第5話:生え始めの歯と、消滅寸前の手のひらパパ ## ◯月◯日(育児日記 60日目)
いつも作品を読んでいただきありがとうございます。
二つの新作を投稿します。
不定期になったらごめんなさい
題名は
『−300日から始まる転生のんびりスローライフ』
『W転生〜パパがスライムだった件〜』の二本です
お昼前に投稿する予定です
読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします
# 第5話:生え始めの歯と、消滅寸前の手のひらパパ
## ◯月◯日(育児日記 60日目)
**タイトル:究極のおしゃぶり&ゼリー誕生。気がつけば私の体積はリンゴからミカンへ。**
「あうー……きゅっ、きゅっ……」
最近、天智の様子がおかしい。
ご機嫌で遊んでいるかと思えば、急にブスッとした顔になり、自分の小さな拳や、近くにある木のおもちゃをガリガリと必死に噛み始めるのだ。
「ふむ……よだれの量も増えている。そしてこの歯ぐきのむず痒がり方……バイオ学者として診断しよう。これは『歯固め(歯生え始め)』の兆候である!」
生後数ヶ月(相当)。ついに天智の小さな口の中に、真珠のような白い乳歯の芽が覗き始めていた。
成長の証であり、親としては涙が出るほど嬉しい瞬間である。
だが、赤ん坊にとって歯が生える時期の不快感(歯ぐきの痒み)は相当なストレスだ。
木のおもちゃを噛んでは「硬い!」と怒って投げ捨て、布を噛んでは「噛みごたえがない!」と泣き出す始末。
「可哀想に……歯固め用のおもちゃ(歯固めリング)があれば良いのだが、この異世界にそんなハイテクベビー用品はあるはずもなく……」
「うあーっ! かゆいーっ!」
ぐずる天智。
その時、天智のつぶらな瞳が、目の前でうろたえる「青くてプルプルした物体(私)」を捉えた。
「あぅ?」
ガシッ!
「おや? 天智、どうし——」
天智の両手が、私のスライムボディを力強く掴んだ。
そして次の瞬間、何のためらいもなく、自分の口の中へと私(の身体の一部)をすぽーんと放り込んだのだ!
**ガブッッッ!!**
「ぬおっ!?」
「あむ……ちゅー……ぐにぐに……」
天智の小さな乳歯の芽が、私のスライム細胞にコリッとめり込む。
「こ、これは……!? スライム独特の弾力と柔軟性が、歯ぐきの不快感を完璧に和らげている……!?」
天智の表情が、みるみるうちにうっとりとした幸福感に包まれていく。
固すぎず、柔らかすぎず、噛むたびに適度な押し返しがあり、冷やすことも温めることも自由自在。
そう、私は地球上のどんなベビー用品メーカーも作れない**『究極の天然生体歯固めリング』**へと変貌を遂げたのだ!
「はっはっは! どうだい天智! パパの体はお前の歯固めにピッタリだろう! 好きなだけガブガブするが良い!」
父親としての役に立っている歓喜に包まれ、私は身を委ねた。
しかし、私は完全に失念していたのだ。
天智の持つ隠されたスキル——**『順応』と『マネッコ』の真の恐ろしさ**を。
◇
「あむ……ちゅー……ごくん……」
「……ん?」
違和感を覚えたのは、天智が私を噛み始めてから一時間が経過した頃だった。
天智はただ歯ぐきを押し当てていたわけではなかった。
私の体内で精製されている「ほんのり甘い魔素エキス(疑似ミルクの成分)」の存在に気づき、噛むと同時に**ちゅうちゅうと全力で吸い上げていた**のだ!
しかも、生体スライムのゲルは、赤ん坊の強い吸引力と酵素によって、**「最高に口当たりの良い高栄養ゼリー」**として天智の喉奥へするりと吸い込まれていく。
「あむっ、モグモグ……ちゅー……(美味しい!)」
「ま、待ちなさい天智! 噛むだけじゃなくて食べている!? 吸い出しているのか!?」
焦って離れようとするが、歯固めの快感とゼリーの美味しさに目覚めた天智の握力は、まさに『順応』スキルの賜物。小さな両手で私をガッチリとロックして離さない!
「ぐぬぬ……! は、離れ……っ! 体積が……私の体積がぁぁぁっ!」
ちゅー……ちゅー……。
天智が一口吸うたびに、私のバランスボールサイズの巨体が、みるみるうちに収縮していく。
【特大バランスボールサイズ】
↓(三十分経過)
【バスケットボールサイズ】
↓(一時間経過)
【ドッジボールサイズ】
↓(二時間経過)
【リンゴサイズ】
「やばい……やばいやばいやばい! 代謝還元スピードが消費スピードに追いつかない! このままでは核がむき出しになって私の意識が消滅する——!」
「あむっ! ごくん! あはーっ!」
天智は完全に「無限におかわりが出てくる最高のプルプルおやつ」として私を認識していた。
私の必死の抵抗も虚しく、身体は削られ続け——
ついには**【手のひらにすっぽり収まるミカンサイズ】**まで縮小してしまった!!
「た……助けて……ルーク殿……クロード村長……」
私の声(魔素振動)は、もはや蚊の泣くような小さな音しか出なくなっていた。
身体の中心にある核が丸見えになり、意識が薄皮一枚で繋がっているような感覚。極限の飢餓状態および存在の消失危機である。
「あぅ? パパ、ちいさくなった?」
天智が不思議そうに、手のひらの上の私を見つめてくる。
そして——「まだ吸い足りない」と言わんばかりに、再び小さな口をパカッと大きく開けた!
「ひぇぇぇぇっ! 食われる! 実の父親が娘の離乳食として完食されてしまうぅぅぅっ!!」
◇
「やあ天山さん、様子を見に来たぞ……って、ぬわぁぁぁぁっ!???」
絶体絶命のその時!
丸木小屋の扉が開き、木の実の籠を持ったルークが飛び込んできた!
「ル……ルーク殿……救って……私を……」
「天山さん!? どこだ!? 声はするのに姿が——って、天智ちゃんの手の中にあるそのミカンみたいな青い粒が本体か!!?」
ルークは叫びながら飛びつき、天智の口が開く直前に、私の残骸をすくい上げた!
「あーっ! わたしのおやつー!」
お気に入りの「おやつ兼おしゃぶり」を奪われた天智が、ぷくーっと頬を膨らませて大泣きの助助走に入る。
「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「ごめん天智ちゃん! でもこれを取られたらお前のパパが消滅しちゃうんだよ! ほら、天山さん! この高魔素のポム果汁を飲め! 早く!!」
ルークが籠から取り出した熟した果実を、私のスカスカになった体へと押し当ててくれた。
ジュジュジュジュジュッ!!
スポンジが水を吸い上げるように、私は死に物狂いで果汁と魔素を吸収した!
「生き返る……! 生命の源泉が細胞に満ち渡っていく……!」
ポンッ! ポコンッ!
果汁を吸うたびに、私の体はミカンサイズからリンゴサイズ、ドッジボールサイズへと急激に巨大化(復元)していく。
「ふぅ……ふぅ……あ、危なかった……あと数秒遅ければ、私は天智の胃袋の中で完全に消化吸収されるところだった……」
「本当にお前さんは目を離すとすぐ縮むな!」
ルークが呆れ顔で息を吐いた。
◇
「あーう……ぐすっ……ちゅーちゅー……」
村長から借りた本格的な「木製の歯固め(滑らかに削った木環)」を与えられた天智だったが、やはりパパのスライムボディの感触には敵わないらしく、不満そうに泣きべそをかいていた。
完全復活を果たした私は、胸の核を撫で下ろしながら天智に近づいた。
「天智……そんなにパパの体が良かったのかい?」
「あぅ……ぷにぷに……おいちい……」
「美味しかったのか……そうか……(父親としては複雑だが)」
私は考えた。
自分の身を無制限に削らせるのは危険だが、天智の歯の成長とストレス軽減を無視するわけにはいかない。
「よし……ならばこうしよう!」
私は『変化』スキルを発動させ、自分の身体から完全に分離しない**「紐付きの厚手スライムリング」**を胸元に形成した。
「この部分だけなら、どれだけ噛んでも吸っても大丈夫なように、表皮の密度を五倍に強化した『高耐久歯固めモード』だ! ただし、一日三十分の制限時間つきだぞ!」
「あうーっ!」
天智はパパの胸元に飛びつき、強化されたスライムリングをガブリ!
「あむ……ぐにぐに……! あはーっ!」
今度は身体が削り取られることもなく、天智は嬉しそうに歯ぐきを押し当ててご機嫌を取り戻したのだった。
◇
その夜。
ぐっすりと眠る天智の口元から、小さな白い歯がチラリと覗いていた。
「……ふふ、立派な歯が生えてきたね」
自分の身を削られ、消滅しかけた恐怖は凄まじかったが、天智の成長を文字通り「肌で(体で)」感じることができたと思えば、悪くない失敗だったかもしれない。
「さて……明日からは天智に噛まれても縮まない『高密度装甲スライム』の研究と、歯磨きの習慣化だな……!」
我が子の成長スピードに翻弄されながらも、スライムパパの愛と科学の育児は、これからも続いていくのだった。




