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途中ペコメも入るんか……すみませんスルーでw


ーーー時は流れ。



秋。


草木は枯れ、北海道では雪がちらほら。


山本牧場も、だんだん肌寒くなってきた頃。




『さぁ第4コーナー回って最後の直線、・・・坂を上る!』


東芝レグザの液晶テレビはムシテレビ青島の声で実況している。


秋のG1、最後の東京開催ジャパンカップ。


かつてコスモバルクも走ったこのレース。(ゼンノロブロイの二着)


『先頭は、香港の逃げ馬ヴァンフォーレ、さぁヴァンフォーレが先頭か、しかし府中の直線は長い!


ヴァンフォーレ逃げる、ヴァンフォーレ逃げる、


うちから伸びてきたのは秋華賞馬クリーンスイープ、女傑がヴァンフォーレを捉えた!』



「おぉう!」


芝山が唸る。


『先頭はここでクリーンスイープに変わった!


先頭はクリーンスイープ!このまま押しきれるか、


残り200!』


しかし、この時、一人としてクリーンスイープを見ているものは居なかった。


「うわぁ、来た」


この言葉は勘助が発したものだったが、恐らく何万の競馬ファンが同時に同じ言葉を漏らしただろう。


『さぁ来た!ものすごい脚でワールドクロックス!



オルフェ以来の三冠馬が、ディープ以来の無敗の三冠馬の末脚が、ここ府中に炸裂する!


あっという間にクリーンスイープを捉えた!


これはすごい!これはすごい!


残り100!


リードを八馬身九馬身広げた、

もう後ろからはなにも来ない!


鞍上の佐武幸二郎持ったまま


余裕、余裕、余裕!


ワールドクロックス、今一着ゴールイーン!!!


ものすごいっ!


これが、世界にとどろく末脚!


日本が誇る、世界標準時!


その時の流れはドバイへ、ロンシャンへと向かいます!』





山本牧場社員寮、居間。


古川と勘助はあっけにとられていた。


「残り200であれを最後方におって捉えられるか・・・」


芝山は半笑いだ。


「正真正銘化けもんですね。


有馬のオルフェ(オルフェーヴル)思い出しました。」


勘助はさながら息をのみ続けているといった感じ。


「いやいや、ダンスインザダークの菊花賞やて」


その顔のままの芝山。


「これは、あれですね、

ディープのキレのよさと、

オルフェの絶対能力、

(シンボリ)ルドルフの安定感、

(ナリタ)ブライアンのパワー、

(ミスター)シービーの派手さ


全部持ち合わせてるような・・」

「せやなぁ。まさにそんな感じや。


しゃーけどやな、こいつ、父がウインバリアシオンやで。


血統的な派手さはゼロや。」

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「でも、そういう馬が活躍するって言うなら、


うちのトシローにも希望が持てませんか?」


勘助はにこやかに言った。


「その通りや。まして、あいつはほんまに馬格がいい。」


よっこいしょ、と腰を浮かした芝山はテレビを消してそう言った。

「よし、仕事戻ろか。


トシローを馬房に入れてくれ。


俺はバルクの様子見てくるから。」


玄関へと向かう芝山。


「わかりました!お願いします。」


勘助も立ち上がり、放牧場へと向かう。



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―秋


あの古川との会談からは一年と半年ほど経っていた。


今年生まれたのはコスモバルクとラグフェアーの子。


去年の死産は一体なんだったのかと思わせるような安産だった。


まず、この事に驚かされた勘助一同だが、次に驚いたのは、


この子、とんでもなく男前である。


ナリタブライアンも目じゃないというようなとんでもないイケメンで、


勘助は幼名(子馬の頃の名前)をキムタクにしようと言ったが、


芝山の


「いや、この子は三船敏郎のような大スターになる。」


という鶴の一声で、「トシロー」と命名された。


最後に驚いたのは、この子の親離れである。


通常、サラブレッドの子はある程度時が経つと無理やり子を親と引き離す(親場馴れ)という事をしなければならない。


これは、

子を自立させるため、また、次の年の種付けに備えてであるが、


大概の子馬、親馬は未練があるのか当然なかなか離れたがらない。

それで、人間が無理やり引き離す。



・・・はずなのだが。


このラグフェアーの子、トシローは、


なんと自分から親離れしたのである。


勘助たちの知らない間に親、ラグフェアーとは別行動をとるようになり、


しかも全く動揺する気配もなく、

いつも通り放牧地を駆け回っていた。


これにはキャリア40年の芝山も腰を抜かして、


「こんな薄情な馬は見たことがない。


自立心なのか、親嫌いなのか?」


と、怒るやら首をかしげるやらであった。


しかし、同時にそれは、大物の誕生を予感させるものであった。


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時を戻して現在。




勘助は厩舎側から外に出て、


放牧地を見渡す。


相変わらずだだっ広い敷地に、草が生い茂っている。


家は高台にあり、放牧場の端の方との高低差は約五メートル。


結構な坂である。




・・・が、トシローはそれを


朝に放した時から延々行ったり来たりするのである。


今は夕方4時。


いったいこの馬は今日何キロ走ったのだろうか?




「トシロー!飯の時間だから帰ってこーい!」


勘助は、ラグフェアーの子トシローに向かって大声で叫んだ。


すると、今にも坂を下ろうとしていたトシローはバッと振り返り、

こちらに向かって走ってきた。


豪快なフォームである。




「お疲れさん、トシロー・・・



また蹄から血ぃ出してるな、お前・・・」



トシローの蹄は走りすぎで、血が出てきていた。


たいした怪我ではないが、


トシローは毎回これをやって帰ってくるのである。


この処置がまた大変なのだが、


トシローは気にせず、


「どんなもんだい!」


とでも言いたげに、首を上下していた。


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「お前なぁ・・・走るのが好きなのは競走馬としていいことだがな。



痛くないのか?それ。」


呆れ顔で勘助はトシローの額を撫でながら言う。


トシローは、気持ち良さそうに

ぶるる

と鼻をならした。


勘助は苦笑し、


「気にならないんだな。


すごいよ、お前。」


と語りかけた。


トシローが少し笑ったように見えた。




馬は不思議な生物である。


人間の感情を読み取ることができるのは、人間以外にはこの生物だけではないかと、たまに考えさせられる。


しかも、このトシローという奴は、勘助が話しかけると必ず何か返事をするように


行動を起こすのである。


いつか話しができるようになるんじゃないか?


そんな風にも思わされる。


なんとも賢い?馬である。


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「さ、馬房に帰るぞ」



普通競走馬は、無口(顔輪)を引っ張って、いく先を厩務員が誘導するのだが、


トシローはそれが必要ない。


勘助になつき切っているので、一度呼び寄せたらその後ろしか歩いてこない。


勘助もそれを知っているので、わざわざ引っ張るようなことはしない。


とても当歳とは思えない。


《花の慶次》の松風と慶次


といって理解してくださる人もいるだろうか。




ちょうど厩舎の入り口に差し掛かった頃、長い間使っていなかったが、最近また使い出したパドック大の小さな放牧地から


大きな馬体と芝山が歩いてくるのが見えた。




その馬の正体は



ラグフェアーではない。



ラグフェアーはトシローの子離れと共に、ラージブリーティングファームに契約通り売却された。


今はしがらき分場に元気に暮らしているという。



そして、それと交換するかのように、一頭の馬が山本牧場にやって来た。


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「坊っちゃん、トシローはどうだい?」


芝山が向こうから声をかける。


勘助は手を振り、


「また、蹄から出血してました!


でも、すごく元気です!」


と返事した。


「りょーかーい!」


芝山が手を振り返す。


芝山の横の馬は頻繁に暴れる。


相当手を焼いただろう。


近づくごとに、芝山の疲れきった姿が見える。


そして、横にいる馬というのは―。


「バルクのほうはどうでした?」


「今からでも現役できるんちゃうか?ははは・・・うわっ!」


また暴れだした。


「落ち着け!落ち着けコスモバルク!」




・・・そう、コスモバルクである。


何だかんだで古川は山本牧場に目をかけてくれている。


山本牧場の経営が立ち行かなくなった際には、

ラージブリーティングファームの養老牧場(引退馬の牧場)として買い取ることを約束してくれた上に、勘助と芝山の再雇用も約束してくれた。


これにより、勘助たちはある一定の保険を得たことになる。


さらに、ラグフェアーを買い戻せない期間は、コスモバルクの世話と引き換えに生活費を保護してくれると、


なんとも優遇としか言い様のない、最高レベルの支援をしてくれているのだ。


ありがたい。


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やっと落ち着いたコスモバルクを引いて、芝山は


「こいつ先に入れるわな。」


と、急いで馬房の方へ入っていった。


「はい、わかりました。」


と、返事した勘助はコスモバルクが馬房に入り収まるのを待つことにした。


すると、


腕の間からごそごそとトシローが顔を出した。


勘助の服に顔をすり付ける。


なんとも甘えたさんである。


勘助はトシローの方に体を向け、まだ小さいトシローと同じ目線に顔をあわせ、


「お前もお前の親父みたいな立派な競走馬になれるように頑張れよ。」


と言ってたてがみを撫でてやった。


するとトシローはなんとも嬉しそうにその場で足踏みして見せたりするのである。






なんとも意思の疎通の取れたいいコンビ。


水魚の交わり。


荒木と井畑。


平野と鳥谷。


小倉と潮田。


星野と田渕?


ながなが書いたが、この二人はそんな関係に相違なかった。



勘助は西の山のほうをみた。


今日は何ともきれいな夕陽である。


きれいな・・・えっとなんかあったな。


あぁ、明日は雨か。


そんなことを考えていた勘助は、水滴が腕に落ちてきたことに気づき


「うわ、これは降りよるな。


トシロー、馬房に戻るぞ!」


といって、厩舎に走っていった。


トシローは

ぶるん

と一声、


勘助の後ろをついて駆けていった。



勘助とトシローの姿は、厩舎へ消えていった。













その日は、勘助の予言通りの雨になった。


勘助には、この先に出会いが待っているが


それはまた次の話・・・。



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