第23話:「これ、なぁに?」お喋りブーム到来と、アマチのでたらめ読み聞かせ ◯月◯日(育児日記 155日目) 後編
長女クララが、ゴツい斧を持った髭面の戦士の絵を見て、固まった。
「そうだよ! これがクララちゃんで、これがナララちゃんで、これがミララちゃん!」
アマチは笑顔で、ゴツい小人戦士たちを三つ子として認定した!
「クララちゃんは『トウッ!』って木に登ります! ナララちゃんは『うまうま〜』ってお魚を食べます! ミララちゃんは『あむー』って甘えます!」
「ニャ〜っ! ボクたち強そうニャーッ!」
「カッコいいニャ! 斧持ってるニャ!」
最初は困惑していた三つ子たちも、アマチの真迫の語り口と圧倒的な『お姉ちゃん威厳』に完全に引き込まれ、「すごーい!」「ボク強いニャ!」と大興奮!
「そして最後に……世界で一番カッコいい『天智お姉ちゃん』がやってきました!」
パラッ!
アマチがめくったページには、古代ドラゴンの背後に君臨する「巨大な神話の女神像」の神々しい挿絵が描かれていた。
「あぅ! これ、天智ちゃん! 天智ちゃんは、みんなをギューッて抱っこして、お熱いスープを作ってあげました! めでたし、めでたしーっ!」
パタンッ!!
アマチは力強く古文書を閉じると、「えっへん!」と胸を張り、頭の髪の毛猫耳をピコンピコンと誇らしげに揺らした。
「「「「パチパチパチパチーーーーッ!!!(大喝采)」」」」
「みゅ〜! 面白かったニャーッ!」
「天智お姉ちゃん、もう一回読んでニャーッ!」
三つ子たちが大興奮でアマチの周りに群がり、大絶賛の嵐!
「あはっ! よし! もう一回読むよ! むかしむかし、パパがいました——」
◇
「にゃははっ! アマチちゃん、天才だニャ! あの難しい古代の記録書を、あんなに面白い冒険物語にしちゃうなんてニャ!」
一部始終を見ていたルークが、お腹を抱えて大爆笑している。
「フフ……真実の歴史とは異なるが……子どもたちの情操教育としては100点満点だな」
私も微笑ましく思っていた、その時であった。
ガラリ。
「あら? みんなで何を楽しそうにお話ししているのかしら?」
お隣の母猫・メイラさん(Lv.42)が、カゴに入った焼き立てのハーブクッキーを持って遊びやってきたのだ。
「あ! おかあしゃま!」
アマチが古文書を抱えて、よちよち歩きでメイラさんへと駆け寄った。
「おかあしゃま! あのね、天智ちゃん、お本読んだの! パパと、クララちゃんと、天智ちゃんのすっごいお話だよ!」
「あらあら、そうなの? 天智ちゃんは本当にお勉強家ねぇ。どれ、どんなお本なのかしら?」
メイラさんが優しく微笑み、アマチの手から古文書を受け取り、表紙を開いた。
その瞬間——メイラさんの動きが、ピタリと止まった。
「……あら?」
メイラさんの目が、スッと細められた。
視界に浮かぶ私のステータススクリーンが、瞬時に不穏な通知を弾き出した!
ピコン!
【名前】 メイラ(Lv.42) 【状態】 『解読完了(これは村の秘宝・古代禁書ニャ)』
「ル……ルーク?」
メイラさんが、静かな、しかし絶対的な圧力を秘めた声でルークを振り返った。
「にゃっ!? は、はいニャっ!?」
「あなた……村長さんの書斎から持ってきて良い本と、持ってきてはいけない『古代封印書』の区別もつかなくなったのかしら……?」
「ひゃいぃぃぃっ!?? ご、ごめんなさいニャーッ! 表紙が似てたから間違えて持ってきちゃったニャーッ!」
ルークが顔を蒼白にして跳ね上がった!
そう! ルークが「絵本」だと思って持ってきた古文書は、実は村長が大事に保管していた「古代魔獣の封印記録書(※子供が見たら夜泣きするレベルの劇薬)」だったのだ!
「あ……あぅ……? おかあしゃま、おこってる……?」
雰囲気を察したアマチが、不安そうにメイラさんの服の裾を引っぱった。
すると、メイラさんは一瞬でいつもの優しいお母さんの笑顔に戻り、アマチの頭を撫でてくれた。
「ううん、怒っていないわよ天智ちゃん。こんな怖い絵の本を、あんなに温かくて優しい『パパとお手伝いのお話』に変えて読んであげるなんて……天智ちゃんは、本当にお心が優しくて頭の良い子ね」
「あ……あはっ! ほんとう……!? おかあしゃま、ほめてくれたーっ!」
アマチの顔に、ぱっと太陽のような笑顔が咲いた!
頭の「髪の毛猫耳」が、嬉しさでルンルンとダンシングを始める!
「さあ、ルーク? この本は村長さんのところへ返しに行って、代わりに本当の絵本を借りてきなさい。……後で『お説教』の続きをしますからね?」
にこっ。
「ひ……ひぃぃぃっ! 行ってくるニャーッ!」
ルークは悲鳴をあげながら、古文書を抱えて脱兎の如く飛び出して行った。
◇
夕方。
ルークが改めて持ってきてくれた本当の「かわいい森の動物たちの絵本」を囲み、アマチの第二回・読み聞かせ会が開催されていた。
今度は挿絵通りの可愛い動物たちを見ながら、アマチが覚えたての言葉で一生懸命に物語を紡いでいく。
「くまさん、こんにちは! あう! お魚、はんぶんこね!」
「みゅ〜♪(はんぶんこニャ!)」
「そして、パパがやってきて……みんなをギューッてしました! めでたし、めでたし!」
「「「きゃあーっ! / みゅ〜〜〜っ!」」」
三つ子たちが拍手喝采し、アマチの身体へダイブ! アマチも三つ子たちを小さな両腕でぎゅーっと抱きしめ、みんなでゴロゴロと床の上を転がり合って笑い転げた。
「ふふ……本当に、言葉を覚えるたびに、この子の優しさがどんどん広仕上がっていくね」
私はローソファー形態の体温を三十六度半に保ち、転がり込んできた子どもたちを優しく包み込んだ。
言葉の爆発期。 それは単に知識が増えるだけではない。 「大好きな人たちに、自分の愛を伝えるための道具」を、アマチが一つずつ手に入れていく、輝かしい成長のプロセスなのだ。
「パパ、だいすき! クララちゃん、だいすき! みんな、だいすきーっ!」
叫ぶアマチの言葉に、ステータススクリーンの【ご機嫌度:100%】の文字が、黄金色に誇らしく輝いていた。
すくすく育つ言葉と、あふれんばかりの愛。 スライムパパとアマチの賑やかで温かい毎日は、今日もたくさんの「大好き」に包まれながら、どこまでも続いていくのであった。
(第23話・完)




