馬車
いわゆる説明回
僕たちが召喚されたエルーゼ王国は、ルーレ大陸の南方に位置している国である。
ルーレ大陸は、人類をはじめ、エルフ、ドワーフ、魔族といった、多種多様な知性種が暮らす大陸なのだが、大陸北部にいる魔族たちは、その他の知性種と敵対的な関係にあるらしい。――いや、敵対的な関係というのも正しくないか。僕たちがメルさんに習った内容から思うに、それは捕食者、被捕食者の関係に近いもののようだ。
というのも、魔族というのはそもそも種族的にかなりの強さを持つらしい。数はそれほど多くないようだが、種族名に「魔」とあることから分かるように、魔法適性が高く、一般の魔族(そんな区分けがあるのかよく知らないが)の魔法は、人間の魔法職業持ちに匹敵するものがあるようだ。僕ら勇者を例外とすると、職業を持った人間はエルーゼ王国に二桁いるかいないかといったところだというから、そのすさまじさが分かる。
そんな魔族だが、普段は大陸北部の魔族領に引きこもっている。と言うのも、魔族の数自体はそれほど多くないので、魔族領だけで十分食べていけるらしい。まあ、別に衣食住に困っていないのであれば、わざわざほかの種族にケンカ売る必要もないだろう。
ところが、魔族の中には物好きがちらほらいるらしく、単身で人間やエルフなどの領地に乗り込んできては、暴力に物を言わせて好き勝手やるやつがいる。そういうやつらは大体、人間その他の種族の職業持ちが総出で倒すらしいが、被害も相当なものになるそうだ。
基本、魔族は自分の領土で自給自足が行えているから、人間たちとの交流はない。そんなわけだから、人間やエルフなどの種族にとって、魔族とはたまに来る災害のようなもの、という扱いをされているようだ。区分けとしては、出会ったら不幸な猛獣なんかと同じ扱い。そういう意味で、魔族と人間その他の種族の関係は、捕食者・被捕食者の関係に近いと思ったわけだ。
そんな引きこもり気質な魔族だが、一年前ほどにその魔族が何をとち狂ったか他種族領に大侵攻を行い始めた。ほぼ不意打ちに近い形の侵攻に、魔族領に近い場所に暮らしていた種族たちは為す術もなく敗北した。
魔族たちはその勢いをもって、さらに侵攻を続行。種族の数自体が少ないため、侵攻の速度自体はそれほど速くないが、その圧倒的な力で、すでに大陸の北半分は魔族に占拠する形になっているという。
この事態を重く見た人族の中でも最大の力を持つエルーゼ王国が、魔族たちを撃退するべく勇者召喚を行ったことで、僕たちがこの世界に呼ばれたわけだ。
さて、話が脱線しすぎたが、そんなわけで僕たち勇者一行はエルーゼ王国を出立し、一路、最前線である大陸中部に向かっている最中だった。
「なあ、宗一」
馬車の窓から、流れる景色をなんとなく眺めていた僕は、寺岡からそう声をかけられてはっと我に返った。……なんだか、よくわからない世界的な電波を受けていた気がする。
「あー、何?」
「大丈夫かよ、ぼーっとして。まあ、いつものことか。……で、素朴な疑問なんだけどよ」
「ん?」
「魔族って、数少ないんだろ?そんなんで、他種族全部にケンカ売れるもんなのか?いや、強いのは分かったんだけど、それ以前に占拠した場所とか守れんのか?攻めるのと違って防衛ってそれなりに数がいるだろ?」
なんで俺に聞くんだよ。そう思ったが、六人乗りの馬車の中にはクラスメイトしかいない。しかも、彼ら全員が僕の答えを待っている雰囲気だ。僕は軽く息を吐いた。
「魔族は数が少ないが、その分、魔物を操れるんだよ。ゲームとかで魔王城の中で魔物とエンカウントするだろ、あんな感じで、魔物を配下みたいに操ってるらしい。だから、魔族に限らなければ割と頭数はいるんだよ」
僕がそう言うと、馬車の中の全員から「へえ」と声が漏れる。
「さすが詳しいな。それも図書館の本情報か?」
「いや、魔物を操る力があるのが分かったのは最近――魔族が攻めてきてかららしい。……っていうか、この辺はメルさんの授業で習ったろ?」
僕がそういうと、寺岡は「そうだっけ」と頭を掻いた。相変わらず、座学は苦手なようで。僕は一つ、息を吐いた。
正直、このクラスメイト全体に漂う緊張感の無さは問題ではないかと思う。召喚された当初は気を張っていたクラスメイト達だが、城できついながらも衣食住が保障された生活を続けるうちに、徐々にその緊張感を失ってしまっている。
別に気を張り続けることが良いことだというつもりはない。だが、僕らはまだ実戦を経験したことがないのだ。
実戦とは、訓練と違って命の危険と隣り合わせだ。はたして今の状態のクラスメイト達が、実戦に耐えることができるのか、はなはだ疑問だった。
「そういえばさ――」
寺岡が話題を変えるように、言った。
「王都のパレード、あれすごかったな」
「ああ、すごかったな」
僕の返しに、馬車内のクラスメイト達も口々に同意した。
王都から馬車で出立するとき、僕らは王都の人たちから熱烈な応援を受けたのだ。王都の大通りの両脇に集まる人の数に圧倒されたと同時に、若干の恐怖を覚えたのを覚えている。
この人たちは、ただの学生である僕たちに、ここまで期待を寄せているんだ。果たしてそれに応えられる力が、気概が、僕らにはあるのだろうか。
その点、神代は流石だった。王都の住人達が何を求めているのか、正確に察して住人達へ手を振ったりしていた。正直、恥ずかしくてまねができない。
その神代だが、恐らく今は神代ハーレムの面子と同じ馬車に乗っているはずだ。中ではテンプレ極まりない会話が繰り広げていられるのだろう。
……神代が今のクラスメイト達の緊張感のなさに気付いているのか、そしてそれに対して危機感を覚えているかはわからない。覚えていたとして、どうやってそれを改善するのかもわからない。
案外「クラスメイト達は俺が守る」とか本気で思ってそうだから困ったもんだ。それは何の解決でもないというのに。なまじ実行する力がある分、たちが悪い。
そんなことを考えていたら、馬車の外があわただしくなってきた。窓から顔を出すと、少し遠くに町が見えてくる。どうやら今日の目的地に着いたようだ。
毎日町から町へ移動し、そこでお偉いさんなんかにあいさつしながら進む旅路。最前線に到着するのは少なくとも、一、二か月は後だろう。
どうかそれまでに、戦う覚悟ができますように。――まあ、無理だろうけど。僕はまた小さく息を吐いた。
どうもkimeraです。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
説明回って、なんだかものすごく書くのに時間かかるんですね
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