第25話:止まらないヒックヒック! ミララのしゃっくりとお手々トントン ◯月◯日(育児日記 164日目)前編
第25話:止まらないヒックヒック! ミララのしゃっくりとお手々トントン
◯月◯日(育児日記 164日目)
タイトル:しゃっくりが止まらないニャ!? 健気なお手々トントンと、魔法の「ちちんぷいぷい」。
「……バイオ学者として、横隔膜の痙攣運動、いわゆる『しゃっくり』のメカニズムは熟知している。だが……これほどまでに可憐で、そして周囲を焦らせる不随意運動が世界に存在しただろうか……!」
丸木小屋の中、私は自らのスライムボディを『特大の青い抱っこチェア形態』へと変形させ、全神経(魔素センサー)を目の前の一点に集中させていた。
育児日記は164日目(生後5か月後半・前回から4日後)。
前回の「落ち葉の大かくれんぼ大会」から4日が経過し、秋の深まりは一層増していた。 朝晩の澄んだ空気は心地よく、落ち葉の絨毯が広がる広場では、今日も子どもたちの元気な声が響き渡るはず……だったのだが。
本日の丸木小屋には、なんとも重苦しく(?)も愛くるしい緊張感が漂っていた。
「ヒック……! ……みゅっ!?」
部屋の中央で、小さな身体を「ビクッ!」と跳ねさせたのは、三つ子の三女・ミララ(生後74日=ケットシー年齢1歳過ぎ)であった。
「ヒック……! ……ヒック……! ……みょ、みゅ〜〜〜ん……(泣きそう)」
「大変ニャ……! ミララちゃんのヒックヒックが、もう十分間も止まらないニャーッ!」
長女クララが、心配そうにミララの周りをオロオロと走り回る。 長男ナララも、大好きな干し魚を食べる手を止めて、「ミララ、お水飲むニャ?」と器を差し出していた。
そう、ミララは今朝の朝食の山羊ミルクを少し勢いよく飲みすぎてしまい、横隔膜が驚いて「止まらないしゃっくり」を引き起こしてしまったのだ!
「ふむ……横隔膜の周期性不随意生体痙攣か。生命に別条はないが、1歳を迎えたばかりの幼猫の体格では、しゃっくりの反動で体力が削られてしまうな……」
私はすかさず、視界に浮かぶステータススクリーンを起動し、新スキル『育児(状態分析&自動温調)』をミララへ向けた。
ピコン!
【名前】 ミララ 【状態】 横隔膜痙攣(しゃっくり継続中) 【不快感】 78%(息がしづらくて涙目) 【効果的な対処法】 驚かす / 温かい飲み物 / 背中の優しい圧迫
「なるほど! 驚かすか、背中をトントンして自律神経を落ち着かせるのが有効か!」
バイオ学者としての分析結果が出たその瞬間、一人の「小さな救急隊長」が勢いよく立ち上がった!
「あぅ……! みららちゃん、苦しいの……? アマチが、治してあげるーっ!」
生後164日(生後5か月後半)を迎えた我が愛娘・アマチ(天智)である!
よちよち歩きが完璧になり、発語も目覚ましい進化を遂げたアマチは、頭頂部の「髪の毛猫耳」を「ピンッ!」と力強く直立させた。 自分より体が小さく、大切な「妹(子猫)」であるミララのピンチに、アマチの『お姉ちゃん正義感』が最高潮に達したのだ!
視界に浮かぶステータススクリーンに、誇らしい文字がポップアップする。
ピコン!
【アマチの現在の特殊状態】 【お姉ちゃん威厳】 100%(限界突破!) 【発動スキル】 『お手々トントン(看護)』Lv.1 【NEW!】
「あぅ! ミララちゃん、じっとしててね! お姉ちゃんが、トントンしてあげるからね!」
アマチは『猫足ハイハイ』で一気にミララの背後へ回り込むと、小さな小さなお手手を「ぽん」とミララの背中にあてた。
◇
「あぅ……とんとん……とんとん……」
アマチの看護が始まった。
自分の小さな掌で、ミララの華奢な背中を、一定のリズムで優しく「トントン……トントン……」と撫で叩く。
「あぅ……ちちんぷいぷい、飛んでけーっ! ヒックヒック、飛んでけーっ!」
アマチは、以前メイラさんが転んだ時に唱えてくれた「おまじないの言葉」を思い出し、一生懸命に声を声をかけながらトントンを続けた。
「みゅ……みゅぅ……(トントンされてるニャ)」
ミララはアマチのお姉ちゃんらしい温かい手に包まれ、少し安心したように瞳を「とろん」とさせ始めた。
「おおっ……! 素晴らしいぞアマチ! その規則正しい触覚刺激は、副交感神経を優位にし、横隔膜の緊張を緩めるのに極めて理に叶っている!」
私は解説役として感動の声をあげた。
……しかし。
「ヒック……! ……ビクッ!」
「あぅっ!?」
かなりの強敵である。ミララのしゃっくりは、アマチの健気なトントンをあざ笑うかのように、数十秒周期で「ヒック!」と大きな痙攣を発生させた。
「あぅー……! 止まらない……! ヒックヒック、強い……!」
アマチの「髪の毛猫耳」が、悔しさでペショッと倒れそうになる。
だが、ここで諦めるアマチではなかった!
「あぅ! トントンがダメなら……わっ!ってするの!」
なんと、アマチはステータス画面の「驚かす」という対処法を直感的に察知したのか、両手を広げてミララの前に立ちはだかった!
「ミララちゃん! ……わぁぁぁぁぁっっっ!!!」
アマチ渾身の「おどかし(威嚇)」である!
両手を大きく広げ、お口を「パカーッ!」と開けて、目を見開くアマチ!
……だが。生後5か月後半の赤ちゃんがやる「わぁっ!」は、恐怖どころか天使のような可愛さにしかならなかった。
「みゅ〜……?(アマチ、カワイイニャ)」
ミララは驚くどころか、アマチの可愛いお顔を見て「ふにゃ〜」と頬をゆるめてしまった。
「ヒック……! ……ビクッ!」
「あぅーっ! 効かないーっ!」
アマチは自分の頭を「がくり」と落とし、畳の上で「あぅ〜……」と悔しがった。
「にゃははっ! アマチちゃん、可愛すぎて驚かせないニャ〜!」
見守っていたルークが、お腹を抱えて笑う。
「笑っている場合ではないぞルーク殿! アマチの『お姉ちゃんとしてのプライド』が傷ついてしまう! こうなったら……パパとアマチの『共同看護』だ!」




