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クラス召喚されたクラスメイトA  作者: kimera
魔族
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思考

 魔都までの道は、今までの旅とは段違いの厳しさだった。まず、道を歩かない。

 反乱軍の一部が大陸中央部まで攻めてきている以上、魔都より大陸中央部側に反乱軍の大部分がいる可能性が高い。他種族の絶滅を目的としている反乱軍に、魔族以外の種族が少ない僕らが見つかるのは、避けなければならない。

 よって、僕らは土地勘のあるユンさんの案内のもと、町や街道を避けた道なき道を魔都に向かって進んでいた。今現在は、森の中だ。

 目下、最も警戒しなければならないのは魔獣だった。人里から離れた場所は魔獣の縄張りになっていることが多く、魔獣が表れるたびに椎名とヒョウカさんが剣をふるっている。ユンさんが周囲を警戒し、僕と野中さんはジュナを守る役目だ。

 椎名がまともに戦っているところを見るのは初めてだったが、その戦い方は、僕やヒョウカさんのようなタイプとはかなり違う。

 魔獣の正面から抗戦するのではなく、視界からするすると接近して、視認される前に倒すのだ。武器も一種類ではなく、投げナイフを使うときもあれば、僕と同じような剣を使っているときもある。体に忍ばせたさまざまな武器を、その時々の状況に応じて使い分け、的確に魔獣の急所に攻撃を叩きこんでいく。

 その戦闘は、血なまぐさいながらも静かで洗練されたものだった。


 しかし、椎名の職業って、結局なんなんだろうな。この疑問は前々から僕の頭をよぎりはするのだが、どうも優先順位が低いせいか、いまだに聞けていない。戦い方から見るに「狩人」とかだろうか。もし「忍者」とかだったりしたら、盛大に笑ってやろう。

 そんな比較的どうでもいいことを考えながら、僕は黙々と歩いていた。かなり危険な場所を進んでいるためか、椎名も緊張した様子で周囲に気を配って歩いている。それが伝播しているのか、僕ら全員にピリピリとした緊張感が漂っていた。


「ジュナちゃん、大丈夫?」

「うん、平気だよ」

 椎名の後姿をぼうっと眺めて歩いていると、後ろから野中さんとジュナのそんなやり取りが聞こえてきて、僕は首をめぐらせた。

 ジュナはこの旅によくついてこれている。幼い身には辛いだろうに、泣き言を言わず歩く姿は立派なものだ。僕だって泣き言を言いたいくらいなのに。

 椎名も、ジュナの疲労した様子に気付いたのか、こちらを一瞥した後、さっと周囲に目をやった。

「少し休憩しよう。この先に休めそうな場所がある。ユンは悪いが、少し先の様子を見てきてくれ」

「りょーかい」

 軽くユンさんは返事すると、タッと軽く地を蹴って近くの木の枝に飛び乗ると、そのまま枝を伝って前方へと姿を消した。たぶん、なんかの魔法を使っているのだろう。そうでなければ、細身の女性にあるまじき運動性能だ。


 そのまましばらく、ジュナの様子に気を遣いながらたどりついのは、少し木々が開けた小さな川のほとりだった。いい感じに視界も開けていて、休むのには最適の場所だ。

「少し周りを見てくる。しっかり体力を回復しておけ」

「椎名もしっかり休めよ」

「ああ」

 短くそう返して、椎名は周囲の木立に消える。それを見送ってから、近くの木陰に腰を下ろした。野中さんとジュナのいる位置からほど近い、すぐに助けに駆け付けられる位置だ。同じことを考えたのか、ヒョウカさんも隣に腰を下ろしている。

 ある程度鍛えた身ではあるけれども、常に周囲を警戒しながら足場の悪い道を歩くのは、肉体以上に精神が疲労するものだ。野中さんのひざですでに小さく寝息を立てているジュナを横目で見て、僕は水筒の中の水を口に含んだ。後で川の水でも注ぎ足しておこう。


「大丈夫か?」

 ぼんやりしていると、隣のヒョウカさんがこちらを気遣うように見ていた。どうやら心配させてしまったようだ。

「大丈夫ですよ。すみません、ぼんやりするのは癖みたいなものだと思ってください」

「そ、そうか……」

 どうもヒョウカさんの歯切れが悪い。不審に思って顔をうかがうと、ヒョウカさんはついと顔をそらした。

「田中殿、あの時は悪かったな」

「あの時……?」

 本気でわからず首をかしげると、ヒョウカさんは焦れたように言った。

「私と初めて模擬戦をやった時だ」

「ああ、あの時ですか」

「はあ、覚えていたか」

「いやまあ、そりゃあねえ……」

 突然の模擬戦で木刀でぼっこぼこにされた挙句「才能がない」と言われれば、忘れろという方が無理な話である。僕があいまいに笑うと、ヒョウカさんは軽く咳払いした。


「どうも私は昔から、戦いが絡むと熱くなりすぎるきらいがあってな。あの時は失礼なことを言ってしまった」

「いやまあ、そんなに失礼でもないですよ。実際その通りだと思いますし」

 剣の才能はあるのに戦いの才能はない、とは言いえて妙だと、後々感心したほどだ。この世界で、剣の才能を後天的に与えられた僕の評価としては、正当なものだ。

 僕としては自分のふがいなさに落ち込んだだけだったので、ヒョウカさんに思うところはなかった。しかし、ヒョウカさんとしては僕に対してずっと負い目みたいなものを覚えていたらしい。

 なんだか逆に申し訳ない気持ちでいると、ヒョウカさんが真面目な顔をして僕に言った。

「あの時にも聞いたが、私には君が戦いが好きなようには見えなかったんだ」

「そうですね。嫌いかどうかは分かりませんが、少なくとも好きではないと思います」

 戦うこと、それを求められ、そのための力を与えられた。だから、こうして腰に剣を差してこの世界で生きているのではあるが、そこに僕の意志は一切ない。

 それ以外選択肢がなかったから、そうしてきただけだ。……ああ、なるほど。椎名はこうなるのが嫌だったんだろうな。自分の道は自分で、か。

 僕が1人納得しているのをどう感じたのか、ヒョウカさんは真面目な顔を崩さずに僕をじっと見据えた。


「でも君は、持っているものを適切に使っていた。使い方は拙いものだったかもしれない。でも、自分の持っているものに、頼らず無視せずしっかりと向き合っていた。その姿勢には、とても好感が持てる。あの時は、そう伝えたかったんだ」

「……」

 人から褒められたりすることに耐性がないせいで、僕はそれに対してどのように返事をするべきか迷った。まっすぐに見つめるヒョウカさんの瞳が、ひどく気恥ずかしい。

「どうもありがとうございます」

 結局、そんなありきたりな返事を返した僕に、ヒョウカさんはニコリと笑った。

「昔から私は祖父に、戦いの時に考えなさすぎると叱られてばかりだった。敵を前にすると頭が熱くなって、ただ剣をふるうことに集中してしまう。今でもなくならない、私の悪い癖だ」

 なにそれ怖い。僕が若干上半身を引かせると、ヒョウカさんは楽しそうにつづけた。

「だが君は、そんな私とは正反対だな。考えすぎて、体が止まってしまっている。考えることは悪いことではないが、それで体の動きを止めては良い的だ。それが修正できれば、君はきっと強くなる」

 少し考えてから、それがヒョウカさんからの、僕と模擬戦をやった感想なのだと気付いた。たぶんあの時――模擬戦をやったすぐ後に、彼女は僕にこれを言いたかったのだろう。

 僕が「才能」って言葉に撃たれ弱いのも確かにあるが――それにしたって不器用な人だ。僕は少し笑ってしまった。


 そんな感じでヒョウカさんと談笑している内に、周囲を警戒し終えた椎名が帰ってきた。しばらく間をおいて、偵察に出ていたユンさんも帰ってくる。

 椎名の方は何も問題がなかったようだが、ユンさんの報告には少しばかり気になる点があった。


「反乱軍と思われる魔族の部隊が移動中、か」

 僕たちがいる森にほど近い街道で、魔族の軍が移動しているらしい。僕らのことを見つけているわけではないようなのでそこは安心だが、下手に移動して見つかるわけにもいかない。しばらくはここで待機するしかないだろう。

 いや、それより問題なのは……

「その魔族の軍ってのが、どこに向かっているのかだな」

 椎名が腕を組んで眉にしわを寄せる。が、寝ているジュナを起こさないように声を潜めているところが、なんだか笑いを誘う。


 話を戻せば、魔族の軍の進路がどうやら僕らと逆方向。つまり、僕らが出発した町の方へ向かっているらしい。もっと言えば、大陸中央部の方へだ。

「普通に考えれば、人族との前線なんだろうけど……」

「前いた町で情報を集めた限りでは、そんなに多くの魔族が一気に前線に出ることは今までなかったらしいからな」

 野中さんとヒョウカさんも首をひねっている。何か前線で異変でも起こったのだろうか。前線にはクラスメイト達もいるはずなので、あまり他人事とも思えない。

 しばらく考えたが、これだけのヒントで何かわかろうはずもなかった。まあ、何か起こっていたとしても、僕らにはどうすることもできないのに変わりはない。

 椎名もそのことに気付いているようで、軽くかぶりを振って息を吐いた。

「まあ、考えても仕方ない。今はここで休憩だ。ユン、お前も休んでおけよ」

 そう言って、椎名はごろりとその場で横になる。無防備極まりない姿勢だが、休める時にしっかり休んでおくのも、こういう旅をする上では必要な技能だろう。


 椎名とユンさんの二人が休むのならば、周囲の警戒は僕とヒョウカさん、野中さんの役目だ。僕らは軽く目を合わせて、しばしの間、慣れない周囲の警戒に意識を集中させた。


どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。


感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。

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