閑話・主人公たち 2
たくさんのPVをいただき、ありがとうございます。とても励みになっております。
これにて、2章は完全に終わり、次から3章に入ります。
プロットの立て直しなどで少し間が開くかもしれませんが、なるべく早く投稿いたしますので、よろしくお願いします。
side 神代
「くっそ……!」
砦に戻った瞬間、抑えきれない感情が爆発した。砦の壁に、思い切り拳を打ち付ける。堅い鉄の壁は、その程度では揺るぎもしない。それがまた、俺の苛立ちを加速させた。
「神代様!いったい何が……」
こちらに駆け寄ってきたのは、おそらくセシリア様だろう。顔を上げないまま、そう判断する。
「田中と野中かが……谷底に落ちた」
絞り出すようにそういうと、セシリア様が息をのんだ。周りにいるクラスメイト達のどよめきが聞こえる。
それだけで、吐き気がこみ上げてきた。
実際のところ、二人は死んでいないかもしれない。先の津川と違い、あの二人は生粋の戦闘職だ。魔物と相対しても、余裕を持って狩れる力は持っている。――ただし、あの急勾配な斜面から落ちて、無事でいられれば、の話だ。
「おいおいっ、宗一と野中さんがって、いったい何があったんだよ!」
肩をつかまれて強引に振り向かされる。見れば、報告のために帰らせていた寺岡だった。いつも田中と一緒にいた姿を覚えている。その怒りのにじんだ瞳を見返して、俺は吐き捨てるように言った。
「……魔王が、出てきたんだ」
「魔王っ!?」
「マジかよ……」
セシリア様が悲鳴のような声を上げ、寺岡が呆然とつぶやく。誰もが最前線に魔王が表れるとは思っていなかった、という表情だった。
俺だって、同じ気分だった。あんな場所に、それも部隊を分けた時に限って現れるとは。
――いや、回避するタイミングはあった。今日は魔物が多い、と違和感を感じていたはずだ。わざわざ部隊を分けずに、全員で戻ればよかった。そうしておけば、あの邂逅はなかったはずだ。
慢心していたのだ。自分なら魔族が出てきても、全員を守れると、性懲りもなく。一度失敗した癖に、何も学んでいない。
「神代くん」
声をかけられて顔を上げると、レスターさんがこちらに来ていた。彼はそのまま、僕の前に立った。
「レスターさん……」
「神代くん、後悔も反省も後でだってできる。詳しい報告を頼む」
うなずいて、あの時起こったことをゆっくりと話した。
魔物の異常な多さを警戒して、砦に連絡するために班を分けたこと。その後、魔王を名乗る女の魔族に襲われたこと。そして、別の魔族の攻撃で、田中と野中が斜面に落ちていったこと。
すべてを話し終えると、レスターさんは一つうなずいた。
「そうか……、とすると――」
「はい、二人はまだ、生きている可能性があります」
「よし、今すぐ捜査を始めよう。ただ、そのあと魔王はどうしたんだい?」
「しばらく剣を交わした後、『興が削がれた』と言い残して退きました」
「なるほど、まずは魔王と交戦して良く生きて帰った。君は胸を張っていい」
「いえ……」
胸を張れるはずがない。僕は目の前の戦いに夢中になり、田中と野中が斜面に落ちるその瞬間まで、彼らの危機に気付けなかったのだから。
俺の返事をどう感じ取ったか、レスターさんは困ったように眉尻を下げて、やがて周囲に声をかけた。
「今から二人の捜索に出る。幸い、まだ日は高い。こちらで班を分けるから、一度集まってくれ」
その声に、クラスメイト達は若干の戸惑いを見せながら集まっていく。その様子を、俺はぼんやりとみていた。
「神代様、今回の件は不幸な事件でございます。神代様が悩むことは――」
「ごめん、それ以上は言わないでくれ」
言葉遣いに気を遣う余裕もなく、セシリア様にそう返す。セシリア様に対して、見当違いの怒りをぶつけたくはない。
それ以上は何も言わず、僕も捜索のクラスメイト達に混じろうとすると、今度はレスターさんから声がかかった。
「神代くん、君は砦で休んでなさい」
「っ!何でですか!」
「君は疲れている。そんな状態で、ついてくる気かい?」
言われて初めて、自分の状態に気付けた。右手の握力がほとんど死んでいる。魔王との戦いの影響だ。今は剣を握ることさえ、ままならないだろう。
だが、そんなことで二人を見捨てることはできない。
「しかしっ……」
「今の君は、力もないうえに冷静じゃない。そんな状態の君を連れて行く危険性を、君は分かっているはずだ。今はしっかり、休みなさい」
「……っ」
レスターさんの正論に、僕は口を閉じざるを得なかった。同時に強く思う。
――力が足りない。俺には圧倒的に、力が足りない。力があれば、あの時、津川は死なずに済んだだろう。力があれば、田中と野中は谷に落ちることもなかった。
何がクラスメイトを守る、だ。力のない意志は、負け犬の遠吠えと同義だ。できない誓いなんて、何の役にも立てない。
力がほしい。守りたいものを絶対に守りきることのできる強さが。
遠ざかっていくクラスメイトとレスターさんを見送りながら、何度も何度も、そう思った。
結局、二人の行方は知れず、ただ山の中腹あたりで、折れた弓と剣が見つかっただけだった。その二つは、間違いなく二人が使っていた武器だった。
side 椎名
なんでこうなったんだか。俺は小さく嘆息した。
そもそも俺は、人付き合いとか煩わしいもんが嫌いだ。誰かに気を遣って、自分を殺して生きるなんてまっぴらだった。
だから日本にいた時も、必要以上に人とかかわる気はなかったし、この世界に来た時も即座に城を出た。確かに城の人間に不信感を感じたのもあったが、それ以上に、誰かのもとで戦うのが嫌だったのだ。
よく分からない、誰とも知らない敵と戦うのが嫌だ。そう思うのはそんなにおかしいことだろうか。攻めて殺しあうなら、俺の中で正当な理由がほしい。
だから俺は、王国からの追っ手を撒いた後で魔族領を目指した。世界の敵、とか言われている魔王ってやつを一度この目で見てやろうと思ったのだ。
それだけのはずだったんだが……。
「なあ、ユキ!またお話聞かせてくれよ!」
「あ?誰がお前なんかにお話しするかよ」
「えー!この前はしてくれたじゃないか!お話し!お話聞きたい!」
「だー!うるさい!」
すがりついてくる獣人の幼女を引きはがす。魔族領に向かう道中、人間の奴隷にされかかっていた子の幼女を気まぐれに助けてしまってから、妙に懐かれている。正直どっかで捨ててこようかとも思ったが、なんとなく成り行きで、こんなところまでずるずる着いてこさせてしまった。
ここはすでに、世界同盟と魔族がにらみ合う最前線だ。今更こんなところに、ガキ一人置いていくわけにもいかない。
「こら、ジュナ。ユキ殿が困ってるだろう」
そう獣人の幼女――ジュナを窘めたのは、竜人族のヒョウカだ。やたら日本っぽい響きの名前をしているが、彼女の出身である竜神族の里は、かつて俺と同じように日本から呼ばれた召喚者を崇拝している里らしい。
ヒョウカ本人も腰に刀を佩いており、里を出た理由が武者修行のためと言うのだから筋金入りである。
そんなヒョウカも、俺のたびになんとなく着いてきてしまっている。俺が王国からの刺客を殺しているところを偶然見られてしまったのが始まりだ。初めは犯罪者と間違われて斬りかかられたりもしたが、幾度かの戦いを経て、今ではすっかり俺のことを気に入ってしまったらしい。実際、彼女の太刀さばきは見習うべきところが多い。
そんなこんなで、ヒョウカ、ジュナ、俺にあと一人を加えた四人で、今は魔族領を目指している最中だった。
ヒョウカとじゃれるジュナをぼんやりと眺めていると、不意に背後から気配が近づいてきた。普通なら、ここまで近づかれる前に気付くのだが――ったく、性懲りもなく魔法で気配を決してやがるな。
「何かわかったか?ユン」
俺が背中越しにそう声をかけると、背後の木立からつまらなさそうな顔をした魔族の女が顔を出した。
「まったく、いつになっても君の背後は取れそうにないね」
「そんな下らんことに情熱を燃やすな」
「そうはいかないよ、私にもプライドってもんがあるからね」
そんなことを言いながら近づいてきたのは、魔族のユンだった。いつも飄々としてつかみどころのない彼女は、こう見えて魔族でも指折りの魔法の達人である。
彼女は中でも、姿を隠す系統の魔法が得意らしく、それを見破った俺を観察する、とか言ってついてきている。たぶん、彼女は変人だ。出なければ「新型の隠密魔法の力を試したいから」などと言う下らない理由で、人間領をうろうろしていないだろう。
「ったく、お前らといると話が進まねえ」
「おや、冷たいねえ。私は君に、こんなに興味津津なのに」
「だーかーら!顔を近づけるな」
「ふふふ……うぶな反応だねえ」
そう言って妖艶に舌を出す彼女は、顔だけはいいのだ、顔だけは。
ユンとそんなやり取りをしていると、横合いからヒョウカが口を挟んできた。
「ユン!そうやってユキ殿を困らせるな!」
「おやおや、かわいい嫉妬だこと」
「しっ!?嫉妬ではない!」
「ねえねえ、嫉妬ってなあに?」
「ジュナ、私が教えてあげよう。嫉妬ってのはねえ――」
「わー!わー!」
「だあああ!うるさい!話が進まん!」
たまらず俺が吼えると、ジュナは楽しそうに、ヒョウカは照れ臭そうに、ユンは意味深に笑った。ったく、勘弁してくれ。
「で、急に偵察に出たんだ。なんかあったんだろ?」
俺が仕切り直してユンに問うと、ユンはいたずらが成功した子どもように笑った。
「ああ、面白いものが見れたよ」
「その面白いもんってのは?」
「……魔王様がこの辺まで出張ってる。何する気か知らないが、あの子のことだ。まあ、ことは穏便に終わらないだろうねえ」
それを聞いて、俺は思わず口角が上がるのを自覚した。魔族領に入るまでもなく、魔王と言うものを見れるとは。
「ずいぶんと楽しそうな顔してるねえ、ユキ」
「ほっとけ」
そういうと同時に立ち上がる。本当に魔王がこの近くにいるなら、ぼんやりとはしていられない。
「行くぞ」
俺が一言そういうと、仲間たちはうれしそうに笑った。
side 津川
今回はお休みとさせていただきます。
side ???
「――で、結局何も言えずに戻ってきたと」
「え、ええ」
「ええ、じゃないでしょこの馬鹿!」
「いたっ!し、仕方ないじゃない!あいつらが邪魔してきたんだから」
「それも織り込み済みで、しっかり計画立ててたでしょ。それなのに失敗したのは?」
「……私が戦いに夢中になったからです」
「やっぱりあなたのせいじゃないの!」
「うう……でもこれで、完全に誤解されたわよね」
「でしょうね」
「……」
「……」
「「はあ……」」
どうも、kimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
楽しい会話って、難しいですね。
感想・誤字の指摘・評価等していただけると、泣いて喜びます。よろしくお願いします。




