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クラス召喚されたクラスメイトA  作者: kimera
椎名雪
20/27

ヒョウカ

 山道を抜けて魔族領に入ったころには、日が暮れ始めていた。真っ暗闇の中、山道を歩かずに済んだことに、僕はほっと息を吐いた。

 実際、僕が目を覚ました野営地から山を下りるまでは、それほど遠くないように思う。体感だが、まっすぐに下りれば昼過ぎくらいには下りることができていただろう。

 しかし、戦闘の椎名が唐突に斜面を横に移動したり、時には引き返すこともあったせいで、この時間になってしまったのだ。ユンさんいわく「気配で魔族や魔物を避けている」そうだが、正直言って僕や野中さんにはさっぱりわからなかった。と言うより、椎名とユンさん以外誰もわかっていなかったようだ。

 それでもヒョウカさんもジュナも、椎名を全面的に信用して進路を任せていた。実際、一度も魔族や魔物に会わなかったのだから、椎名の気配を読む力は本物なのだろう。


 たぶん、椎名の気配を読む力は、彼の職業に起因しているものだと思う。現代日本で育った高校生が、山道で気配を読む力なんて持ってないだろうからな。

 そう言えば、僕は椎名の職業を知らない。なんだかんだで聞きそびれている形だ。まあ、どうでもいいと言えばどうでもいいからな。


「今日はここで野営だ」

 椎名がそう言ったのは、山を下ったところから少し離れた道沿いの林だった。林の中に少し入ってしまえば、派手なことをしない限り道からは見えなくなる場所だ。魔族領に入ったことで、基本的に魔都までは身を隠しつつ進むことにしたらしい。

 てきぱきと野営地を建てていく椎名の仲間たちを横目に、僕は椎名に声をかけた。

「椎名、面倒見てもらっている身でこういうのもなんだが、食料とか大丈夫なのか?」

「ん?ああ、それは大丈夫だ。魔族が占拠した町で、普通に食料は買えるらしいからな」

「……それ、僕達でも買えるのか?」

「んなわけねえだろ。ユンに行ってもらうさ。俺たちは町の外で待機だ」

 なるほど、そういうわけらしい。残り少ない食料を分けてもらうことに罪悪感を感じていたが、どうやらその心配はないようだ。まあ、養ってもらっていることには変わりないけど。


「しかし、このまま身を隠した状態で魔都まで行って、それでどうするんだ?入れるのか?」

「ん……まあ、何とかなるだろ」

「いや、なんとかって……」

 椎名のあんまりな回答に、僕は思わず肩の力が抜けた。なんでこいつは、ノープランでもこんなに自信満々なんだ。

「しかも、目的は魔王なんだろ?ラスボスみたいなやつのところに、簡単に入り込めるのかよ」

「まあ、ラスボスは前線をふらついたりしないと思うけどな」

 まあ、それは確かにそうだな。僕は思わず納得してしまった。ラスボスがあんな前線をふらついていたせいで、僕や野中さんはひどい目に合っているだけに否定できない。

 僕が難しい顔をしているのが癇に障ったのか、椎名は軽く息をついた。

「実際、今から魔都に直行しても、たぶん魔王はいないだろ。つい先日、前線にいたんだぞ」

「……そりゃそうだろうな」

 僕がそう返すと、椎名は軽くうなずいた。

「だったらこっちものんびり行くさ。別に時間制限もないからな。大体、魔王の顔を拝みに行くってのは、まあ、なんていうか方便みたいなもんだ」

「方便?」

「ああ。別に何が何でも魔王の顔が見たいわけじゃない。なんとなく、旅の目的にしてるだけだから、あんまりこだわりはないんだよ」


 だったら、なんで椎名は魔族領に来たのだろうか。そこまで強い目的意識がないのならば、わざわざ魔族領なんて危険な場所に行く必要はないはずだ。もっと、楽で安全な場所を旅の目的地にすればいいものを。

 僕はそう思ったが、それを口にはしなかった。その問いは、椎名の信念とか根源とか、そういう深い部分に突っ込んでいく問いのような気がしたからだ。

 たぶん椎名は答えてくれないし、僕もそんなことはあまり知りたくなかった。


「ユキ殿、田中殿、何の話をしているんだ?」

 椎名と話している間に、野営の準備が終わったらしい。ヒョウカさんがこちらに来ていた。

「どうでもいい話だ」

 椎名がそう言うと、ヒョウカさんは少し考えるように「ふむ」とうなった後、ぱっと顔をほころばせた。

「どうでもいい話、か。だったら、田中殿を少し借りてもいいかな」

「勝手にしろ」

 二人の間で交わされるやり取りを、僕はぼんやりと眺めていた。椎名の返事は一見いい加減でぞんざいなものに聞こえるが、その声音自体は優しい。僕と話す時とは大違いだ。

 そんなどうでもいいことを考えていたせいで、次のヒョウカさんの言葉に反応が遅れた。


「では田中殿、手合わせを願えないだろうか」

「……はい?」

 自分の口から出たとは思えない、間抜けな声が漏れた。椎名が横でふっと鼻で笑った。

「いや、田中殿は武器を持っていないのだったな。少し使い古したものだが、私の予備の木刀がある。さすがに真剣での斬り合いとはいかないが……」

 恐ろしく物騒なことを言いながら、ヒョウカさんがニコニコと木刀を差し出してくる。ていうかあれか?もし僕が武器を持っていたら、真剣での手合わせをやろうとしていたのだろうか。

 混乱していた頭で、よく考えもせずにヒョウカさんから木刀を受け取ってしまった。


 ……失敗した。まだ木刀を受け取る前ならなんだかんだと言い訳のしようがあったが、受け取ってしまったからには、手合わせを受けるしかないのだろう。

 助けを求めてぐるりとまわりを見たが、椎名は我関せずの姿勢を崩そうともしないし、ユンさんもにやにやと笑っているだけ。野中さんも無表情でこっちを見ているだけで、ジュナはそもそも、よく状況を把握できていないようだった。

 はあ、仕方ない。ため息をこらえて、ヒョウカさんを見た。

「……まあ、ご期待に添えるかわかりませんが、お手柔らかにお願いします」

「こちらこそ」


 ヒョウカさんはそう言って、自分の手元にある木刀を腰だめに構えた。どうやらこの場で、いきなり始めるつもりらしい。

 少し戸惑ったが、僕は軽く後ろに引いて距離をとる。幸い、ここは野営地を巻き込まない程度には離れているし、木もあまり生えていない開けた場所だ。木刀をふるうのには不足ないだろう。

 僕が構えたのをみて、ヒョウカさんは好戦的に笑った。

「ルールは?」

「魔法なし、木刀のみ。先に一発当てた者の勝ちで」

 おいおい、寸止めじゃないのか。木刀は結構しっかりとしたつくりをしているから、打撲程度じゃすまない気がするんだが。

 僕が思わず表情をひきつらせていると、少し離れたい位置で観戦しているユンさんが、からかうように言う。

「即死以外なら直してあげるから安心しなよ。まあ、頭かち割られたらどうしようもないけどねえ」

 まったくうれしくない情報だ。僕は一つ息を吐いて、改めてひゅかさんに視線を集中させた。

 

 ヒョウカさんの腕がどれほどのものであるかは知らない。が、椎名のそばにいることや、普段の立ち振る舞いから見ても、かなり腕に自信があるのだろう。いらないことに意識を割いていては、一瞬でやられる。

 あれ、なんで僕はこんなに必死に勝とうとしているのだろう。そう思ったが、その疑問もすぐに頭の隅に放り込んだ。まああれだ。やられたら痛そうで、痛いのは嫌だから。今はそれで納得しておく。


「それでは、お手柔らかに」

「ああ、いざ、尋常に」

 その台詞、素で言う人初めて見た。僕がそう思ったのとほぼ同時に、ヒョウカさんが地を蹴った。


「……っ!」

 速い。僕とヒョウカさんの距離は、五メートルほど離れていたが、その距離が一瞬にして縮まる。

「――しっ!」

 腰だめに木刀を構えたまま、前傾姿勢でつっこんできたヒョウカさんが、勢いそのまま木刀を振りぬく。その木刀の速度もまた、かなり早い。

「く……そ!」

 カン、と高めの音が響いて、僕の木刀がヒョウカさんの木刀をはじく。正直、半分くらい勘ではじいた。

 ヒョウカさんは初撃をしのいだ僕に対して、にやりと笑った。その肉食獣のような笑みに、思わずひるみそうになる心をこらえる。


 ひるむな、冷静に剣筋を見ろ。

「はっ!」

「……っ!」

 ヒョウカさんはどうやら、攻め気質のようだった。初撃をはじかれた後も、攻撃は最大の防御と言わんばかりに、激しく攻め立ててくる。

 反対に僕は防戦一方だった。嵐のような攻撃に対処するので手いっぱいで、攻撃の隙を見つけられない。何とか防げてはいるが、このままではじり貧だ。


「どうした田中殿!それでは勝てんぞ!」

「分かって……ます……よ!」

 無茶言うな、と思ったが、意地でそう返す。なんにせよ、このままではどうしようもない。一度距離をとるべきだ。

 僕はタイミングを見極めて、ヒョウカさんの木刀を大きくはじいた。と同時に、大きく飛び退る。


 ヒョウカさんは意表を突かれたように一瞬目を見開いた後、またも腰だめに木刀を構えてこちらに突っ込んでくる。

 ここで待ち受ければ、先ほどの焼き直しだ。僕は細く息を吐きつつ、今度は自分からヒョウカさんに突っ込んだ。

 僕とヒョウカさんの距離が一瞬で縮まる。木刀をふるうには近すぎる距離。僕は勢いのままヒョウカさんの横を抜けると、即座に反転して袈裟懸けに木刀を振り下ろす。――が、同じく反転したヒョウカさんに危うげなく受け止められた。


「いい打ち込みだ」

「……どうも」

 褒められた気がしない。そう思ったとたん、ヒョウカさんが木刀をくるりと回した。危うくこちらの木刀が絡め取られそうになり、あわてて距離をとる。

 しかし、何度も距離を取らしてくれるヒョウカさんではなかった。

「――隙あり、だ」

 するりと音もなく前進してきたヒョウカさんが、囁くようにそう言って木刀を突きこんでくる。躱しづらい腹のあたりへの刺突。それを払おうと木刀を振った瞬間、ヒョウカさんの木刀が蛇のように軌道を変えた。


「……」 

「勝負あり、かな」

「……参りました」 

 喉元に木刀を突きつけられた僕がそう言うと、ヒョウカさんはニコリと笑って、木刀を収めた。僕は深く息を吐いた。……正直、生きた心地がしなかった。


「ときに田中殿」

「はい?」

 僕が視線を向けると、ヒョウカさんが難しそうな顔でこちらを見ていた。

「君は戦うのが好きか?嫌いか?」

「あー、いや……」

 どう、だろうか。好きではないとは思うが、かといって嫌いかと言われると違う気がする。痛いのは嫌いだが、それがそのまま戦いが嫌いだということにつながるのか、否か。

 僕の要領を得ない返しに、ヒョウカさんは唸っていたが、やがて言いづらそうに口を開いた。


「あー、これは私の勝手な意見で、事実と反すれば無視してもらって構わないのだが……」

「はい」

「……君は剣の才能はあるが、戦いの才能はあまりないように思える」

 その言葉に、思わず息が詰まった。そうか……まあ、そうだろうな。

「あ、いや、すまない。こっちの勝手な意見だ。今のは忘れてくれ」

 黙ってしまった僕が気分を害したと思ったのか、ヒョウカさんがあわてたように言葉を紡ぐ。僕は小さく笑った。

「いえ、大丈夫ですよ。たぶんそれは、事実ですから」

 僕がそう言うと、ヒョウカさんは困ったように口を閉じてしまった。……悪いことをしたな。

「難儀だねえ」

 怪我の有無を確認しに来たのか、近くに寄ってきていたユンさんが、まとめるようにそう言ってからからと笑った。

どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

やはり、戦闘描写って難しいものですね。

感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。

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