第3話:発酵ペースト大爆発と、驚異の高速ハイハイ ## ◯月◯日(育児日記 30日目)
いつも作品を読んでいただきありがとうございます。
二つの新作を投稿します。
不定期になったらごめんなさい
題名は
『−300日から始まる転生のんびりスローライフ』
『W転生〜パパがスライムだった件〜』の二本です
お昼前に投稿する予定です
読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします
# 第3話:発酵ペースト大爆発と、驚異の高速ハイハイ
## ◯月◯日(育児日記 30日目)
**タイトル:バイオ学の猛威(炭酸爆発)と、天智の順応スキルが覚醒した日。**
「くっくっく……ついにできたぞ。バイオ学とスライムの生態代謝を融合させた、人類史上最高の『離乳食』が……!」
私の体積は、ケットシーの村長・クロードさんが差し入れてくれた高魔素の果実を貪り喰ったことで、ようやく元通りの「特大バランスボールサイズ」へと回復していた。
体積が戻れば、思考のキレも冴え渡るというものだ。
今日の議題は、生後半年(相当)を迎えた天智の「離乳食」である。
これまでは私の身体から抽出した生体ミルクと、シルキーゴートの乳で凌いできたが、そろそろ固形物や様々な栄養素に慣れさせる時期だ。
「いいかい天智。離乳食において最も重要なのは、消化酵素の負荷を減らしつつ、腸内細菌叢を整えることなんだ」
「あうー? ばぶ?」
床でご機嫌に転がっている天智に向かって、私は解説を続ける。
ケットシーの森で採れる『ポムの実』は、ビタミンと果糖が豊富なリンゴに似た果実だ。
これをそのまま与えては赤ん坊の喉に詰まってしまう。
そこで私は、自分のスライム体内にポムの実を取り込み、体内の自己消化酵素を使って**「適度に細胞壁を分解した究極の滑らかペースト」**を精製したのだ。
「フッ……ミキサーも裏ごし器もないこの異世界で、私の体そのものが最高級のフードプロセッサーになるというわけだ。完璧……あまりにも完璧なロジック!」
私は『変化』スキルでスライムボディの一部をニョキッと伸ばし、木彫りのスプーンの形を形成した。
スプーンの先端には、ほんのり温かい、黄金色に輝くポムのペーストが乗っている。
「さあ天智、お口をあーんしてごらん。パパの愛と科学の結晶だよ」
「あむ……?」
天智が小さなお口を開け、ペーストをペロリと舐めた。
次の瞬間――天智の目がパッと輝いた!
「おいちぃ! あーぅ!」
「食べた! 食べてくれたぞ!!」
バイオ学者としての勝利! そして父親としての絶頂感!
だが、私は知らなかったのだ。
スライムの体内で有機物を保持し、温め続けるという行為が……**「超高速で酵素発酵を推し進めてしまう」**という生物学の基本原則を。
微熱を帯びた私の体内(暗室&高湿度環境)で、ポムの実の果糖と酵母菌が爆発的に反応を起こしていた。
ポコン……ポコンポコン……。
「ん……? なんだか体内のお腹(核)のあたりがシュワシュワと泡立って……」
異変に気づいた時には、すでに遅かった。
**パンッ!! ドバシャァァァァン!!!**
「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」
私の中で溜まりに溜まった発酵ガス(二酸化炭素)が、スライムの表面張力を突き破って**大爆発を起こした**のだ!
圧搾された黄金色のポムペーストが、キャノン砲のような勢いで部屋中に飛散する!
壁、天井、家具、そして私の顔(スライムの前面)に至るまで、あたり一面がドロッとしたバナナ&リンゴの甘いペーストまみれになった。
「咳……ゴホッ! な、なんたる初歩的ミス……! 発酵制御のパラメータを失念していたとは……!」
顔面(スライムの表面)をペーストでデコレーションされた私は呆然と立ち尽くした。
「ふあ……あ……」
ペースト弾の直撃を免れたものの、あまりの大音響に天智が顔を引きつらせている。
やばい、泣く! また夜泣きならぬ昼泣きの大合唱が始まってしまう!
「て、天智! 大丈夫だよ! ほら、パパの体の自浄作用で――」
焦った私が体をプルプル揺らしたその時。
天智が、ペーストでベトベトになった自分の手を見つめ、ペロッと舐めた。
「……シュワシュワ? あはっ! あははははっ!」
天智が大爆笑し始めたのだ!
発酵によって生じた微炭酸(シュワシュワ感)と甘みが、彼女にとって最高に面白い刺激だったらしい。
「あ、味は気に入ってくれたのか……? 怪我の功名というやつか……」
胸を撫で下ろした私だったが、部屋の掃除(ペーストの全吸収&自浄処理)に一時間以上を費やすことになり、その日の体力はごっそりと持っていかれたのだった。
◇
しかし、本当の災難は離乳食爆発の後に訪れた。
発酵ペーストを食べ、大量の微炭酸エネルギーと果糖を取り込んだ天智の身体に、異変が起き始めたのだ。
そう――彼女の持つ隠されたスキル**『順応』**が、一気に覚醒したのである。
「あう……あうー!」
「ん? 天智、どうかしたのかい?」
部屋の片付けを終えて息をついていた私の方へ、天智が四つんバイの姿勢をとった。
これまで彼女のハイハイは、あおむけからゴロゴロ転がるか、数センチ前進するのがやっとだったはずだ。
だが、今の天智は違った。
キュピーン!
目に見える形で、天智の幼い身体からほんのりと淡い魔素のオーラが立ち上っている。
ケットシーの森の高濃度な魔素と、スライムパパの栄養、そして『順応』スキルが化学反応を起こしたのだ。
「……あうっ!」
**シュバッッ!!**
「なっ!???」
天智が消えた。
いや、消えたのではない。**目にも止まらぬ超高速ハイハイ**で、部屋の隅へと移動したのだ!
「は、ハイハイの速度じゃない!? チーターか!? 新幹線か!?」
「うあーっ!(キャッキャ!)」
自分の身体が思い通りに動くことが楽しくなった天智は、高速移動を開始!
部屋の中を「シュバッ! シュバッ!」と直角に折り返しながら爆走する。
「待ちなさい天智! そんな速度で壁に激突したら事故に――」
私が手を伸ばそうとした瞬間、天智は半開きになっていた丸木小屋のドアの隙間を目がけてダッシュ!
**ドゴォン!!**
なんと、天智は厚さ数センチの木製ドアを頭突き(魔素のバリア付き)で突き破り、そのまま外の『ケットシーの森』へと飛び出してしまったのだ!
「て、天智ぃぃぃぃぃぃぃっ!???」
私はスライムの体を球体状に変形させ、転がるようにして天智の後を追った!
◇
「速い……速すぎる!!」
森の木々の間を、小さな赤ん坊が音速に近いスピードでハイハイしていく。
木々の根を軽やかにジャンプで飛び越え、岩を跳び箱のように踏み越えていく姿は、もはや赤ん坊というよりは野生の肉食獣のそれだ。
「これぞ『順応』スキル……! 異世界の過酷な環境に適応するため、自らの筋力と魔力を瞬時に成長させているというのか! だが早すぎる! 育児書のステップを五十歩くらい飛ばしているぞ!!」
天智は追いかけてくるパパとの「追いかけっこ」だと思って大はしゃぎだ。
楽しそうに笑いながら、どんどん森の奥――危険な魔獣が棲む深部へと突っ込んでいく。
「やばい……あそこはルーク殿から『決して近づくな』と言われていた【牙豚】の縄張り……!」
巨大な牙を持った猪型の魔獣・トスクボア。
その巨体が、茂みをかき分けて姿を現した。
「グルァァァァッ!!」
体長三メートルを超える巨獣が、突然縄張りに侵入してきた天智に向かって咆哮をあげる。
普通の人間の赤ん坊なら、その気圧だけでショック死しかねない威圧感だ。
「天智ぃぃぃっ!! 逃げろ――」
私が叫びながら滑り込もうとした、その時。
天智は止まらなかった。
止まるどころか、満面の笑みでトスクボアの巨体に向かってダイブしたのだ。
「あぅー!(おおきいわんわん!)」
**ドスッ!!**
天智がトスクボアの太い鼻頭にペタリと張り付いた。
そして、彼女のもうひとつのスキル**『マネッコ』**が発動する。
シュンッ……!
天智の体に、トスクボアと同じ「漆黒の魔素オーラ」がまとわりついた。
「グ……グル……!?」
自分の目の前にいる小さな生き物が、なぜか自分と同等……いや、それ以上の「森の王者の気配」を放ち始めたからだ。
「あむー!」
天智はトスクボアの鼻先を、歯が生えかけの口でちゅうちゅうと吸い始めた。
最高級の「おしゃぶり」を見つけたと言わんばかりである。
「グル……グルルゥ……(泣)」
森の暴れん坊として恐れられていたトスクボアが、恐怖と困惑のあまりブルブルと全身を震わせ、天智を乗せたままその場に座り込んでしまった。
「な、なんだその光景は……!?」
遅れて現場に追いついた私は、開いた口(スライムの亀裂)が塞がらなかった。
三メートルの巨獣の頭上で、大威張りで座り込み、「ハッハー!」と拳を突き上げている我が娘。
まるで百獣の王を従えた幼き征服者である。
「あう! パパ!」
天智が私に気づき、トスクボアの頭からパッと飛び降りてきた。
私は『変化』スキルで身体を巨大な柔らかいクッションに変形させ、飛んできた天智をしっかりと受け止めた。
ぽよんっ。
「あうーっ!」
私は天智をスライムボディでぎゅーっと包み込んだ。
寿命が縮んだ。スライムだから命のカウントがどうなっているかは不明だが、確実に精神(核)の寿命が五十年は縮んだはずだ。
トスクボアは「もう二度とこの親子には関わりたくない」という顔で、逃げるように森の奥へ去っていった。
◇
「ふぅ……ふぅ……」
夕暮れ時。
私はトボトボと(スライムなのでズリズリと)ケットシーの村へ戻ってきた。
私の体の上には、高速ハイハイと魔獣乗馬(?)で疲れ果てた天智が、すやすやと心地よい寝息を立てて眠っている。
村の入り口で、壊れた丸木小屋のドアを直していたルークが私たちを出迎えた。
「おかえり天山さん……って、おい! 天智ちゃんは無事だったか!?」
「ああ……なんとか回収したよ……」
「一体どうやって追いついたんだよ? あの凄まじいスピードだったぞ!?」
「バイオ学者としての意地と、父親としての執念だよ……(実際はただ必死に転がっただけだが)」
疲れ果てた私は、その場に平たく潰れた。
天智の成長スピードが早すぎる。
『順応』と『マネッコ』のスキルが組み合わさった時、彼女は私たちが想像もつかないような事件を引き起こすのだ。
「あう……ん……パパの……シュワシュワ……おいちい……」
眠っている天智の口から、可愛らしい寝言がこぼれた。
……まあ、怪我もなく、元気に育ってくれているなら、それが一番なのだが。
「よし……明日からは『部屋に鍵をかける術』と『フェンスの設置』……そして、絶対爆発しない低圧離乳食の研究だ……!」
スライムパパの苦難とドタバタの日々は、天智の成長とともに、さらに加速していくのであった。




