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20/43

19

ヤ○ザが出てくるのはミナミの帝王の影響。

神様が出てくるのは当時ハマってたファンタジー小説の影響。


懐かしい。


ーーーーー


テレビのなかに写る、中山競馬場は熱気に包まれていた。


暮れのグランプリレース、有馬記念。


かつてコスモバルクが四度も挑んだこの舞台。


数々の名勝負がこの地で繰り広げられてきた。


『トウショウボーイ!トウショウボーイが交わしてしまったのか、内から内からテンポイント、


テンポイントかトウショウボーイか、


外から怖い怖いグリーングラス!・・・』




ムシテレビ競馬番組は、《名勝負を振り返る》のコーナーで、


トウショウボーイ、グリーングラス、テンポイントの


いわゆる『TTG三強時代』の有馬記念の映像を流していた。



『テンポイントーっ!』



ゴール前を最初に駆け抜けたのはテンポイント。


相手から見ても、圧巻と言うべき勝ち方だった。



「・・・ワシはグリーングラスのファンでなぁ・・・」




テレビの傍ら、病床で寝ながら芝山が呟く。



「この時は・・・ハァ・・・テンポイントが・・・憎くて・・・ハァ・・・仕方なかったが・・・」


苦しそうにうめきながら、


芝山はこたつにいる勘助に語りかける。


勘助はこたつを出て、芝山のもとへ這った。


「あまりしゃべらないで・・・芝さん・・・。」


しかし、芝山は話すことをやめない。


「・・・あの・・・ハァ、日経新春杯で、ハァ・・・テンポイントが、予後不良(※1)・・・なった時・・・ハァ、初めて、あの馬の・・・ことも、ハァ、好きだったんだなぁと・・・ハァハァ、好きだっだんだなぁと・・・ハハ


ゴホッ!ゴホッ!」



芝山は体を丸めて苦しみ、


そして吐血した。



「芝さん!?大丈夫か!?」



慌てて勘助が介抱する。



「ゴホッ!ゴホッ!」


なお苦しがる芝山。



「秋華っ!薬っ!」



勘助は、二階にいる秋華に呼び掛けた。


ドタドタという音と共に秋華がかけ降りてくる。


「どうしました!?勘助さ・・・


あっ!」



秋華は芝山の姿を見、瞬時に状況を判断した。


「薬を!早く!」


「はっ、はい!」



秋華が急いで台所へ向かう。



「ゼェ・・・ゼェ・・・」



「芝さん!落ち着いて息をして!」

「・・・ハァ、ハァ・・・」



芝山は、今にも眠ってしまいそうなほど、


体の力が抜けきっていた。


「くっ・・・芝さん・・・!」






※1予後不良・・・レース中などに骨折、又は発病し、その後治る見込みがないと判断された場合に競争馬の場合は安楽死という処分をとられる。

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「勘助さん、薬ですっ!」



水と錠剤を持った秋華が、台所から飛んできた。


「よし!」


勘助はそれを引ったくると、


芝山の口の中に入れ、



「芝さん!水を飲んで!」



といって、芝山の口に持っていったコップを傾けた。



ゴクン。


芝山の喉が動く。


秋華が心配そうに見つめる。


「ゲホッ!げほっ!・・・ふぅ。ハァ、ハァ・・・


っああ・・・」



芝山はようやく落ち着き、息を大きく吸うことに成功した。



「俺たちがわかるか!?芝さん!」

勘助が、大声で叫ぶ。



「・・・嬢ちゃんと・・・坊っちゃん。」



(よかった・・・!)


(ほっ・・・。)


秋華と勘助は、安堵した。



「す・・・まん・・・な・・・二人・・・とも・・・。」



無理に笑顔を作り上げた芝山は、秋華の手のひらを掴んだ。


秋華はその手のひらを包み返す。


「もうあまりしゃべらないで・・・


お願い・・・芝さん・・・。」



包んだ手のひらを自分の額にあて、


秋華が泣きそうな声で懇願した。


「お願いだから・・・。」



芝山はしばらく秋華の方を見ていたが、


やがて視線を反らし、


「あんまり・・・ハァ・・・人を病人・・・ハァ、扱いするな・・・」



「肺結核は病気だ!頼むから大人しくしてくれ!」



勘助は、芝山を怒鳴り付けた。



本意ではない。



芝山を怒鳴ることなど、心苦しくて仕方がない。


芝山は親のような存在である。


兼続が死んでからこのかた、育ててきてくれたのはこの芝山だし、


秋華をここに留めてくれたのもこの芝山だった。


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だから勘助は、芝山に長生きしてほしい。


恩返しができるまでは生きていてほしい。


大人しく療養していてほしいのだ。




「ところで、坊っ・・・ちゃん・・・トシローの、ハァ、飼い葉付けは、済んだか?」



「仕事のことも秋華と俺に任せて!


良くなってから復帰すればいいだろう?


お願いだから、休んで・・・」



「・・・。」



秋華は芝山の手を握ったまま、泣いている。


無理もない。



彼女がここに来て1ヶ月、永遠にこういった出来事の繰り返しである。



救いの親、とも言える芝山が


徐々に衰弱していく姿を見ているのは、彼女にはとても耐えられなかった。


「・・・病院にいこう、芝さん。」


「・・・!」



「薬で治すのは、無理なんだ


この病気は・・・


ちゃんと、入院して・・・」




「ワシの、ハァ・・・、死に場所は、ハァ、ここやてゆうたはずや・・・ゴホッ。」



咳が止まらない芝山。



「誰も死ぬとは言っていないだろう!?


病院に入ったら治るかもしれないんだ!


だから・・・」



「坊っちゃん・・・わかった・・・


もう、動かん・・・ハァ、だから・・・ハァ、ここにいさせてくれ・・・」



「・・・くっ。」


勘助は目線を反らし、唇を噛んだ。


芝山が、三年以内に生きている確率は約20%。


自宅療養で助かるような病気ではない。


が、病院にいる際、医者がその事をうっかりとばらしてしまい、


それ以来芝山は、病院に行くことを頑なに拒んだ。


「死ぬときはここで・・・と。」




「なぁ、坊っちゃん・・・ハァ、


せめて、あ、有馬記念は見せてくれんか・・・?


楽しみに・・・ハァ、してたんや・・・」



「・・・。」



勘助は無言でもう一度テレビを付けた。


「興奮しないでよ・・・」


「わかっ・・・とる。」



もうそのときにはレースは終盤を迎えていた。



『四コーナーから直線へ!


どうだ!ワールドクロックスは四番手の位置!先頭は逃げるにげるラピュタインザスカイ、


ラピュタインザスカイが先頭、


二番手内から公営ミツアキインパクト、しかし、


あーっ来た来た!ワールドクロックス!


残り二百で二番手ミツアキインパクトを捉えた、残るはラピュタインザスカイ、しかし、根性粘るラピュタインザスカイ、


春天馬の意地か!


三冠馬の貫禄か!


残り百!


激しい叩きあい!


激しい叩きあい!


しかし、やはり


抜けてきたのは、


ワールドクロックスーっ!


ルドルフよセントライトよ見ているか!


世界への時の流れは、止まらない!


ワールドクロックス、今一着ゴールイーン!


二着はなだれ込んだラピュタインザスカイ、さらに三着ミツアキインパクトをゴール前ハナ差交わしきったかスリーピングネムー!



時の流れは止まらない!

すべての競馬ファンの夢は海外へと進みます!』





先頭で駆け抜けたのは、ワールドクロックスだった。




その時の・・・居間の状況。



勘助はあまりの強さに目を疑い、



芝山は苦笑を浮かべ、




秋華は何がすごいのかよくわからなかった。



「ワールドクロックスが強すぎたな・・・」



テレビに写し出されるワールドクロックス。



その後ろを二番人気のラピュタインザスカイが駆けていった。


「いや・・・はぁ、初めて・・・危なかった・・・ゴホッ」


「・・・確かに。」


再びテレビは、レースリプレイを映し出す。


「・・・。


それよりも、ミツア・・・キ・・・インパクトは、ハァ・・・、惜しかっ・・・たな・・・ハァ」



芝山はそれだけを言うと、布団の上に脱力した。


「芝さん!?どうした!」



勘助は崩れ落ちた芝山を抱き抱え、急いで起こそうとした。


「芝さ―」


が、それを秋華が手で制した。


「・・・!?」


「脈もありますし、息もちゃんと落ち着いています・・・



・・・眠られたようですね。」



「え・・・、ああ、そうか・・・。


ならいい・・・。」




秋華は、芝山が倒れて以来、看護介護について勉強し始めた。


芝山の病気が早く治るよう、また、万一の時に応急処置が出来るように、


先日、普通救命講習完了の資格もとった。



正直なところ勘助は、


彼女がこれほど頑張り屋だとは思わなかった。



「・・・寝かしてあげましょう。


起きたらまたこの人は動きたがるもの・・・。」



若干困ったような顔を見せた秋華は、


自らの手で芝山の額の汗を拭ってやった。




その手は、微かに震えていた。


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芝山は、さっきまでの喧騒が嘘だったかのように眠り続けた。




1ヶ月前まであんなに元気に仕事をしていたのに、


芝山が病気という形で初めて老いを見せた。


楽しくなるはずだった、芝山と秋華どの共同生活は、


肺結核によって、見るも無惨な形に潰されてしまった。


(なぜ・・・今なんだ・・・。)



勘助は目の辺りに手を当て、黙りこんだ。



秋華は相変わらず、芝山の手を握り続けている。



(・・・。)



しばらくして、勘助は立ち上がった。



「トシローとバルクを馬房に入れに行ってくる。」



そう言うと勘助は厩舎の入り口へと向かった。



「わ、私も行きます!」


後ろから声が飛んできた。



「・・・ありがと。」



勘助は歩みを止めて秋華を待った。


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勘助と秋華は、並んで厩舎のなかを歩いた。



相変わらず管理馬は二頭しかおらず、その二頭すら出払っているため、


中はガラガラである。




「・・・。」



「・・・。」




芝山が倒れてからこのかた、勘助と秋華に会話は少なかった。


互いに看病に疲れており、勘助に至っては、これから先トシローの夜間放牧の監視も待っている。


二人とももはや疲労困憊し、とても二人きりの時間など持てないだろう。




現に、さっき降りてきたばかりの秋華の服装は、


アディダスのジャージにTシャツという、いかにも寝ていたというような格好であった。



・・・何でも似合うのが彼女の凄いところだが。



「・・・。」



無言で秋華は勘助の手に指を絡めてくる。


最近では唯一のスキンシップの手段だった。



勘助はその指から、なんだか不安が伝わってきたような気がした。


(苦しいんだな・・・。)




勘助は、


秋華の手を握り返してやった。





相変わらず、会話はなかった。


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外は相変わらずいい天気。



夏よりは少し空が低くなり、地面には積雪もちらほら見えだし、


青々とした放牧地の風景は、完全になりを潜めている。




山本牧場は


繰り返し書くが、敷地は広い。


しかし、管理馬が二頭しかいない現状では


そんな広い放牧地もただの宝の持ち腐れだった。



「じゃあ俺はバルクの方に・・・」


勘助は繋いでいた右手をほどくと、コスモバルクのいる方の放牧地へと歩き出した。



「じゃあ、私はトシちゃんを連れてきます。」



こちらを向いた秋華が声を追わせる。



勘助は了解を示す片手を挙げて、返事にした。






バルクは相変わらずの暴れん坊で、人間に誘導されることを極端に嫌う。


だから勘助も、何度噛まれたかわからない。


そんな馬のところに秋華を遣るわけには行かず、最近では勘助はコスモバルクに付きっきりだった。



コスモバルクのいるパドック大の放牧地が見えてくる。



見る限りバルクは草を食んでいたが、こちらの気配を察知するなり、


こちら側ギリギリの柵まで猛然とダッシュしてきた。


「ブヒュン!ブフ!」



バルクは尻っぱねをし、噛みつこうとし、外敵の侵入を防ごうとしている。


「俺はお前の世話役だ!落ち着け!」


1ヶ月はこの馬の世話をしているが、


いっこうになつく気配というものがない。


芝山が世話をしていた頃は、多少なつく素振りを見せ、たまに甘えるようなしぐさも見せていたが・・・


ガブッ。


「痛ってぇっ!」


勘助は、肩をかぶられた。


「な、何をす―」


ドーン!


体当たり。


「がはぁっ!」


勘助は三メートルほど飛ばされ、


そして立つ気力を失った。


「ふ、古川さんがいれば・・・」





・・・こんな風である。


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そして、バルクは向こうへ行ってしまった。


(もう、近づきたくない・・・)




勘助は起き上がることなくその場に倒れこんだままだった。



体当たりで精の根も尽きたようである。



「バルク~。


飯の時間やからこっちに来い~。」


蚊の泣くような声で勘助がバルクに呼び掛ける。


無意味であることはわかっているが、それくらいのことを試してみたいほど


世話は大変だった。


背中に感じる雪が冷たい。


空は青い。


なんとも気持ちいい天気である。



「何か対策考えなきゃな・・・」



バルクのあまりの気性の荒さに、勘助はほとほと滅入っていた。


(言ってもしょうがない。)


「よっ!」



勘助は上半身を起き上がらせた。


するとその目の前に。


「ブヒュヒュン!」



全く抵抗しないバルクの姿があった。


(えっ?)


本当におとなしい。


首を差し出して、「早くつれていけ」とでも言いたげである。



「・・・まさかお前、さっきの『飯の時間』に反応したとか・・・」


「ヒヒィン!」



バルクはとうとう、厩舎に向かって勝手に歩き出した。


「わっちょっちょっ、待て待て!」


勘助は急いで起き上がり、バルクの馬銜(ハミ)を押さえた。


どうやらバルクは、『飯=帰って飼い葉』という事を知っているようである。


(馬って・・・やっぱ賢いな。)




コスモバルクを引っ張り・・・


いや、引っ張られながら勘助は思った。


坂の向こうでは、トシローと秋華が彼らを待っていた。


(願わくは俺もそっちの仕事がいいなぁ・・・)



秋華を見るなり駆け足になったバルクに


付いていくのがやっとの勘助は、心の底でそう思った。

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トシローはやたらとおとなしい。



そして、誰にでもなつく。



親であるバルクとはえらい違いで、



現に1ヶ月前にここに来たばかりの秋華とは

もう既に心を通わしあい、むしろ勘助にたいしてよりもなついているように見える。


なんか寂しい・・・。



「また今日も派手にやられましたねー。」


秋華がにこやかに言う。


どうやらトシローと戯れてごきげんさんのようである。


「ん、まあ・・・ね。


でも、こいつについてちょっとわかったことがある。」



「えっ!?なんですか?


教えてください!」



少し驚いて見せる秋華。


「いや、まあ・・・大したことではないんだけど。


こいつ、『飯の時間』って言葉ですごく大人しくなるんだよ。


それと・・・」


・・・バルクの体が動いたのがわかる。


「そうなんですか?


よし、じゃあ試してみます!



『飯の時間!』」



「あっ!ちょっ・・・」


瞬間、バルクは油断していた勘助の手から逃げ出し、


秋華のところに顔を持っていった。


「えっ?ちょっと・・・あはは、くすぐった・・・」


顔の辺りをなめ回すバルク。



「やめて!くすぐったいてば!・・・あはは!」


秋華と戯れるバルク。



・・・できればずっと見ておきたい・・・。


「か、勘助さん!あは・・・これどう言うこと・・・やめ・・・あはは!」


もはや秋華は寝転んで転げ回っている。


やけに楽しそう。


・・・バルクも。



「その・・・女好きなんだな。


たぶん・・・」



勘助は、秋華に申し訳ないやら、


・・・バルクに感謝するやらで、


なんだかよくわからない顔をしていた。



「ちょっ・・・助け!あはっ!」


秋華はさすがに疲れたか、バルクの頭を離そうとしたが、


離れないのがバルク。



(もうちょっとこのまま・・・)



ドン。


「痛っ!」



勘助は後ろから何かに小突かれた。


「何するんだよ!」


勘助が後ろを向くと、そこにはトシローがいた。


「・・・ブフーっ。」


凄い目で見てきやがる。




「・・・わかったよ。」



勘助はバルクの頭絡を引き、秋華と引き離した。



「ハァ、ハァ、ありがと、勘助さん。」



遊び疲れた秋華はそのままその場に大の字で倒れこんだ。


そこにトシローがとことこ駆け寄る。


「・・・モテモテだな、おい。」


「えっ?」


「・・・何でもない。」


「?」



キョトンとした秋華をその場に残して、勘助は馬房にバルクを引っ張って行った。



(はぁ・・・)


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「はぁ。」


再びため息をつく勘助。


(賢すぎるのもなぁ・・・)






バルクを引いた勘助が、



ちょうど厩舎に入った頃―



《パーッパパパーッパパパーッ!》


関東G1のファンファーレが鳴った。



勘助の携帯の着信音だった。



(・・・?)



勘助は胸ポケットから携帯を取り出す。


バルクが若干そわそわしだした。


(知らない番号?)


通話ボタンを押す。


「もしもし、山本牧場です。」



『もしもし!?


勘ちゃんか?


俺や俺!


古川や!』



陽気でからっとした、懐かしい声だった。


「古川さん!!お久しぶりです!」



『おー、元気そやなぁ!


皆々元気か?』



古川はまだ芝山に起きたことを知らないらしい。


勘助は少し声のトーンを落とした。


「バルクも、その子も、


とても元気です。


健康状態に問題は全くありません。」



『そりゃ結構!ガハハ!』



「ただ・・・」



『ガハ・・・ん?


ただ、どないした?』


携帯を持つ手に力がこもる。




「芝さんが病気に・・・


かなり重たい病気です。」



『えっ?』


携帯の向こうの声は、急に深刻さを増した。


「肺結核です・・・。


・・・今日も吐血しました。」



『なっにぃぃぃっ!?


治る見込みは!?』



(厳しいことを聞くんだな・・・)



「三年後の生存率は20%・・・」



『えっ、ちょっ、そっ、あぇ!?

・・・本気か?』



「残念ながら・・・。」



『えーと、今大阪やから二日後にそっちに行く!わかった!?』



「えっ?」


『じゃあな、勘助ちゃん!』



ガチャッ。


電話の切れる音。


プーッ、プーッ。


あまりにも唐突な出来事だった。


「・・・。」


勘助は「切る」ボタンを押した。




「古川さんが・・・来る・・・。」


(芝さんには伝えないでおこう)



古川が来るなどと伝えたら、痩せ我慢して無理して働こうとするに違いない・・・。




居間の方を覗きこむ勘助。


芝山の足だけが見えるが、動いていないのを見ると、


とりあえず動いたりはしていないようである。



「・・・いろんな人に愛されてるんだ・・・。」



バルクを馬房に入れながら、勘助は呟いた。







「二日後か・・・二日後・・・。」



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携帯電話のディスプレイに映る


日付を勘助は確認した。


「12月27日・・・」



(古川さんが来るのは29日か・・・)



年の瀬真っ盛りの一番忙しい時期に、こちらに来ると言うのである。


会社の社長を二つも兼任しているとなれば、それはそれは忘年会や実務処理などでてんわやんわのはずだ。



ことに、あの仕事真面目な古川である。



「・・・大丈夫かな?」



日付を見たまま勘助が頭をかく。


(あの人はあれで結構無鉄砲なことするから・・・)



「だーれとメールしてるんですか?」


秋華がひょっこり勘助の肩から顔を出し、携帯を覗きこむ。



「えっ?あ、いや、ただの電話・・・」



「・・・女の子ですか?」



少し怪訝そうな顔をする秋華。



「ち、違う違う!


その、先代の友達の人で・・・」


「慌てるところが怪しいなー・・・」



「な!ほ、本当だから!



いやマジで!」



「・・・。」



「な、頼む、信用してくれ!


着信履歴を見れば・・・」


勘助は急いで着信履歴を開いた。

しかし・・・


(げっ・・・。)


番号登録は済んでいなかった。



「・・・誰の番号?」


秋華が後ろから肩にてを回して抱きつき、勘助の頬をひねる。



「だ、だから・・・先代の友達で・・・


古川さんって人!」



「ホントに?」



つねる力が強くなる。



「痛いってば!ほんとだから!


かけてみればわかる・・・!」


勘助は急いでその番号に電話をかけ直す。




ピッピッピ。


トゥルルル・・・


ガチャ。


「もしもし!?古川さん!?」



『もしもし、お電話ありがとうございます、ラージブリーティングファーム大阪支社でございます!』


女のオペレーターの声。


(なあああああああああああっ!)

勘助の顔から血の気が引く。


「女の子じゃないですか!」




「まっ、待て!話せばわか・・・




ぎぇえええええっ!」



勘助の断末魔の叫び。













勘助は


完全な濡れ衣で、


はじめての修羅場を経験した。






夜通し、説明は続いたと言う・・・。


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――――――大阪。




「今すぐ北海道行きのチケットを用意せぇ!


すぐに帰るで!」



古川は受話器を置くなり、傍らの秘書に命令した。


完全に冷静さを失っている。



「お待ちください、社長!


明日はサンデーレースアソシエーションの吉岡様と会談の予定が・・・」



「そんなもんほっとけ!」



「しかし、来年の一歳馬の購買契約が18件ほど不意になってしまいます!」



「・・・。」


古川が秘書を睨み付ける。


「な、なんですか?」



「・・・約20年ほど前な。」



「はぁ・・・?」



「活躍馬が一頭も出ぇへん時期があってな。


俺にはたいして血統の知識もない。


ただの2代目やから、なんにもわからんと適当に流行りの馬を種付けしてた。」



「・・・。」



「総会で問責決議が上がるほど酷いもんやったが・・・


その時に芝さんに相談に行ったら、


種付けのアドバイスしてくれたんや。」



「それが・・・?」



「その中で一頭がG1を勝った。


マイネルセレクトな・・・。」



「・・・。」



「あれでうちの経営は持ち直した。


つまり、あの人がおらんと今の状況すら無かった訳な。」



「しかし・・・。」



「俺は不義理なことはできん。


わかったらチケット用意してくれ。」


古川は再び歩き出す。


「あっ、待ってください!社長!」

秘書がすかさず止める。


しかし、古川は





「関空で会おう。」


とだけいい残し、立ち去った。




「社長・・・。」








「チャンス……か。」



その様子を影から見ていた


古川のもう一人の秘書、八島蘇武輪(やしま・そぶりん)は


何者かに電話をしだした。






大きな陰謀が渦巻く・・・。


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