第4話:温度調節サーモと、ツルツルお尻の大暴走 ## ◯月◯日(育児日記 45日目)
いつも作品を読んでいただきありがとうございます。
二つの新作を投稿します。
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題名は
『−300日から始まる転生のんびりスローライフ』
『W転生〜パパがスライムだった件〜』の二本です
お昼前に投稿する予定です
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# 第4話:温度調節サーモと、ツルツルお尻の大暴走
## ◯月◯日(育児日記 45日目)
**タイトル:体温サーモ機能の過信と、分解酵素30%増量が招いたローション大惨事。**
「フッ……今日の私は一味違うぞ。バイオ学の真髄とは、環境と体内のフィードバック制御にこそあるのだからね」
ケットシーの村に爽やかな朝の光が差し込む中、私はスライムボディの内部構造を密かに再構築していた。
育児において、赤ん坊の体温管理は生命線だ。
寒すぎれば風邪をひき、熱すぎればあせもができ、夜泣きの原因にもなる。
そこで私は、スライムの核から発生する魔素エネルギーを微細に熱変換し、体表温度を自在にコントロールする新機能**『体温サーモ(温度調節機能)』**を開発したのだ。
「いいかい天智。パパの体は今や、最高級の全自動サーモスタット付きベッドなんだよ」
「あうー? ぷにぷに?」
床の上で転がっていた天智が、私のスライムボディに突撃してくる。
「む、少し肌寒いかな? よし、熱交換レートを上げて『三十七・五度(お風呂のぬくもりモード)』に設定!」
ポカポカ……。
私の体表がほんのり温かくなると、天智は「ふにゃ〜」と顔をほころばせ、私の体へ顔をうずめてきた。
「よしよし、大成功だ! これなら寒い夜も湯たんぽいらず。逆に熱を出した時は『ひんやり冷却シートモード』に変形すれば、病気の初期対応も完璧だぞ!」
自分の天才的な発想に酔いしれる私。
だが、バイオ学者としての「探求心」と「過剰な気合」が、再び大惨事を引き起こすトリガーとなるとは、この時の私は知る由もなかったのである。
◇
事件が起きたのは、お昼過ぎのことだった。
「む……この不穏な湿り気、そしてツーンと鼻をつくアンモニア臭……!」
天智を抱っこしていた私の体の一部(オムツ形態)が、温かさと湿気を検知した。
そう、天智のおしっこ&うんちタイムである。
普段であれば、私の持つ『生体浄化』機能により、体内に取り込んだ排泄物をゆっくりと酵素分解・元素還元し、無害化して消滅させている。
しかし、今日の私は一味違った(悪い意味で)。
「ふむ……前回の分解速度では、天智のお肌にわずか数秒間排泄物が接触していた。赤ん坊の皮膚は皮膚バリアが未発達で非常に繊細! 一秒たりとも不快感を与えてはならない!」
私はバイオ学者のスイッチを全開にした。
「よし! 体内のタンパク質分解酵素および脂質分解酵素の分泌濃度を、**通常比『三〇%増量』**に設定! 排泄物が触れた瞬間に一〇〇〇分の一秒単位で完膚なきまでに完全分解してみせる!」
「あう? ばぶ?」
「見ていなさい天智! パパの究極の超高速セルフクリーニングだぁぁぁっ!!」
**ジュワワワワァァァァッ……!!**
私の中で、特製の高濃度酵素が猛烈な勢いで分泌された!
排泄物は一瞬で分解され、気化・還元されてキレイサッパリ消滅!
「勝った! 完璧だ! 一分のスキもない完全浄化——」
……と、自画自賛した直後のことだった。
「あぅ……?」
天智が不思議そうな顔で、私のスライムボディから離れようとした。
スルスルッ!
「……ん?」
天智の身体を抱き起そうと、スライムの手(仮初めの腕)を回した瞬間。
**ヌルッッッ!!**
「なっ!???」
摩擦抵抗ゼロ!?
あろうことか、高濃度に配合しすぎた分解酵素と皮脂還元成分が、天智のお尻から太ももにかけての皮膚表面と反応し、**「最高級ローションを全身に塗りたくった状態」**を作り出してしまったのだ!
「す、滑る!? 天智のお尻がツルッツルで引っかかりがないーっ!?」
「あうーっ!?(キャッキャ!)」
抱っこしようとするのだが、持ち上げた瞬間に「ヌルッ!」と手が滑り、天智の体が石鹸のようにすっぽ抜ける!
「待て待て待て! 危ない! 抱っこできない! 引っかかりが一切ないぞ!?」
「うあーっ!」
天智はお尻がツルツル滑るのが面白いのか、床の上を「すべり台」のようにスーッと高速スライディング!
滑り性が上がりすぎて、ちょっと足を開いただけですごい勢いで部屋の端から端まで滑っていく!
「やばい! 壁に激突する! 体温サーモを急冷! 冷却で摩擦係数を上げるんだ!」
焦った私は『体温サーモ』を急激に冷やし、体表を固くして受け止めようとした。
だが、冷えたスライムボディにツルツル天智が衝突した結果——
**バチィィィンッ!!**
「あうっ!?」
**カーリングのストーンのごとく、天智が斜め四十五度に跳ね返り、半開きのドアに向かって滑り出していった!!**
「て、天智ぃぃぃぃぃぃっ!???」
◇
「にゃ〜、今日も平和だにゃ……」
ケットシーの村の広場では、村人たちが日向ぼっこをしながらのんびりと過ごしていた。
そこへ——
**シュギャァァァァァァッ!!!!**
氷上のスケーターも顔負けのフォームで、お尻から高速スライディングしてくる全裸の赤ん坊(天智)が登場!
「「「にゃ、にゃんだぁぁぁぁっ!???」」」
「助けてケットシーのみなさん! 天智を受け止めてくれぇぇぇぇっ!」
後ろから、球体になってゴロゴロ転がりながら追いかけてくる巨大な青いスライム(私)!
「た、大変だ! 天智ちゃんが暴走してるぞ! 捕まえろ!」
ルークをはじめとする若いケットシーたちが一斉に天智に向かって飛びついた!
「捕まえたにゃっ!」
**ヌルッ!**
「にゃがっ!?」
「滑る! なんだこのツルツルは!? ウナギか!? ウナギの赤ん坊なのか!?」
飛びついたケットシーたちが、天智のお尻や足に触れた瞬間に「スポンッ!」と滑り抜け、次々と重ね餅のように激突して倒れていく!
「あははははっ! あーぅ!」
天智は大爆笑!
村の広場を縦横無尽に滑り回り、ケットシーたちを次々と薙ぎ払っていく!
「だめだ! 手では捕まえられないにゃ! 網を持ってこい! 網を——」
「待ってください! 娘に網なんて使わせません!」
私が前に立ちふさがり、身体を大きく横に広げた。
「天智! パパの胸に飛び込んでおいで! 体温サーモ・特製ぬくもり餅モード!!」
私は身体の温度を人肌の温かさに戻し、表面の粘性を限界まで高めて「トリモチ」のような状態に変形させた。
シュザーーーーーッ!!
ツルツル滑ってくる天智。
**ぽよんっ……ぬちゃっ。**
「捕まえたぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私の粘着スライムボディが、天智のツルツルのお尻を優しく、そしてしっかりと包み込んだ。
滑走エネルギーが吸収され、天智は私の体の中でピタッと動きを止めた。
「ふぅ……ふぅ……捕まえた……捕まえたぞ……」
「あうー! たのしかったー!」
天智は満足そうに、私の顔(スライムの前面)をペシペシと叩いて無邪気に笑っている。
周りを見渡すと、広場には天智に滑り倒されたケットシーたちが何十人も倒れていた。
「天山さん……お前さん……一体何をやったら赤ん坊が滑走兵器になるんだにゃ……」
ルークが髪(毛並み)をくしゃくしゃにしながら、呆れ果てた目で私を見つめていた。
「も、申し訳ありません……分解酵素の過剰分泌と、皮膚表面の潤滑反応による計算違いで……」
「難しい理屈はいいから! 早くそのツルツルを洗ってやれにゃ!」
◇
丸木小屋に戻り、ぬるま湯で天智の身体を丁寧に洗い流すと、ようやくお尻のツルツル(驚異の滑性)は収まった。
洗い上がりのお尻は、いつも以上にスベスベでモチモチの極上肌になっていたが、もう二度と酵素30%増量なんて企むのはやめようと固く心に誓った。
「ふぅ……天智、怖かったかい? ごめんね」
バスタオル(ルークが貸してくれた柔らかい布)で天智を包みながら尋ねると、天智は私の身体にポカポカの『体温サーモ』を感じ取りながら、気持ちよさそうにあくびをした。
「ふあ……あう……しゅー、すべりだい……たのしかった……」
「……楽しかったなら良かったけどね。パパはまた核の寿命が縮んだよ……」
天智のお肌に触れる。
温かくて、柔らかくて、ほんのり甘い匂いがする。
スライムの体は、失敗ばかりだ。
手足がないから抱っこも一苦労だし、酵素の調整を間違えれば大惨事になる。
だけど——
「あう……パパ、あったかい……」
天智が私の体温を感じて、安心したように目を閉じる。
『体温サーモ』も『生体浄化』も、やり方を間違えなければ、この子を笑顔にするための最高の武器になるはずだ。
「よし……明日からは『分解酵素濃度1%刻みの精密管理』と『滑り止め機能付きスライム抱っこ』の練習だな!」
反省はするが、折れない。
それがスライムパパの育児道である。
すやすやと眠る天智の横で、私は静かに体温を三十六・五度に保ちながら、幸せな夜を迎えるのだった。




