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20

便利だ……なろう便利だ。とっても編集が楽だ……


山本牧場、居間。



『………おはようございます!


12月29日、午前7時代のニュースです。


では本日の主な出来事を………』


ブツッ。



勘助は、ニュースが始まったばかりのテレビの電源を消した。



「すんま………へんな。


わざわざ……ハァ、古川の旦那…に見舞いに来て……もろときながら、ハァ、


こんな不粋な姿をお見せして………ゴホッ。」



勘助に助けられながら、芝山が起き上がる。



「芝ちゃん………なんでこんなことに……」



古川はもう、ほんとに悲痛としか言い様のない顔をしている。


無理もない。


古川の記憶は、あの元気な頃の芝山の姿のままなのだろうから………。



「ハァ………、まぁ、ヤキ……が回りましてな………



もう、歳………ですわ……ハハ。」


芝山が苦しそうに笑う。


古川は顔を会わせられなくなって下を向いた。



「年の瀬………で………忙しいでしょうに、ハァ、よう来てください…ました……。」



「当たり前やがな!


恩人が重病やゆうてんのに、黙って仕事なんぞやってられるかい!


仕事なんざいつでもできる………」



「恩人………て……。


そんな、ハァ、たいそうな物と………ハァ、ちゃいますが……な………。」



くはっ、と息を吐き出すように笑う芝山。


(今日なんかはまだ調子がいい方だな………)


楽しそうにする、しかし苦しむ芝山を見て、勘助は思った。





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「いやいや、うちの経営が持ち直したんは、


あとにも先にもセレクトと芝ちゃんのお陰やがな・・・


これを恩と言わずになんという?」


古川は身振り手振りを使って自分の思いの丈を説明した。



「そうは・・・言うても・・・ハァ、結局・・・独力で・・・国家コーラも買い取った・・・でしょう?」


だんだん、芝山の笑顔が無理なものに変わってくる。


「それも、馬産を続けられてなかったら無かった話やで・・・。


やっぱり、芝ちゃんが恩人や。」



相変わらず悲痛な顔を隠せない古川。


「その・・・話・・・あの世で・・・自慢しますわ・・・ハハハ・・・ゴホッ!ゴホッ!」



急に芝山が咳き込み始めた。



「ゴホッ、ゴホッ!ウォホン!」



「芝さん!大丈夫か!?」


勘助は慌てて芝山を寝かせる。


「ゴホッ!ガハッ!・・・大丈・・・夫・・・ゴホッ!」


「あああ・・・」


なすすべもなく見守る古川。



「ケホッ、ケホッ・・・ふぅ。」


ようやく芝山は落ち着いた。



「・・・古川さん。


申し訳ありませんが今日はこの辺で・・・」


勘助がすまなさそうに言う。


「せっかく来てもらっておいてなんですが、


これ以上喋ると芝さんは・・・。」


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「坊っ・・・ちゃん。


もう少しだけ・・・話させて・・・くれ・・・。」


芝山が勘助の肩をぐわしっと掴む。


「はなさにゃ・・・ならん、


ハァ、ハァ、


ことが・・・ある。



それに・・・古川の・・・ハァ、旦那はまだ・・・来たばっかりや・・・」


「だけど・・・!」


「頼む・・・」



芝山の肩を掴む力はどんどん増してゆく。


それと対照的に、芝山の顔色は悪くなる。


(このままの方がマズいか・・・)


「・・・わかった。


わかったから芝さん、力を抜いて・・・」


刹那、勘助の肩への圧力はほとんどなくなった。


「・・・ハァっ、ありがとう・・・坊っちゃ・・・ん」


芝山は再び笑顔を作り出す。


「え、エエんか?ほんまに・・・


もしこれで調子が悪くなるようなら・・・。」



「・・・ハァ、お気に・・・なさるな・・・古川の旦那・・・」



「しかし・・・」



「喋ってやってください、古川さん。


今は、ストレスをためるのが一番よくない。」



「・・・うむ。」



古川は背筋をピンと伸ばした。



「それで・・・話と言うのは?」



「よし・・・。


・・・坊っちゃ・・・ん、ハァ、ちょっと席を、ハァ、外して・・・くれんか?」



「えっ!?

何で?」勘助よりも先に古川が疑問の声を挙げる。


「そっ、そうだよ。


第一、俺がここからいなくなったら―」


勘助も当然異議の声を上げたが、芝山は、それを遮った。


「―坊っちゃんに・・・聞かれたく・・・ない・・・話や。


だから・・・」


起き上がろうとする芝山。



「わ、わかったわかった!


席外せばいいんだな?


そうするから芝さんは寝ててくれ。


話はそれでもできるだろう?」



勘助は半ば押し倒すように芝山を寝かしつけた。



「わがまま・・・ばかり・・・ハァ、すまん・・・な。」



芝山は相変わらず笑顔を作り出す。


「・・・病院に連れて行けなけりゃあ、


これが最後の孝行になるかも知れないしな・・・」


皮肉っぽくそういい残し、勘助は立ち上がり、


古川の方を向いてこう言った。


「何かあれば、携帯に電話を掛けてください。


あ、僕が番号を登録している方の携帯でお願いします。


ちょっとこの間大変なことになったので・・・」


「え?」


古川がキョトンとする。


芝山がハハッと息をはくような笑いを見せる。


勘助は、芝山に苦笑いを返し、


居間を出て厩舎に向かった。




「・・・。」


芝山が口を開く。


「さて、何・・・から・・・話すかな・・・。」



「芝ちゃん・・・。」

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――――――――――――――






勘助は厩舎の中を歩いた。



芝山と古川の話が気にならないといえば嘘になるが、



起き上がってまで頼み込んできた芝山の言うことに反論などできず、



結局勘助は、それを黙認するハメになってしまった。


(医者には止められてんだけどなぁ・・・)



相変わらずガラガラの厩舎を


勘助は結構なスピードで歩いた。



気分転換に外の空気を吸いたかった。



ちょうど厩舎の端、休息室のある場所で、勘助は足を止めた。



「あれっ??」


誰かいる。


そう思ったのもつかの間、彼はそこにいる人間が何者かを突き止めた。


「・・・無防備な。」



秋華がベッドの上ですやすやと眠っていた。


「・・・」


(まさに天使の寝顔・・・)


頬をつついてみようか。


「・・・。」


勘助が指でつつく。


すると秋華は少しムズそうな顔をして。


「・・・んん?


痛い・・・。」


(あわわ・・・)


勘助はすぐに指を引っ込め、そこをさすってやった。


「悪いことしたかな・・・」


勘助はその言葉と一緒に立ち上がり、傍らにあった毛布をかけてやり、



それからその部屋を出た。



「名残惜しいな・・・


まぁ、いいや。


えーと、トシローとバルクは・・・」



勘助は厩舎の通用門を開けて、外に出た。


辺りは一面の銀世界。


さすが北海道!





で・・・。


白の上では大体見映えがする黒鹿毛の馬体のトシローは放牧地のどこを探してもおらず、


バルクに至っては、ほとんど棒立ちで、なんの動きもない。



(俺の暇潰しの相手は・・・と。)


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(バルクとからむのは遠慮・・・)


勘助はバルクのいる放牧地に背を向け、


そして、いとしの我が子を呼んだ。


「トシローっ!」


勘助は、広い方の放牧地のどこかにいるであろうトシローを呼んだ。


それから、向こうの方にある坂を注視した。


(おっ!来た来た・・・)



案の定トシローは坂のむこうから駆け上がってくる。


「こっちだ!トシロー!」


トシローに手を振って位置を知らせる。


(可愛いやつめ・・・。さて、何をして構ってやろうか?)


勘助はトシローがこちらに来るのを楽しみに待った。


が、しかし・・・




「・・・あれ?」



「・・・ぶひゅん!」


トシローはこちらを見て、


何を思ったかその場でUターンし、再び坂を駆け降りていった。



(えぇ!?)



次第に小さくなっていくトシローの姿を見送りながら、


唖然としていた。


(・・・何で?)


いつもなら喜んできてくれるじゃんか!


そりゃあ最近はバルクに付きっきりであんまり絡みは無かったけど・・・



ん?



つまり最近トシローの世話をしていたのは・・・


で、しかもあいつら妙に仲がよくなってて・・・


(あぁ、なるほど。


それで・・・


・・・。


って、それはそれで薄情すぎねぇか!?)





「・・・こらーっ!トシロー!


育ての親は俺だぞーっ!



ちったあ感謝してこっちに来ーい!」




・・・当然トシローは帰ってこない。



そりゃあ、そうだろう。


目当ての人間が一緒にいないのだから・・・。


しかし勘助は、何だかトシローにバカにされている気がして、




「いい度胸だ!トシロー!


だが、覚えとけよ!




秋華は譲らん!」



勘助の叫びが響き渡る。



「ハァっ、ハァ・・・」



彼の胸のうちには、


叫んだことによる一種の爽快感と、




えも言わぬ虚脱感が押し寄せていた。



「・・・。


馬相手に何言ってんだ俺は・・・」




結局勘助は、その場にへたりこみ、


その後もただただ雪が積もるのを見続けていた。


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一方、秋華。




「秋華は譲らん!」



勘助の声が聞こえる。



(なっ、なにを……叫んで……)



さっきの頬突きで実は起きていた秋華は



顔を真っ赤にしてうずくまった。


「は、恥ずかしい・・・!」



毛布を頭からかぶり直す。



(・・・っう~!)



秋華は、ベッドの上を何度も転がった。



(だ、誰にも聞かれてなければ良いけど・・・。


・・・普段あんなこと言う人じゃないのに!)



秋華はシーツを握りしめた。



「・・・。




でも・・・嬉し。」



(勘助さん、やっぱり・・・)



・・・。



「ん~!」


彼女は、今度はまた別の理由で転がり回った。



(・・・聞かれるはずない!


だって、誰もいないし・・・。)




秋華は毛布の中で、



彼の顔を思い出しながら、しばし物思いにふけったという・・・




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「秋華はゆずらん!」



居間に響き渡る勘助の声。



(坊っちゃ・・・ん、何を・・・やっとんじゃ・・・。)



[作者より:秋華、残念!バッチリ聞かれてますよwww]



「なんや?今のは?」



厩舎を覗きこみながら、古川が芝山に訪ねる。



芝山は寝ながらも手で頭を抑え、



「ハァ・・・。要・・・するに・・・恋患い・・・ですよ・・・ゴホッ。」



と、


『まったく、目も当てられない』

といった風に芝山に説明した。



「ほぉ!


勘助ちゃんにもとうとう春が来たか!


・・・でも、俺はその相手の女性の姿を見てへんで?



・・・どんな子なんや?芝ちゃん!」



身を乗り出して聞く古川。


芝山は少し唸って、それから笑顔で


「とに・・・かく、ハァ、一つ言え・・・るのは・・・美人・・・さん・・・かな?」



「そりゃあエエなあ!


あとで顔見に行かな!



例えば誰に似てる?」



やけに嬉しそうに古川が言う。


それを見た芝山は、少しいたずらっぽく笑い、人差し指をたてた。


「くはっ・・・、ハァ、言うなれば・・・古川の・・・旦那の・・・奥さん・・・かな?」






「なんじゃそりゃ!


全然期待できひんがな!」


古川が大げさにこける。



芝山はそれを見て、


息も絶え絶えに爆笑していた。


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「・・・で・・・。


話って・・・言うのは・・・それ・・・なんです・・・わ・・・。」



「えっ!?うちの嫁はんか?」



「ハハッ・・・ちゃいますがな・・・。


坊っちゃんと・・・ハァ、その・・・連れ合いの・・・事です・・・。」



「ああ、なんや・・・。」



やっぱり、といった感じで笑みを浮かべた古川。


「何でわざわざ芝ちゃんが嫁はんの話のために人払いすんのかと思たわ。」



「ハハ・・・奥さんとは・・・あんまり・・・面識がありませ・・・んよって。」



「せやわな!ハハハ・・・」


「ハハッ・・・ハハッ!」


その後もしばらく二人は笑いあっていた。



二人の笑いがその部屋の空気を包みこむ。



やがて二人が落ち着いて、



次に芝山が口を開くまで、相当時間が空いたと思う。




「・・・古川の・・・旦那。」



「え?


ああ、うん。で、なんの話やったかな?」



古川は先ほどの笑いの顔をそのまま芝山にむけたが、


「・・・あ、いや、コホン・・・」


思ったより芝山の顔が深刻な顔をしていたので、


咳払いと一緒に顔を元に戻した。


「で、話というのは?」




その問いに対して頷いた芝山は


一度息を大きく吸い込み、それから話し出した。



「ワシ・・・の命は、ハァ、自分・・・自身で、もう・・・先がない・・・と、感じてます・・・。」




「へっ!?」



古川の顔から一切の笑みが消えた。


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「恐・・・らく、ハァ、来年の・・・夏は越せんと・・・思います。」



芝山は相変わらず苦しそうに話す。


が、古川の目は、その表情のなかに穏やかさを見た。


そして、その事実が不安を導きだした。



「な、なに言うてるんや、芝ちゃん・・・!


まだそんな歳とちゃうやろ!?


病気だかって、勘助ちゃんは病院に入ったらなおるかも知れんて・・・!」



「自分の・・・体のこと・・・は、ハァ、自分が・・・一番・・・よう知ってます・・・。」


目をつぶって話す芝山。



「古川の・・・旦那も・・・坊っちゃんから・・・聞いたでしょう?


ワシの・・・五年後の生存率は・・・20%です・・・。」



「し、知ってたんか・・・?」



「医者が・・・漏らしました・・・。


・・・聞いた時は・・・ショックやったんですが・・・


なんや・・・坊っちゃんと・・・ハァ、その連れ合いが・・・


日々の生活・・・楽しそうにしてるのを・・・見たら、ゴホッ!


ハァ、・・・ワシの役目は・・・ここまでかと・・・


ハハ・・・。」



口では笑って見せているが、顔はまったく苦しいまま。



「そ、そうは言うてもやな!


あ、アカンで!そんな考え方!



せっ、せや!


か、勘助ちゃんが芝ちゃんなしでこれからやっていけると思てんのか?


成人したとはいえ、まだ大人としては駆け出しや!


これを芝ちゃんが見たらんでどないすんの!」



「・・・そこですわ。」


古川は、弱気な芝山を一喝したつもりだった。


が、その意に反して、芝山の表情は更に穏やかになっていく。


むしろ古川はゾッとした。



「・・・古川の旦那の・・・仰ること・・・ハァ、まったく以て・・・その通りですわ・・・。



あの・・・二人が・・・あのまま何の、ハァ、心配もなく・・・ハァ、生活していけるとは・・・思いません・・・


正直・・・不安だらけですわ・・・。」



「せやったら・・・!」



「ですが!」


芝山が、今日はじめて叫んだ。


古川の体を何かが突き抜けたような感覚が襲う。

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「・・・・・・・・・・・・。


つハァっ、ハァ、


い、生きたく・・・ても・・・ウッ、生きれん・・・物は・・・生きれんのです・・・」



芝山の顔が崩れる。


その瞳から涙が落ちる。


「あ・・・。」


古川は呆然とその顔を見つめた。


「ワシかて・・・、ハァ、あ、あいつらのっ・・・うう・・・行く末を・・・み、見守って・・・やりたい・・・!


しゃあけど、うっ・・・もう、五年後には・・・生きてるかすら・・・わからへん!


ハァっ、それに・・・か、体は・・・相当・・・ガタが来てるんや・・・。



もう・・・夏越せるような・・・体力も・・・無い・・・。」



「あ・・・あ・・・!」



芝山の目から涙が絶える事はない。


「こ、こんな状況で・・・生きてたかて・・・うっ、あ、あ、あいつらを困らせて・・・


足手まといに・・・なるだけや!

もう、し、死んだ方が・・・ましかもわからんと・・・何回・・・思たか!



こんな、こんな・・・!」



「あああああっ!!!


もういい!芝ちゃん!」


古川が芝山の布団に突っ伏す。


「・・・くそおっ!」


「もういい!もういい・・・」


古川の目からも涙が溢れる。




「もう十分わかった・・・!」


そこから先は、もう言葉にならなかった。




古川は、心のなかで思う。



芝ちゃん―


相当辛かったな。


生きたくないなんてのは、これっぽっちも思うてへん。


ここで死にたいとは思てへん。


せやけど―



いつまでも勘助ちゃんに頼られっぱなしやったら、勘助ちゃんが成長せえへん思て・・・。



隠し通してきたんやな。



生きたい、ってのを・・・。

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自分自身いつ死ぬかわからへんのに、その世話を見てやるようなこと、


芝ちゃんにはできひんねや・・・。



だから、病院も拒んで、無理に元気に振る舞って、死を覚悟してるようなことも言うて・・・



・・・生きたあてしゃーないんやろ・・・ほんまは・・・。



生きる努力も・・・したいやろうに。



「り、理不尽やな・・・人間て・・・。」



古川は声を圧し殺して、泣いた。


雪が、外を明るく照らす。






涙が、積もることはない。


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・・・外。



―――――――――――――



「ほんっ・・・とに暇なんだが。」


勘助は、放牧地に立てられた杭に体をよらせながら


携帯に向かって話しかけた。



相手は厩舎のなかにいる秋華。



『ん~?


暇~?』



明らかに寝ぼけているふりをしたような秋華の声が帰ってくる。


「・・・起きてたんだろ?」



『うっ・・・。


わかりますか?』



「当たり前だ。聞くからにウソ臭い。」



まったく・・・と、ため息をつく勘助。


そんな返答に、秋華は少し残念そうな声を返してきた。


『そんな言い方しなくても・・・。


私だってバレないように必死で演技したんですよ?』



(それがいらんちゅーとんねん。)


心なかでツッコミを入れる勘助。




『・・・それに。』


「それに?」


『何だか、寝起きのほうが何だかかわいいじゃないですか。


勘助さん好みでしょ?』



「うっ、えっ?」



予想だにしない返答に、勘助は少し怯んでしまった。


頭に乗っていた雪が一気に滑り落ちる。


「それは・・・えーと。」



・・・しばし待て。


(あ、秋華の寝起きかぁ・・・)


想像を瞬時に膨らませた勘助が赤面する。



『あははっ!


今、私の寝起き想像したでしょ!』



「えっ?



なっ・・・!違っ・・・」



『ウソばっかり~!


じゃあ何でそんなに赤くなってるんですか?


勘助さん♪』



(・・・!)



思わず携帯から顔を離す。


「ちょっ!おま・・・!


えぇ!?どこから!?」



勘助は雪化粧された回りの風景を見渡した。


(あ、あいつ!どこから見てやがる!?)


勘助はキョロキョロしてみたが、



秋華の姿はどこにもない。



「ど、どこからみてんの!?」



『・・・。


・・・あははははっ!


か、勘助さん、やっぱり照れてんだ!


あはははは・・・!』



勘助はその時、やっとおちょくられていることに気づき、



更に顔を赤らめた。



「お、お前なぁ!」



『いいですよ!


どんな想像をしても。




今のところ、斎藤秋華は


誰にも譲られる気はありませんので。』



携帯の向こうの秋華の声が弾む。



「あっ・・・ばっ・・・!」



勘助の頭は爆発しそうだった。



回りをもう一度見渡し、誰もいないことを確認した勘助は、


再び携帯を顔に近づけ、ボソッと聞いた。



「・・・聞いてた?」



『はい。バッチリと!』



「あ・・・。」



勘助はその体勢のまま雪に突っ伏した。


(やってしまったぁ・・・。)


『勘助さん?


ちょっと、勘助さん!?』


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勘助は、顔に雪の冷たさを感じながら、


右手と携帯を手繰り寄せ、顔のところに持ってきた。



「もう・・・何でもいいからさぁ。



とりあえず外に来てくんない?


秋華がいないとトシローが寄って来ないんだよ・・・。」



顔を反転させ、放牧地を眺める勘助。


やっぱりトシローの姿は見えない。


『外・・・寒くないですか?』


少しテンションの落ちたように聞こえる秋華の声。



「そりゃ寒いよ。


だって雪だし。」



『え~・・・。


ん~、寒いの苦手なんですけど・・・。』



「・・・そこをなんとか。」



『そうだなぁ・・・


じゃあ・・・







暖めてくれますか?』



(!?)



「はぁ!?



ちょ、おま、何言って―」


その瞬間、勘助の顔の回りの雪が大量に溶けたように思う。



「それは、一体どういう―!」



『あははっ!


勘助さんて、あはっ、



面白いですね!



あははっ!』



「えっ?」



『冗談ですよ!冗談!



すぐ着替えてそっち行きますね!


あ、くれぐれも覗きに来ないように!


じゃ、またあとで!』



「はっ!えっ!?」


ガチャッ。


プーッ、プーッ。


勘助が状況を理解できないまま、電話は切れた。


(・・・。)



「元アイドル・・・恐る・・・べし。」


勘助は雪の上に携帯を放り出し、体を回転させて空を見上げた。



雪が落ちてきて、えも言わぬ感動を得ることができる。




「うーん。」



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ただ雪が落ちてくるだけで何事も起こらない空を



ただ見つめていた勘助。



(・・・。)



その視界を突如、何かが遮った。


「わっ!?」



「何してんの?勘助ちゃん。


こないなとこに寝転んで・・・。」


「ふ、古川さん!」



勘助は急いで起き上がった。



そこにあったのは、いかにも安物の、厚手のコートを来た古川の姿だった。


・・・よくみると芝山の物らしい。



「・・・当たり前のことやけど、そんなとこで寝てたら風邪引くで。」



『ほんとに一体君は何がしたいの?』


とでもいいたげな顔で勘助があきれた声をかける。



確かに、はたから見ればただの変態である。



「いや、まあ・・・


その・・・


あはは・・・」



勘助は笑ってごまかすという方法を取ったが、



「・・・勘助ちゃん・・・。熱でもあるんちゃう?」



・・・心配された。



「いっ、いえ・・・


その・・・


大丈夫です・・・はい。」




(言われてみれば、何であんなことしてたんだろ?)




今更ながら、自分の行動に疑問を感じた勘助であった。



古川は少し鼻で笑い、



「変なやっちゃなぁ、勘助ちゃんは。」



と、両手を曲げ広げて首を降り、


漫画でよく見られる『まったく・・・』のポーズをして見せた。


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二人は、揃って柵に寄りかかり、


何もいない放牧地を眺め続けた。


特に何を話すわけでもなく、とにかく雪の積もりゆく様を眺め続けた。



「・・・。」



「・・・。」



お互い、『その話』を切り出すのをためらっていたのかもしれない


長い沈黙の末、


『その話』を持ち出したのは、結局古川だった。



「・・・芝ちゃんと何話したか・・・。



聞きたいんやろ?」


古川がこちらを向く。




「・・・はい。」



相変わらず視線を変えない勘助。




「・・・ホンマは喋るなって口止めされたんやけど・・・。



ま、どのみちいずれは聞くことになるやろからな・・・。」



「・・・。」


体に軽い緊張が走る。


聞いて損をするかもしれない・・・。




「何を・・・話したんです?」



手元に積もった雪を払いながら勘助が聞く。



古川は一度「む・・・。」と息をつき、


深呼吸してからこう切り出した。


「俺に、勘助ちゃんと斎藤さんのことを頼むと。」



「・・・?」



「芝ちゃんは、もう自分の命が長くないと思とる。」



「なっ・・・!」



「だから、自分にもしものことがあったら


自分の代わりに面倒見てやってくれと、


・・・つまりこういう話やった。」



「・・・っ!」


古川がその言葉をいい終えるか終えないかの間際で、


勘助の足は居間のある社宅の方へと向いていた。


(まだあんなことを―!)



いきり立った勘助がちょうど一歩目を駆けた時、後ろから手が伸びて


勘助の体は空を切って止まった。


「行くな。いったらあかん。」



「でも―!」



「行くのは俺の話を聞いてからでも遅くないやろ?



最後まで話を聞け。」



「・・・。」


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古川に腕をつかまれたことによって勘助の体は反転し、



結果的に古川と対面するような形になった。



「・・・。」



「あのな、勘助ちゃんが誤解せんように言うとくけどな、


芝ちゃんは『自分がもう死んでもいい』なんて



これっぽっちも思ってないで。」

古川の眉間にシワが依る。


「・・・!」


その形相に勘助は少し怯んだ。



それに構わず古川は話を続ける。


「まだ出会って一週間しか経ってないような二人をこの牧場に残して死ぬことなんか、


芝ちゃんは絶対に耐えられへん。


なぜか?


芝ちゃんがそない言うたからや。


今までだって、ただでさえ自分なしではとてもやってこられへんかった牧場経営を


二十歳になったばっかりの二人に預けて死ぬ。


これがどれだけ芝ちゃんにとって辛いことか・・・。」



「だ、だったら・・・」



「けどな。


自分を主観的、客観的、ほんで医学的に見たときに、


自分の命の長さを考えたら、



勘助ちゃんらの面倒を見ていくことは不可能やと悟ったんや。




・・・だから、勘助ちゃんらには『ここに骨を埋める』とか、『病院にはいかん』とか、



つまり、ちょっとずつでいいから勘助ちゃんらの自立を助けてやりたいとこういうわけやったんや。」



「自立・・・。」



「そうや、自立や。


『芝ちゃんはいつか帰ってくる。』っていう考えを少しでも持ってたら


いざ芝ちゃんが死んでしもた時にどうなる?


たぶん勘助ちゃんらはショックで当分行動することを忘れてまうやろな。」



「そんなこと・・・。」



「いーや、絶対にそうなる。


勘助ちゃん、今でさえ、心のどこかで『芝ちゃんさえおれば・・・』て思てないか?



不自由があったときに、『芝ちゃんが帰ってきたらまたやってもらおう』とか、


思ったことないか?」




「・・・。」


勘助は、二日前のバルクとの出来事を


無意識に思い出した。


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(あの時・・・。)



バルクに体当たりされた時―



俺が思ったこと・・・。



『バルクは芝さんには少しなついていたな・・・。』



・・・俺は確かにあの時、『芝さんさえいれば』と思った。



『バルクの面倒を見れるのは芝さんだけじゃないか?


俺には無理かもしれない。』



とも・・・。




つまりこれが、『自立できていない』ということなのか?



「・・・。」



「あるやろう?


思い当たる節が・・・。



・・・つまり芝ちゃんは、そういうことに関して、


突然自分がおらんようになっても大丈夫なように



あえて自分に先はない風なことを言うたんや。




耐性を作らせたかったんやな・・・。


それが先の短い自分に精一杯できることやと思ったんや。」



「・・・。」



勘助は口をつぐんだ。



風が吹きはじめて、吹雪になる。

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「辛いやろうけどな。勘助ちゃん。


今の芝ちゃんにとっては『生き続けてくれ!』て言われることが辛い


ってこともあるんやで・・・。



とにもかくにも芝ちゃんは、たぶん勘助ちゃんらのことを誰よりも心配してる。



でも、心配してるが故に、な・・・。



思ってることと反対のことやって、結果的に自分を苦しめてるんやな・・・。」


「・・・。」



「今のあの人には、それこそストレスは害やから。


耐えるべきがどっちなんか。



それをしっかり判断しいや・・・。」



悲しみのこもった視線を投げかけ、古川は握っていた勘助の腕を離した。



「・・・はい。」


勘助は思わず目をそらした。



すると古川は勘助の肩に手を置き、



「でも、あんまり気負いなや。



今の芝ちゃんには、それが一番毒やからな。




ほんで、今勘助ちゃんがやらにゃならん事は・・・」



「・・・芝さんを安心させること。



・・・ですね?」


勘助は顔をあげた。



「・・・。」


古川は満面の笑みで返事をした。


「くれぐれも今勘助ちゃんに話したことは芝ちゃんには内緒やで。



聞いてないふりしてやってくれ。


・・・バレたらえらいことやからな!ハハハ!」


苦笑した古川は顔についた雪を払い、


放牧地の方を向いて、寂しそうな顔をする。



(古川さんも、聞いたときは悲しかったんだろな・・・。)



勘助は古川の横顔を眺め続けた。



(でも・・・やっぱり生きていてほしいよな・・・。)




人間の本能的な悲しみを得た彼は、


目頭を押さえた。




(もう・・・口には出せないだろうけど、



やっぱり、芝さんには生きててほしいよ・・・)


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(いきなりこんな話は辛かったかな・・・。)



目頭を押さえる勘助の姿を見て、古川は思った。



無理もない。


勘助にとって芝山は、親同然の大切な人である。


そんな人間が、


本当に自分が死ぬことを確信して、まさに勘助たちのために自分の身を捧げようとしている。


勘助たちの成長を見て、安心して逝きたいが為、


なおる可能性のある自らの体を差し出そうとしているのだ。




正に息子と言える立場の勘助が辛いと感じるのは


その事情を知っている人間ならば誰にでもわかることだった。



(しかし・・・。)


再び古川が放牧地方向に顔を戻す。



(芝ちゃんがもし、病院に入る可能性があるとすれば、


それは勘助ちゃんが社会人として立派にやってのける様を見ることやろう・・・。



今やかて、勘助ちゃんは芝ちゃんの死を望んどるわけやない。


やとすれば。


・・・。)




「・・・やっぱりこの事実、知らせたほうが良かったやろ?


兼続よぅ・・・。」



古川は、雪の降りしきる天に向かって、


亡き旧友に向かって、


静かに語りかけた。






当然、返事はない。





ただ、風が吹き、


雪が顔に当たるだけである。


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