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クラス召喚されたクラスメイトA  作者: kimera
椎名雪
18/27

凡人の手札

投稿ペースが落ちてますね。

気合入れ直して頑張ります

 野中さんに現状を説明するのは、かなりしんどい作業だった。冷静で落ち着いた人だと思っていた野中さんだが、どういうわけか椎名が絡むと途端に感情があらわになるらしい。そのせいで話が全く進まない。

 椎名は野中さんをわずらわしそうに見るだけで助けてくれないし、ジュナは状況がよく理解できていない様子だ。ヒョウカさんも割と感情的な人で、しまいには野中さんとにらみ合ってしまう。唯一助けになってくれたユンさんには頭が上がらない思いだった。彼女がいなかったら、どこかで僕の心が折れてしまっていただろう。


「……なんで女の子ばっかり。しかもみんな美人……」

 僕の必死の説明に対し、野中さんがまず言った言葉はそれだった。膝から崩れ落ちそうになるが、まあ、状況が分かってくれたならそれで良い。

「それで、野中さんは椎名の知り合いだったの?」

 僕の問いに、野中さんはぱっと椎名の方を向いた。

「雪くんは覚えてないかもしれないけど、私は昔、雪くんの家の近所に住んでたんだ」

「へえ」

 僕は無感動な返答を返すしかなかった。椎名はしばらく眉根にしわを寄せた後「覚えてないな」と言った。


「そっか……うん、そうだよね」

 野中さんは少しさびしそうにそう言うと、ぺこりと頭を下げた。

「急にごめんね、久しぶりに雪くんのこと見たから嬉しくて……助けてくれてありがとう」

 どうやら、野中さんも自分の感情がコントロールできてなかっただけらしい。いつも通り――とまではいかないが、先ほどとは変わって神妙な態度だ。椎名も少しばつが悪そうに鼻頭を掻いた。

 しかし野中さんの反応は、ただ近所に住んでいただけにしては過剰だ。僕が野中さんにそれを問うと、野中さんは椎名の方をちらりと見て言った。

「私、昔は内気で虐められてたんだ。でもそんな時、椎名くんが助けてくれたの」

「へえ……」

 僕は少し意外な面持ちで椎名を見た。この他人をどうとも思わないような奴が、近所の女の子を助けてあげるとは。誰にだって純粋なころはあるもんだ。

 そんなことを考えていると、椎名がこちらを胡乱げに見てくる。


「……なんだ?」

「……何も」

 短く答えると、僕は声を潜めた。

「で、実際どうなんだ?」

「何が?」

「野中さんを助けた覚え、あるのか?」

「ああ……」

 椎名は遠い目をすると、しばらく考え込んだのちに頷いた。

「そういえば、ガキの時にそんなこともあったな」

「へえ……」

「そんな微笑ましい目で見るのはやめろ。ていうか、あの時の俺は助けたって感じじゃなかったと思うが」

「と、言うと?」

 僕の問いに、椎名はゆっくりと思い出すように言う。


「いや、ただ単に公園で昼寝してたのに、周りでやいやいうるさかったから、怒鳴っただけだぞ。ついでにこっちに向かってきたやつ全員殴った」

「……なんでそんなとこで寝てたんだよ」

 そう返すしかなかった。いやまあ、そんなことだろうとは思ってたけど。

 僕は小さく息を吐いて、ちらりと野中さんを見た。彼女はひそひそと話す僕と椎名を不審そうに見ている。

「それ、野中さんに言うなよ」

「分かってる、それぐらい」

 不機嫌そうにそう返す椎名に僕は息を吐いて、野中さんに向き直った。


「野中さん」

「なに?」

「えーと、これからどうする?」

 僕がそう問うと、野中さんは一瞬、意表を突かれた顔をしたが、やがて「そうだね……」とつぶやいた。

「まずは、砦に戻って無事なことを知らせないといけないんだけど……田中くんはここがどこだか分かる?」

 野中さんの問いに、僕は首を横に振った。斜面をどれだけ落ちたかも定かじゃないし、再びあの斜面を登って、元の場所に戻るのは現実的じゃない。

 そうなると、別のルートから砦に戻るか、神代たちと遭遇できるようにするしかないのだが……。

「問題は、戦力だね」

 僕が言うと、野中さんはこくりとうなずいた。

 体調も万全とは言い難く、さらには武器もない僕らにとって、それは大きな問題だった。僕の職業は「剣士」で、野中さんは「弓術士」。それぞれ対応する武器を持たないと、僕らの職業は機能してくれない。今のままでは、一般の兵にも劣る存在だ。

 そして、よしんば武器が手に入ったとしても、僕と野中さんの二人では戦力的に心もとない。前衛と後衛でバランスは取れているし、魔物の一匹や二匹なら何とかなるが、魔族なんかに会ってしまったらお手上げ状態だ。


 なんにせよ、僕ら二人ではいろいろと無理がある。僕は椎名に目を向けた。

「椎名。僕らがいた砦までの道とかわかるか?」

「あ?知るわけないだろ」

「だよな……。じゃあ、僕ら転げ落ちた斜面の上まで行く道は?」

 僕がそう聞くと、後ろで黙って聞いていたユンさんが声を上げた。

「ああ、それなら私が知っているよ。でもねえ、かなりの大回りになる上に、あの辺は魔族の連中も多い。君たち二人じゃ死ににいくようなもんだよ」

「そうですか……」

 これはあれだな。詰み、ってやつなのだろう。僕はぼんやりとそんなことを思った。

 もしここにいるのが僕じゃなくて神代なら、彼は無理を押してその危険な道を行ったかもしれない。そしてなんだかんだで、無事に砦までたどり着いてしまうのだろう。

 でもそれは、あいつが特別な何かをもっているからで、僕には同じことができようはずもない。こんな世界に飛ばされて、チート能力をもらったところで、僕は僕でしかなくて、こんなにも小さい。


 僕は小さく息を吐いて、懐に手を入れた。大丈夫、まだ手は残っている。

「なあ、椎名」

 僕が声をかけると、椎名はめんどくさそうにこっちを向いた。

「なんだ。言っとくが、砦まで送れ、とか言い出したらぶっ飛ばすぞ。そんなことをする義理はない」

 だろうな。それが最善ではあったが、椎名は自分の行動を阻害されることを何よりも嫌う。だから、最初からそれはあきらめていた。

「椎名たちはどこに向かってるんだ?」

「あ?」

「こんな危ない場所で散歩してたわけじゃないだろう。どこを目指してたんだ?」

 僕がそう問うと、椎名はめんどくさそうに眉をひそめた。と同時に、後ろでにやにやとこちらを見ていたユンさんが口を開く。

「魔族領だよ。魔王が治める魔都が目的地だ」

「おい」

 抗議の声を上げる椎名にも、ユンさんはどこ吹く風だ。僕は苦笑してユンさんに頭を下げると、野中さんに向き直った。


「野中さん。僕らが自力で帰れない今、椎名についていくのが最善と思う。砦のみんなには悪いけど……どうかな?」

「いや、でも……」

 野中さんが迷うように僕と椎名のあいっで目線を行き来させる。椎名がそれを許可するはずがない。その目線はそう言っていた。


「おい、勝手に決めてんじゃねえよ、田中」

 その声に振り向くと、椎名は凍りつくような視線でこっちを見ていた。ひるみそうになるのをぐっとこらえる。そういや前にも、こんなことあったな。

 あの時と違うのは、椎名が僕に対して怒っているという点だ。あと一歩踏み外せば、椎名は完全に敵となるだろう。そして多分、そうなったら彼は容赦なんてしない。

 ああ、確かにあのとき椎名が言った通りだ。僕と椎名はクラスメイトであって、それ以上でも以下でもない。そんな希薄なつながりでは、僕が椎名に与えられるものなんて何もない。


「田中、俺はお前らを連れていく義理なんて持ってない。連れて行ってほしいのなら、連れていけるだけの何かを示せ」

 椎名の射殺すような視線に、僕は唾を飲んでから口を開いた。

「これ」

「あ?」

 僕は懐に入れていた小さく折りたたんだ紙を取り出した。肌身離さず、城を出た時からずっと持っていたものだ。斜面の途中で落としてなくて、本当に良かった。

 椎名は僕の取り出した紙をめんどくさそうに一瞥し――その表情が固まった。

「おい、お前これ……!」

「そこまで」

 手に取ってみようとした椎名を制して、僕は再度紙を懐にしまう。椎名のいらだった視線が僕に刺さる。

「何の真似だ、田中」

「これを渡すことが、僕らの同行を認める条件だ」


 僕がそう言うと、椎名は呆れたように息を吐いた。

「そんなもん隠し持っていやがったのか……。だが、お前から俺が無理やり奪えば、それで済む話だろう」

「でも、お前はそんなことしない」

 僕がそう言うと、椎名はガシガシと頭を掻いた。伊達に半年近く同じ教室にいたわけじゃない。椎名がそんなことしない奴だってことくらいは分かっている。


 椎名はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと息を吐いた。

「着いてくるなら好きにしろ。飯くらいは出してやるが、それ以外は知らんからな」

 椎名がそれを行ったとき、野中さんが驚き半分喜び半分の顔をするのが視界の隅に映った。

「ああ、ありがとう。夜番くらいは手伝うよ」

 僕は膝から力が抜けそうになるのをこらえてそう言った。ああ、怖かった。


 僕がゆっくりと息を吐き出していると、ヒョウカさんがこちらに手を差し伸べてきた。

「これからよろしく頼む、田中殿」

「ええ、よろしくお願いします、ヒョウカさん」

「これから共に旅をするなら、時間もたくさんあるだろう。ぜひ手合わせを願いたいものだ」

「あはは……」

 あー、そういえばそうだった。これは逃げられそうにないが、仕方ない。

 僕が頭を掻いていると、ユンさんが近づいてきた。


「ユキ相手にうまくやったもんだねえ、少年」

「あはは、しばらく厄介になります」

 実際、うまくいったのは半分くらいユンさんのおかげだ。こりゃ、頭が上がりそうにないな。


 最後に話しかけてきたのはジュナだった。

「お兄ちゃんも、私たちと一緒に来るの?」

「あー、うん。そうなるね。急でごめんね。お世話になります」

 子供を相手にした経験がない僕は、ついしどろもどろになってしまう。そんな僕に、ジュナはニコリとほほ笑んだ。

「うん、よろしくね。それでね、お兄ちゃんの名前、なんていうの?」 

「田中宗一だよ」

 僕がそう返すと、ジュナは「むむ」と難しい顔で唸った。

「タナカ……?ソーイチ……?」

 どうやら発音が難しいらしい。まあ、この世界の名前とはかなり違うし、聞きなれないだろう。

「あはは。呼びづらかったら、別に僕の子はなんと呼んでもいいよ」

「じゃあ、お兄ちゃんはお兄ちゃんだね。よろしくお願いします!」

「うん、よろしく」


 そんな椎名の仲間たちとのやり取りを、椎名は無関心に見ていたが、やがって声を上げた。

「顔合わせが済んだなら行くぞ。今日中にこの山は抜けたい」

 その発言に、椎名の仲間たちはてきぱきと動き始めた。さすが長く一緒に旅をしているだけあって、野営の片付けの手際が良い。どこを手伝っても邪魔になりそうだ。

 僕が手伝うべきところを探していると、軽く肩をたたかれた。振り返ると、野中さんだ。

「なに?」

「えっと、ありがとう。田中くんのおかげで、雪くんと一緒に行ける」

「うん、どういたしまして」

 僕がそう返すと、野中さんは迷ったように視線をさまよわせた。

「えーと、それでね。……さっきの紙は、なんだったの?」

「ああ……」

 僕は懐に手を入れた。かさりと紙の感触が触れる。これは僕が持っている精一杯の切り札だ。今は僕だけのものにしておきたい。切り札ってのは、知っている人が少ないほど、切った時に効果を発揮する。

「今は秘密で」

 僕はそう言って、少し笑った。

どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

これより主人公は、椎名一行に加わります。目指すは魔族領。

新たな土地に新たな仲間。まあ、田中くんは変わりませんが……。

感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。

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