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これより先、
『編集 しおり コメント(0)』
という謎の文が挟まれることがありますが、エブリスタ上のページの境目になります。いちいち消してたんですが、アホほど時間かかるし、どうせこのあとほとんど全部修正かけるし、そもバックアップ用にこっちに投稿してるので、
ここから消すのやめます。もし、続けてよんでくれはる奇特な方いらっしゃったら、申し訳ないですけどスルーして読んでやってください。
勘助と古川をのせた車は、延々と続く緑の放牧地を
それほどスピードを出すでもなく、ゆっくりと走っていた。
まさに大手牧場、である。
放牧地に広がる風景はそれはもう単調なもので、奥に進むにつれてだんだん幼駒の数も少なくなっていく。
五分ぐらい走ったところで、一歳馬と見られる馬は完全にいなくなった。
車内の勘助と古川は、特に何を話すでもなく、緑の車窓を眺めながら車に揺られていたが、
勘助には気になることがあった。
「・・・古川さん、ちょっとだけいいですか?」
古川が窓から目線をこちらへと移し替える
「何なりとどーぞ。」
古川の独特の返しと言っておこう。
勘助は、聞きたかったことを一瞬忘れそうになったが、寸前思いだし、
「えー、そうそう、
なぜここの幼駒はあんなにもフリーにされているんでしょうか?
見たかんじ、もう皆バテバテのようでしたけど・・・
あれでちゃんと馬が育つんですか?」
それを聞くなり古川は、ニマッと笑い、まるで待ってましたとばかりに、
「まず二つ目の質問から答えよか。」
と指をたてた。
「はぁ・・・」
勘助は、古川がなぜそんなに自信ありげに話すのかがわからない。
勘助が見た幼駒たちは、強いて言えば、来客者に見せるには恥ずかしい馬体だった。
あれを所有していて、そこまで頼もしいものでもないと思うが・・・。
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古川の目は、
まるで買ってもらったおもちゃを自慢する子供のようだった。
「あいつらがバテバテになってる理由はな、
あいつら三日前から放牧してほったらかしやからや。」
「え!?
三日前から馬房に入れてないんですか?」
あり得ない。
勘助は自分の常識を思い返した。
「そんなことしたら、そんなことしたら、
そっ、そうだ、飼い葉は!?
飼い葉はどうするんですか!?」
古川は少し偉そうに上を向いて、
「放牧地の草を食うて腹は満たしてもらうんや。」
と、指をたてたまま言った。
が、勘助には衝撃的な言葉だった。
「そ、そんなことしたら、馬の線が細くなっちゃうでしょ!?
それに、栄養価もまちまちでしょうし・・・!」
古川は今度はふふんと鼻で笑い、
「これは例えの話やけどな。
もし、勘助ちゃんが三日間ジャングルでさまよって、
やっと家に帰ってきたときに
ごちそうが用意されてたら、
勘助ちゃん喜んでそれを食べるやろ?」
「えぇ、まあ・・・。」
体験したこともないし、あまり想像もつかなかったが
恐らくそうだろうと思った返事だった。
それを聞いた古川は一度うなずき、
「ご飯を食べれて幸せと思うやろ?」
「・・・はい。」
「それと一緒やがな!
一回そういう体験した馬ってのは、食に対する
執念を知るんやな。
したら、デビューしてもなかなか飼い食い(飼い葉を食べる量)が落ちたりすることが少なくなると思うんや。
そうすると調教しやすくて強い馬が生まれる。
つまり、あいつらがええ成績を残せる可能性が広がる、と
まあこういうわけや。
・・・まあ、実際効果のほどはわからんけどな」
「しかし・・・」
「ついでやから他の質問にも答えよか。
フリーに放してある理由はやな、
そりゃあ馬かて生き物やから
水を求めて、食べ物求めて走り回るやろ。こっちが与えへんわけやから・・・」
「まあ、そうですね。」
勘助は場面を自分に置き換えて理解しようとしていた。
そんななか、古川は続けた。
「そこが狙いやねん!
ここの放牧地には、水を引いてきてるんやけど、
食うてうまい草が生えてるところと水飲み場をわざと放してあるねん」
「はあ。」
「したら、外見てみ。」
古川は外に向けて指を指した。
さっき草を食んでいた幼駒の大群が、丘を駆け上がっていくのが見える。
「馬が・・・坂を上ってますね」
「そう!
あいつらは水を求めて
知らん間に坂路調教してることになるんや。
人が追っかけ回して
追い運動(平地で無人の馬を追い回す)
するよりも、よっぽど効果的やと思わんか?」
なんとも合点の行く話である。
「・・・なるほど。」
勘助は上った坂を下りていく馬たちを見ながら答えた。
丘、といっても、それほどの高低差ではない。
しかし、そこを駆けるのは一歳馬。
彼らにとっては確かに相当な運動になるのだろう。
古川は続けた。
「まあ、この育成方針を初めて打ち出したのは、アメリカの牧場でな。
向こうはもっと長いことほったらかしにするらしいわ。
長いところで一週間、とかいうたかな」
「一週間!?」
古川の方をバッと振り向いた勘助は再び驚愕した。
三日や二日ならまだしも、七日間も放したまんまだと、
人間の作り出した弱い生き物であるサラブレッドは
生命維持に関わってくる。
「そこまでなると、その、
馬が死んじゃったりしないんでしょうか?」
勘助は、少し下を向いて目線を反らし、聞いた。
古川は腕をくみ、うむ、とうなずいて前方を見据えながら、
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「どうもな、
別に死んでもかまへんみたいやねん。」
「!?」
それはいったい―
「要するにな、途中で死んでまう馬ってのは体質的に弱い馬や。
そういう馬はあんまり大成せんやろ。
貧乏で、土地だけがやたらと広い牧場はだいたいそんなことをして、
走る馬、走らん馬を選別するんやってさ。」
「そんな・・・。」
一言で言えば、
責任感に欠ける。
自分達の勝手で生ませた馬を
いわば間引きするのである。
本来、そんな事情を持たせて生ませた馬ならば、
分け隔てなく、最後まで面倒を見てやるのが道義ではなかろうか。
勘助はそう考え、古川に思いの丈をそのまま話した。
「それって、
あまりに身勝手すぎませんか?
生まれてくる由縁を作ったのは生産者な訳でしょう?
だったら、売れそうにない馬でも最後まで面倒見てやるのが―」
「向こうとこっちでは常識が違うんや。」
多少ヒートアップしていた勘助の言葉を、古川の冷静そうな言葉が遮る。
勘助は少したじろいだ。
「向こうは土地が広い上に、競馬は国民的に知られたスポーツや。
恐らく、国民の馬に対する愛情は日本の比じゃないやろな。
馬の名前と映画俳優が並ぶこともあるくらいや。
・・・それゆえに生産人口も多い。
でも、日本の競馬とあんまりニーズは変わらん訳や。
するとな、競走馬になれる馬の数ってのはごっつい少ないんや。」
「・・・。」
「競り市で売れる馬は当然走りそうな馬。
そんななかにひょろっちい馬をなんぼほど出したところで、全く売れへんのや。
そんなことになったら、それまでに育成にかけてきた金が全部無駄になるやろ?
そんなことになるぐらいやったら、売れそうな体質の強い馬を選別する。
やむを得ない判断、ちゅうこっちゃな。」
そこまで言われても納得できなかった勘助は、
「でも国民的に馬が愛されてるのなら、なぜそんな酷いことをするんでしょう?」
と、聞いてやった。
それを聞いた古川は苦笑いして、
「酷いって・・・
あくまで生産者と観覧者は違うんやで。
あの人らは勘助ちゃんと同じように明日の生活でヒーヒーゆうてるような人らや。
日本でさえ馬売るのは難しいのに、アメリカの大量生産社会で生き残るには
多少非道なことくらいはやっていかなあかんねやろな・・・」
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(´;Д;`)
「・・・古川さんも同じ考えですか?」
勘助は低い声で聞いた。
古川は少しキョトンとしたように、目を開いて見せて、それから喋りだした。
「俺は馬主業を何年もやってきて、馬が死ぬのも殺されるのも何回も見てきてる。
けど、これを言うたら馬に関わる仕事には向いてへんって言われるかもしれへんけど、
俺は馬が死ぬのも殺されるのも、見てて耐えられへん。
最近目の前で見たのはコスモメドウかな。
あの時に正直馬に関わる仕事はもうやめたかった。
あの馬には当歳のころから期待かけてたから・・・
まあ、それはエエわ。
とにかくやな、
俺は生まれてきた馬が
たとえ体が弱くても、素質がなくても、
セリに出すその日までは絶対に責任を持って育てやなあかんと思てる。
せやから、そんな間引きみたいなことは未来永劫やらんつもりや。」
語り終えた古川は腕は組んだまま、なにかを見据えるような顔をしていた。
その言葉を聞いた勘助は古川を見つめ続けた。
勘助としては古川に尊敬の意すら込めた視線のつもりだったが、
古川は勘助が真意を疑っているものと思ったか
「なんや!そんな目ぇしてどした?
勘助ちゃんまだなんかあるか?
いや、ほんまに大丈夫やから、馬はあれでちゃんと管理されてんねん。
放牧地一帯を見渡せるように、あちらこちらに監視用の赤外線カメラを完備してる。
もし、どっかで馬が倒れるようなことがあってもスタッフが助けにいってくれるから。
そやからいまだかつてこの牧場で餓死した馬はおらんよ。
これでどや?」
「え?」
必死に弁明をする古川の姿を見て、勘助は自分の視線が勘違いをさせていることに気づき、
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「いっ、いえ、別に古川さんの言葉を疑ったりしてませんよ。
逆になんというか、その、
古川さんの馬への愛情に感激してたんです。
ですから、ホントに、その、そんな疑ったりしてませんから!」
勘助は必死に挽回に努めた。
勘助は、古川の心意気に本当に感激したのである。
しかし、その結果としての見つめてしまうという行動で、古川は自分の言葉が疑われていると勘違いしてしまった。
どうしてこうも自分は人の気分を害することに長けているのだろう?
勘助は、自分の脳ミソと口を恨んだ。
そしてうなだれた。
一方、突然落ち込みだした勘助を見た古川は、
「いや、別に怒ってないで!
菅ちゃん、気ぃ確かに!」
と、なんだかよくわからないまま励ましていた。
その後、車内では古川と勘助の掛け合い漫才のような会話が続いた。
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泣ける…&勉強になる!
―やっと立ち直った勘助に対して古川が、あっちやこっちにいる馬の話でなんとか盛り上げようとするので会話は成立し、そして時間は矢のように過ぎていく。
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「そうそう、あそこにおるのが
コスモオオゾラ。
種付け料は安いけど、これからロージズインメイの代表後継馬に成り得る馬や。
それであっちがこの間買い取ったフレンチカクタス。
結構高い買い物やったわ~。
それであれは・・・」
まるでガイドさんである。
しかしそれは、
もはや何がどこにいるかを記憶するためではなく、
毎日毎日車を使っては見回っているからなのだろう。
この人の、馬への愛は底無しのようだ。
「社長、着きました。」
ちょうど古川が、自分の大好きな名牝テスコガビーの話を終えた頃、
車はある一件の小さな厩舎の前に止まった。
古川は腰を浮かし
「よう、ありがとう!
うるさくしてすまんかった。」
と、運転手の肩をポンポンと叩き、
戸を開けて外に出た。
勘助があわててあとに続く。
外に出ると、まず、古川が
「うぅーっ」
と呻きながら背伸びをする光景が目に入ってきた。
そして、運転席から降りた運転手が、
「お疲れ様でした。」
とお辞儀するのも見えた。
その奥には厩舎がある。
あとから作られた個室のようなので、
いわばそのなかにいる馬はもはやVIP待遇である。
よほど古川に気に入られてるということか。
それで、そこにいた馬というのは―。
「あぁ、せやせや
勘助ちゃん紹介するわ。
かわいいやろ?
こいつがコスモバルクや。」
勘助は硬直した。
「こ、この馬が・・・」
古川に鼻を寄せたその馬は、
勘助が見た限りでは
その黒光りする、いかにも見映えのする馬体から
その力強い四肢と胴体から、
なんとも神秘的なオーラを出しており、
勘助はその瞳に自分が吸い込まれていくような感覚に苛まれた。
「こいつが・・・コスモバルク!」




