田辺は縞パンなのか…』
『伊織たんかわいいよ(*´д`*)ハアハア』
『…生きてて、本当に、良かった…』
「…ってお前、アンスコ穿いてなかったのか…?!!!」
そう、相変わらずのこのバカの言う通り、伊織がスコートの中に穿いていたのはアンダースコート、通称アンスコではなく……。紛れもない彼女の生パンであった。
真剣なラリー中に、まさか能力を卑猥なことに使われるとは思ってもみなかった伊織は耳まで真っ赤にして、プルプルと震えている。
「…ンタ…け…」
こりゃ、完全にキレている。あの覗きのとき以来だ。
「アンタだけは……!!!!!」
――死んで死ねええぇえぇええぇぇぇええぇッ!!!!!!!!――
「消し炭にしてやるんだから!!《煉獄の炎槍》<グラキエス・インフェルノ>」
「お、ぉ、落ち着け、伊織…。な、しょ、勝負だし、ってか、テニスだし…。俺が…、俺が悪かった、から―――って………、死んだな、こりゃ」
非常に残念だが、お前の焼死体はキチンと葬っておく。…安心して眠ってくれ。
こうして俺たちは3人で新たな一歩を踏み出すこととなった。
「って、勝手に殺してんじゃねええぇえ!!!!!!」
俺は焼死体になった覚えはねえ!!
「…なんだ、生きてたのか。てっきり土に還ったのかと」
「その表現はやめてくれ!!」
新手の植木鉢みたいじゃないか…!
「良かった。もう一回殺してやるわ」
「勘弁してくれ」
できれば、一回も殺さないでもらいたい。
「…まぁとにかく、勝負は伊織の勝ちね」
!!
何…?!まだ勝負はついていないハズだ!!
「あの段階でほぼ伊織の勝利は確定。加えて、あなたのセクハラ行為…、結果は目に見えているわ」
悪いが、俺にはまったく見えない。
「ちょっとした悪戯のつもりだったんだよ!こんなことするつもりじゃあ…」
「そうやって、若者は犯罪に加担していくのよ…」
んな大げさな…。そもそもスコートの下にアンスコを穿いていないなんて、誰が想像しただろうか。これは伊織にも責任があるハズ…!!
「大体、アンスコ穿いてねえお前が悪ぃんだろ?それにお前のパンツなんか、見ても何も思わねえっつーの!!!」
墓穴だった。
◇
あの後、俺は二度も焼死体になりかける、という人生でも二度とないような貴重な経験をしたというのはここだけの話。




