魔都
少し迷いましたが、この度、拙作をオーバーラップWEB小説大賞に応募することに決めました。
ぎりぎりになりましたが、これを期に多くの人に拙作を知っていただければと考えております。
応援していただけると幸いです。よろしくお願いします。
「やっと着いたか」
一息入れるように、椎名がつぶやく。人目を避けて、道なき道を行くこと一か月、木々の合間から魔都の姿が映るところにまで、僕らはようやくたどり着いた。
魔族領に入ってからここまで、街道をまっすぐ進めば、もっと早くたどり着くことができただろう。しかし、魔都に近づくにつれ、魔族の警備の厳しさも増しており、それをかいくぐりながら進むために、ここまで長い時間がたってしまっていた。ユンさんいわく、魔族領の最初の町から魔都までは馬車で移動すれば十日かからない程度でつくらしいので、かなりの時間を迂回に使ったことになる。
僕は遠くに見える魔都に安堵のため息をつきそうになりながら、無理やりそれを飲み込んだ。何よりも本番はこれからだ。
「今日は魔都の近く、行けるところまで移動して、休むぞ」
椎名の言葉に僕らはうなずいて、また移動を開始した。
幸いなことに、魔都周辺はうっそうと茂った森に囲まれており、僕らはその森の陰に潜む形で魔都の近くまで歩を進めた。魔都が見えた時に中天に差し掛かろうとしていた太陽が、今ではすっかり沈んでいる。僕らは森の木々に身をひそめながら、魔都の様子をうかがった。
「でかいな……」
思わずつぶやく。前にいた魔族領の町より大きいのは当然だが、それにしても大きい。見上げるような城壁がぐるりと町全体を覆い、その向こうに見える、おそらく魔王の居城と思われる城が、威圧感をもって存在している。そして何よりも僕が驚いたのは、魔都の入り口だ。
縦横五メートルは下らないであろう大きさの、鋼鉄の門。両側にはかがり火が焚かれ、物々しい装備をした魔族が油断なく周囲を観察している。まるで、砦か何かのようだ。
「あれが魔都の正門だよ。通称、南門。魔都に入るためには、東西南北にある門のいずれかから入らなければいけない。目には見えないけど、城壁の上から魔都をすっぽり覆うように結界が張られていて、上空からの侵入は不可能だ」
僕のつぶやきに応えたのか、ユンさんが周囲に目を走らせながら言う。椎名はじっと正門を見つめた後、軽く息を吐いた。
「あれを強引に通るってのは、ちょっと無理そうだな。ユン、ここが正門なら、他の門はどんな感じなんだ?」
「正門より規模は小さいけど、その分警備は厳しいよ。悪いことをたくらんでる連中が入ろうとするのは、正門よりもそっちだからね」
「なるほど」
椎名は考えるように腕を組むが、ユンさんはその椎名を見て笑った。
「何考え込んでるんだい。まあ、人目を避けてずっとここまで来たから、気持ちは分かるけどね。私たちは別にやましいことをしようってわけでもないんだ。正面から入ればいいじゃないか」
……なるほど、確かにそうだ。ぼくはここ数日間で自分の考えが凝り固まっているのを自覚して、軽く頭を掻いた。
確かにユンさんの言うとおり、僕らは別に魔都に潜入しなければならないわけではない。僕らが身を隠していたのは、あくまで反乱軍からであり、魔都が魔王軍の本拠地であるならば、堂々と入ればいいだけの話なのだ。
僕らが反乱軍でないことは、ユンさん以外の面子を見れば明らかなのだから。
「……それもそうか」
椎名は軽く息をつくと、ユンさんの方に向き直る。
「だが、こんな時間に行くと怪しまれるだろう。今日はどこかで休んで、また改めて明日出直すか」
「それなんだけどねえ」
椎名の意見は至極まっとうに見えたが、ユンさんは軽く首を振った。
「反乱軍ってやつの動きが分からない以上、あんまり時間を使うのは得策じゃないよ。今は幸い、それっぽい連中は辺りにいないようだけど、明日になればどうなるかわからない。今、入れるうちに入ってしまった方が良いんじゃないかな」
「だが、それで変に警戒されるとまずいだろう」
「それについては勝算があるのさ。まあ、任せときなって」
結局僕らは、自信満々のユンさんに押し切られる形で、今日の内に魔都に入ることに決まった。ユンさんが言う反乱軍への警戒もわかるものだったし、何よりジュナを早く落ち着いたところに休ませてあげたい。
僕らは少し引き返して街道に出ると、周囲を警戒しつつも門に近づいた。
「何者だ!」
夜の闇の中から歩く僕らに気付いたのか、門を守っていた魔族が声を上げる。ユンさんは小さく「任せときなよ」僕らに言ってから、門の前に歩を進めた。
「やあ、私だよ」
「ユン様っ!?」
その姿がかがり火の光に照らされたところに来るや否や、魔族が悲鳴のような声を上げる。……ユン、様?
「おい、椎名。どういうことだよ」
「俺だって知らん」
僕らが後ろでこそこそ話している間にも、ユンさんと魔族の会話は続く。
「なんだか面倒なことになってるみたいだね」
「みたいだねって……。また、魔族領の外に行ってらっしゃったんですか」
「まあ、そんなところだよ」
ユンさんがはぐらかすようにそう言うと、魔族はこちらにも伝わってくるくらいの大きなため息をついた。
「反乱軍についてはどこまで?」
「イルの町で少しだけ耳にしたよ。ていうか、あの町の誰も、私に気付かなかったねえ」
「それはそうでしょう。魔都からほとんど出ないユン様の姿など、魔都の住人くらいしか知りませんよ。名前で察しろと言うのも無理がありますし……」
魔族は困ったようにそう言う。ユンさんはそれにからからと笑った。
「まあ、いいや。とりあえず、入れてくれるかな」
「はい、もちろんです。ところで、後ろの方々は……」
「ああ、私の友人たちだよ。一緒に入れてほしい」
ユンさんの手招きに従って、僕らは魔族が見える位置まで歩を進める。魔族の呆れたようにユンさんを見る視線が、何とも同情を誘った。
「人族に獣人、竜人族まで……。どっから連れてきたんですか」
「いやあ、反乱軍に見つからないようにここまで来るのは大変だったよ」
「はあ、分かりました。ユン様の紹介なら文句はありません」
魔族はそう言って、正門のわきにある小さな入り口を開いた。
「時間外ですので、こちらをお通り下さい。それとユン様、魔王様がお探しでしたよ」
「また怒られるなあ。まあ、少し時間をおいてから自分で会いに行くよ。それまで私のことは内緒で頼むよ」
「お願いしますよ、ほんとに」
魔族は疲れたように笑うと、頭を下げた。ユンさんはそれにひらひらと手を振って扉を通る。僕らもそれに続いた。
「ユン、お前はなんなんだ?」
「うん?初めてユキと会ったときに言った通り、しがない研究者だよ」
なんだかいろいろ驚きすぎて、もう声も出ないとはこのことだった。僕らはこれまでの旅路が馬鹿らしくなるほどあっさりと、魔都の中に入れてしまったのだから。
「まあ、おいおい説明するよ。今は先に、宿を確保しようじゃないか」
そう言って、ユンさんは慣れた様子ですたすたと歩きだしてしまう。僕らも仕方なく、その後ろに続いた。
マジで何者なんだろうな、この人は。あまり過去を語りたがらない彼女だが、あの魔族の反応からして、ただのしがない研究者、ではないことは確かだろう。
まあ、いつか、本人の口から聞けたらそれでいいか。彼女が何者であろうと、僕らの助けになってくれたのは確かだ。ていうか、ユンさんには助けられてばかりだな。
僕は軽く息を吐いて、思考を切り替える。そして、ゆっくりと周囲を見回した。
ここが魔都か。外から見ると物々しい威容をたたえていたが、中に入ってみれば普通の町だ。都会なだけあって、通りをゆく者の数も多い。
少々気になるのはその種族の比率だった。魔族ばかり、と言うわけではない。むしろその逆で、魔族以外の種族の姿が多く見える。
「反乱軍の目的が他種族を滅ぼすことだからね。その対抗勢力の本拠点に逃げてきてるんだろう」
周りを見回している僕に、ユンさんが言う。どうやら、普段よりも他種族の数は増えているらしい。
「で、泊まる宿の目安はついているのか?」
「うん、この先に良い宿がある。私も普段よく泊まっているところでね。あそこなら面倒も少ないはずさ」
ユンさんはそう言って、大通りから少しそれた小道に入った。見失っては笑えない。僕らはあわててそれを追った。
複雑な小道が入り混じる裏道のような場所を、ユンさんの背を追って進む。ここではぐれたら間違いなく迷う自信がある。後ろからついてきているジュナと野中さんに気を配りながら、前方をゆくユンさんとヒョウカさんから離れすぎないように、僕と椎名は並んで歩く。
そんな風に前後に気を配ってたせいで、横の小道から現れた人影に一瞬、反応が遅れた。
「いてっ」
「っ!すみません」
体をぶつけてしまいあわてて謝る。少したたらを踏んで体勢を立て直すと、相手の顔を見た。――って、おいおい。
「……神代?」
「……田中!?」
そこにあったのはずいぶん久しぶりに顔を見る、クラスメイトの姿だった。
どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
と言うわけで、第四章はこれにて終了となります。
短い章でしたが、間を埋める&説明の章となります。ここから物語も加速させていきます。
ついに魔都に集った主な面々。次章ではこの魔都を中心にお話が展開されます。
なるべく早く投稿しますので、よろしくお願いします。
感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。




