野中悠里
すみません、過去最高に筆が迷いました
なるべく早く、次も投稿します
とりとめのない話を僕とユンさんで交わしている中、一番に起きたのは椎名だった。徐々に夜の闇が白んできた、そんな時間だ。
「おはよう」
先に気付いたユンさんがそう声をかけるのに合わせて、僕は軽く頭を下げた。椎名は体を起こそうとしたところで、腹のあたりにしがみついている獣人の子(ジュナと言うらしい)に気付いて動きを止めた。数瞬、迷った後で、ジュナを起こさぬように慎重に体を起こす。
その優しい挙動に僕は驚き、ユンさんは軽く笑った。
「……なんだ?」
不機嫌そうに眉根を寄せた椎名が、ユンさんに向かって問いただす。
「いやいや、椎名おにいちゃんは優しいなあ」
そう言ってユンさんはぺろりと舌を出して見せた。椎名はその所作に深くため息をついて、こちらに向き直る。
「起きたのか」
「ああ。助けてくれてありがとう」
僕がそう言うと、椎名は軽く鼻を鳴らした。
「俺らが獲物に手を出したら、たまたまお前らが襲われただけだ。運が良かったな」
そのそっけない言い方に、思わず吹き出しそうになった。椎名が僕らを助けるようユンさんに頼んだことは、先ほどユンさん本人から聞いている。
椎名も、僕とユンさんの表情からそれが分かったらしい。ちっと舌打ちをしてこちらを睨んだ。俺のせいじゃないんだから、こちらを睨まないでほしい。
「ずいぶんユンと仲良くなったみたいだな」
「……話に付き合ってもらっただけだよ」
「余計なこと言ってないだろうな」
「何が余計なのか分からないけど、多分」
「ならいい」
僕と椎名の会話を聞いていたユンさんは終始にやにやしていた。正直やめてほしい。椎名が不機嫌になるにつれて、こちらへ向ける眼光が鋭くなってきている。
僕が身を縮こまらせて椎名の視線に耐えている内に、椎名の仲間たちが次々と起きてきた。彼女たちは起きている僕に気付いたようで、まず竜人族の女性が手を差し出してきた。
「私はヒョウカ。竜神の里から武者修行の旅に出ている。ユキ殿の同郷の方、よろしく頼む」
「ご丁寧にどうも、田中宗一です。昨日は助けていただいてありがとうございました」
「なに、私は何もしていない。礼ならユンのやつに言ってやれ」
竜人族の女性――ヒョウカさんはそう言って快活に笑った。気さくそうな人だ。それにしてもこの人、言葉遣いとか雰囲気とかがところどころ日本っぽい。とは言ってもそれは、懐かしさを感じるものではなかった。なんせ、日本っぽいと言いつつも、彼女は武士のような恰好をしていたからだ。
着流しのような着物をまとい、腰に佩いているのは軽く反りのある剣。この世界で初めて見たが、どう見ても日本刀だ。しかもこの人、いま武者修行って言わなかったか。
僕の困惑して視線に気づいて、椎名が面倒そうに言った。
「ヒョウカの故郷は、どうやら俺たちの同郷の影響を受けたらしい」
なるほど。僕が納得してうなずくと、ヒョウカさんはうれしそうに笑った。
「君も椎名の同郷と言うことは、何かしらの武器を使うのだろう?」
「あー、一応剣を……」
「そうか、私は見ての通りサムライを目指していてな。後ほど模擬戦でもどうだ?」
「あ、いえ……見ての通り剣を落としてしまいまして」
「ふむ、そうか。私の予備の武器が合うと良いのだが……」
ぐいぐいと迫ってくるヒョウカさんに、僕は思わず顔をひきつらせた。何この人、怖い。
愛おしそうに腰の刀を撫でているヒョウカさんにドン引きしていると、椎名の陰から獣人の少女がひょこりと顔を出した。
「私はジュナだよ。お兄ちゃん、ユキの友達?」
「あー、いや、まあ……」
開口一番、返しづらいところをついてくるジュナに、僕は思わずしどろもどろになってしまう。そんな僕に頓着せず、椎名はあっさりと返事した。
「別に友達と言うわけじゃない」
「……仲良くないの」
「良くはないな」
「……喧嘩中?」
「喧嘩するほど仲良くないからな」
椎名の答えは僕も納得がいくところだったが、ジュナには不可解なものだったようだ。難しい顔で眉根を寄せている。
そんなジュナの姿を見て、ユンさんが苦笑した。
「またユキがめんどくさいことを言い出したよ」
「めんどくさいとはなんだ」
不機嫌そうに返す椎名にも、ユンさんは動じない。
「いいじゃないか、友達で」
「仲良くもないのに友達と言えるか」
「へえ、友達の定義について語れるほど、ユキは友達が多いのかい?」
ユンさんの笑いを含んだその言葉に、椎名がさっと顔をそらす。
……椎名、ボッチだったもんなあ。僕が生暖かい視線を送っていると、キッとこちらを睨んできた。今度は僕があわてて顔をそらす番だった。ユンさんはそんな僕らを見て爆笑している。
そんなこんなで椎名たちと話していると、ふと、こちらに視線を感じた。見ると、音もなく起きだしていた野中さんが、驚いたような表情でこちらを見て固まっている。
椎名たちもそれに気づいたようで、椎名が僕に向かって「行け」と言わんばかりに顎をしゃくった。どうやら積極的に自分から話しかける気は皆無のようだ。
僕は一つ息を吐いて、野中さんに顔を向けた。
「無事に起きてくれてよかったよ。どこか、痛いところとかない?」
「……」
「あの後、魔物に襲われたんだけど、椎名たちが助けてくれたんだよ」
「……」
「……えーと」
返事がない。無口な人とは言え、コミュニケーションが取れない人じゃなったはずだ。僕は困惑して、野中さんの整った顔を見た。
……ん?野中さん、よく見ると視線がこっち向いてないな。顔は僕の方を向いているのだが、僕を見ていない。野中さんの視線を追うように振り返ると、不機嫌そうに腕を組んでいる椎名がいる。
「……なんだ?」
僕と野中さんの視線を一身に受ける形になった椎名が、眉根のしわを寄せつつそう言ったのと、野中さんが声を上げるのが同時だった。
「――雪くん!」
一瞬、野中さんそっくりの別人かと思った。それくらい今の野中さんの声は、普段の様子とかけ離れていた。
「……雪くん?」
僕が首をかしげるのに頓着せず、バッと立ち上がった野中さんが、目をキラキラさせながら椎名のもとへ走り寄る。椎名は突然の行動に、驚いたように上半身をのけぞらせた。
「お、おい……」
「雪くん、なんでここにいるの?ていうか、本物の雪くんだ……ひさしぶりだなあ……」
えーと、僕の知っている冷静沈着なクラスメイトはどこに行ったのだろう。頬を掻きながらぼうっと眺めていた僕に、椎名が視線を向ける。
「おい、こいつこんなキャラだったのか?」
「いや、そんなじゃなかったと思うけど……」
「……崖から落ちた時に頭でも打ったんじゃないのか?」
顔をひきつらせながら、微妙に失礼なことをいう椎名だが、僕もその可能性を否定できなかった。笑い損ねたみたいな表情を返すことしかできない。
そこで、使えない男二人を見かねたのか、ユンさんが立ち上がる。
「はいはい、まあとりあえず落ち着きな、お嬢さん。話はそれからだよ」
「……誰、この人?魔族?」
野中さんはいつもの無表情にすっと戻ると、警戒するように椎名に身を寄せた。椎名の上半身がますますのけぞった。
……あいつ、体柔らかいな。
どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
大幅に遅れてすみません。言い訳のしようもなく、僕の力不足です。
ここから先、今までよりもたくさんのキャラが絡んでくるので、会話の書き方も習熟しないといけませんね
感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。




