第26話:パパが風邪ひき!? ちいさな看護師さんたちの健気なお世話 ◯月◯日(育児日記 168日目)前編
第26話:パパが風邪ひき!? ちいさな看護師さんたちの健気なお世話
◯月◯日(育児日記 168日目)
タイトル:スライム核の熱暴走!? 震えるパパと、ちいさな看護師隊の「治れーっ!」の魔法。
「……バイオ学者として、そして異世界転生したスライムとして、私は自身の体調管理に対する重大な過信を恥じるほかない。まさかスライムの核が、このような熱暴走を引き起こそうとは……!」
丸木小屋の中、私は自らのスライムボディを『ドッジボール大』にまで縮小させ、全身を「プルプル……ガタガタ……」と激しく震わせていた。
育児日記は168日目(生後5か月最終盤・前回から4日後)。
前回の「ミララのしゃっくり撃退事件」から4日。 秋の終わりを告げる冷たい木枯らしが、村の木々を揺らし始めていた。
事件の原因は明瞭であった。 連日連夜、子どもたちを冷えから守るために発熱モード(三十八度〜三十九度)をフル稼働させ、さらに熱気球への変形や大爆発スープの清掃など、私の魔素核に許容量を超える過度な負担をかけ続けていたのだ。
結果——スライム体内の魔素循環系がショート(熱暴走)を起こし、体温調節機能が完全に壊れてしまったのである!
「熱い……いや、冷たい……!? 体温が四十度まで跳ね上がったかと思えば、次の瞬間には氷点下近くまで急降下する……! これが……これが『スライムの風邪(魔素熱変調)』というやつか……!」
私の体表は、真っ赤に発熱して湯気を上げたかと思えば、次の瞬間には青白く凍りついて霜が降りるという、まさに異常事態に陥っていた。
体力を消耗しきった私は、部屋の隅のクッションの上で、ただ「うう……ぐぬぬ……」とうめくことしかできない。
そこへ、お散歩から帰ってきた愛娘・アマチ(天智)と、1歳を迎えた三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)が元気よく飛び込んできた。
「パパー! かえったよー! 落ち葉さん、いっぱいあつめた——」
「あぅ……?」
アマチの言葉が、途中でピタリと止まった。
いつもなら「おかえり、アマチ!」と特大の青い抱っこ紐形態で包み込んでくれるパパが、小さく縮こまり、湯気と霜を交互に放ちながら震えているのだ。
「あぅ……! パパ……? どうしたの……!?」
生後168日を迎えたアマチは、よちよち歩きで一気に私のもとへと駆け寄った。
アマチが小さな手を伸ばし、私の体表に触れた瞬間——。
ジュッ……!! (激しい熱)
「あぅっ!?」
「ア……アマチ! 触ってはダメだ! 今のパパは体温調節ができず、熱くなったり冷たくなったりして危ないんだ……!」
私が掠れた声(魔素の振動音)で叫ぶと、アマチの瞳からポロッと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「パパ……熱いの……? パパ、風邪ひいたの……!?」
アマチの頭頂部にある「髪の毛猫耳」が、ショックと心配のあまり、ペショーンと完全に萎れて頭にへばりついた。
三つ子たちも、私の惨状を見て大パニックを起こした!
「天山さんが真っ赤ニャーッ!」「冷たくなってるニャーッ!」「パパ、死んじゃイヤニャーッ!」
「し……死にはしない! 死にはしないが……核の魔素が熱暴走を起こしていて、冷やしたり温めたりして代謝を落ち着かせないと動けないのだ……!」
◇
私のその言葉を聞いた瞬間、幼い子どもたちの瞳に、凄まじい決意の光が宿った。
「あぅ……! パパ……! アマチが……アマチたちが、パパを助けるの!」
アマチが涙を拭い、力強く胸を張った!
「クララちゃん! ナララちゃん! ミララちゃん! パパのお世話するよ! 看護師さん隊、出動ニャーッ!」
「「「はいニャーッ!!!」」」
生後168日のアマチ隊長率いる、『ちいさな看護師さん隊』が結成された瞬間であった!
視界に浮かぶステータススクリーンが、弱々しく点滅しながらも感動的な通知を弾き出した。
ピコン!
【名前】 風海天山 【状態】 魔素熱暴走(風邪) / HP:20 / 100(衰弱中) 【アマチたちの発動スキル】 ・『健気なお世話(愛の看病)』Lv.1 【NEW!】 ・『チームワーク(兄弟愛)』Lv.2
「あ……アマチ……みんな……(感涙)」
いつもは私が守り、お世話をし、抱っこしてきた子どもたち。 その子どもたちが今、倒れたお父さんのために立ち上がったのだ!
「まず……冷たいやつ! パパ、熱いから、冷たいの持ってくる!」
アマチが指示を出すと、長女クララと長男ナララが「任せるニャ!」と外へ猛ダッシュ!
二人は村の小川の近くへ向かうと、川底にあるツルツルとした「冷たい川石」と、冷気を含んだ「大きなハーブの葉っぱ」を口にくわえて戻ってきた!
「天山さん! 冷たい石持ってきたニャーッ!」
「葉っぱも持ってきたニャ!」
「あぅ! クララちゃん、ナララちゃん、えらい!」
アマチは小さな両手で冷たいハーブの葉っぱを受け取ると、真っ赤に発熱している私のスライムボディの上に「ペタッ!」と優しく乗せてくれた。
さらに、冷たい川石を私の周囲に並べて、熱を逃がそうとしてくれたのだ。
ジュ〜〜〜……ッ。
「あ……あああぁぁぁ……っ……冷たい……気持ちいい……!」
私の体表から立ち上っていた激しい熱気が、ハーブの葉っぱと川石によって少しずつ吸収されていく!
「次は、お水! パパ、おどろくほど乾いてる!」
アマチの観察力(INT)は伊達ではなかった! 熱暴走によって体内の水分が蒸発し、カラカラになりかけている私を見抜いたのだ!
三女ミララが、小さな木のお皿に汲んできたお水を、両足で大切そうに抱えて運んできた。
「パパ、お水ニャ! 飲んでニャ!」
「あぅ! パパ、お口開けて! あーん!」
アマチが木のスプーンで冷たいお水をすくい、小さく縮こまっている私の体表(口)へと、こぼさないように慎重に運んでくれた。
「あむ……ジュワァァァ……っ」
冷たい水が体内に染み渡る。
「パパ……おいしい……? もっと飲む……?」
アマチが、まるで母親が我が子をあやすかのような、どこまでも優しく温かい手つきで、一滴一滴、丁寧に私にお水を飲ませてくれた。
「あ……アマチ……ありがとう……! 美味しいよ……とっても美味しい……!」
スライムの体内に、愛娘と子猫たちの温かい想いが染み込んでいく。




