第23話:「これ、なぁに?」お喋りブーム到来と、アマチのでたらめ読み聞かせ ◯月◯日(育児日記 155日目 前編
第23話:「これ、なぁに?」お喋りブーム到来と、アマチのでたらめ読み聞かせ
◯月◯日(育児日記 155日目)
タイトル:言葉の爆発期と『お姉ちゃん威厳』! 古文書を広げて始まった、でたらめ絵本ライブ。
「……バイオ学者として、人間の言語獲得プロセスにおける『爆発期』の神秘には常に深い関心を寄せていた。だが、まさか我が愛娘がこれほどまでに独自の言語宇宙を構築しようとは、誰が予測できただろうか……!」
丸木小屋の中、私は自らのスライムボディを『特大の青いローソファー兼抱っこ紐形態』へと変形させ、体温をぽかぽかの三十六度半に保ちながら、深々と感嘆の息(魔素の蒸気)を漏らしていた。
育児日記は155日目(生後5か月半・前回から3日後)。
前回の「ピンクスープ大噴火事件」から3日。 我が愛娘・アマチ(天智)の言語能力の発達速度は、ついに「爆発期」と呼ぶべき未知の領域へと突入していた。
単なる「パパ」「あーう」といった単語や二語文のレベルをあっさりと突破し、生後155日目を迎えたアマチの口からは、朝から晩まで溢れ出るように言葉のナイアガラが放たれていたのだ。
「あぅ! パパ! これ、なぁに?」
アマチが小さな人差し指で指さしたのは、部屋の隅に置かれていた私の『実験用スライム抽出フラスコ(※スライム素材製)』であった。
「これはね、パパが特製ハーブエキスを抽出するためのフラスコだよ」
「ふらすこ! これ、なぁに? これ、なぁに?」
「これはフラスコの栓だよ。こっちは取っ手だよ」
「とって! じゃあ、これ、なぁに? パパ、これ、なぁにー!?」
「これは……パパの体の表面だね」
「パパのひょうめん! すき! パパ、だいすきーっ!」
質問の無限ループである! いわゆる幼少期特有の「これなぁに? ブーム」が、怒涛の勢いで押し寄せていたのだ。
私はすかさず、視界に浮かぶステータススクリーンをチラリと確認した。
ピコン!
【名前】 アマチ 【月齢】 生後155日(約5か月半) 【知能(INT)】 32(言語理解・好奇心が爆発中!) 【語彙力】 日常単語120語を記憶・絶賛増加中 【現在の状態】 「世界中のすべての名前を知りたいニャ!」
「す……素晴らしい! 知能(INT)が32にまで跳ね上がっている! 生後5か月半にしてこの知的好奇心の塊……! さすがは私と妻の愛の結晶、将来はノーベル賞間違いなしの天才美少女だぞ!」
バイオ学者としての親バカ全開で、私は全魔素をぷるぷると震わせた。
しかし、本日のお喋りブームは、単なる「これなぁに?」の質問攻めだけでは終わらなかったのだ。
◇
「にゃ〜! 天山さん、村長さんから子どもたちにって、古い羊皮紙の書物(絵本)を借りてきたニャー!」
お昼過ぎ、遊びにやってきたルークが、皮の紐で束ねられた年季の入った一冊の「古文書(革表紙の書物)」を抱えてやってきた。
それは、ケットシーの村に古くから伝わる、森の精霊や魔獣の歴史が描かれた素朴な挿絵入りの羊皮紙本であった。
「わあ……! ほん! おくつろぎ本だーっ!」
アマチの目が、キュピーンと輝いた!
アマチは『猫足ハイハイ』から一気に「よちよち……」と二、三歩足を踏み出すと、ルークの手から大事そうに古文書を受け取った。
そして、部屋の中央にある丸太のテーブルの前にドカッと座り込むと、小さな両手でパカッと古文書を開いたのだ。
そこへ、1歳を迎えた三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)が「みゅ〜?」「絵本ニャ?」「見たいニャ〜!」と集まってきた。
「あぅ! クララちゃん、ナララちゃん、ミララちゃん! おすわり! おすわりニャ!」
アマチが「ポンポン!」と床を叩くと、三つ子たちは素直に並んでちょこんと正座した。
アマチの頭頂部にある「髪の毛猫耳」が、誇らしげにピコンッ!と立ち上がる。
視界に浮かぶステータススクリーンに、新しい項目がポップアップした。
ピコン!
【アマチの現在の特殊状態】 【お姉ちゃん威厳】 85%(最高潮!) 【発動スキル】 『でたらめ読み聞かせ』Lv.1 【NEW!】
「で……『でたらめ読み聞かせ』だと……!???」
私が絶句する前で、アマチの輝かしい「第一回・でたらめ絵本ライブ」の幕が上がった!
◇
アマチは、古文書に描かれた難解な古代文字と、禍々しい古代ドラゴンっぽい挿絵を真剣な顔で見つめた。
もちろん、生後5か月半のアマチに古代文字が読めるはずもない。
しかし、彼女の溢れんばかりの想像力と「お姉ちゃんとして三つ子に本を読んであげたい」という強い情熱が、奇跡の即興ストーリーを紡ぎ出し始めたのだ!
「むかしむかし、あるところに……すっごくおっきい『パパ』がいました」
アマチは、古文書に描かれた咆哮する巨大な古代ドラゴン(※本来は村を襲う荒ぶる魔竜の絵)を、小さな人差し指で指さした。
「パパ……!?」
思わず声が出る私。
「みゅ〜? これ、パパニャ?」
長女クララが首をかしげる。
「そうだよ! これ、パパ! 青くて、フワフワで、すっごく強いパパなの!」
アマチは堂々と嘘をついた! 古代ドラゴンの挿絵を、完全に自分のお父さん(スライム)と言い切ったのだ!
「パパはね、毎日『ぽむの実』をいっぱい食べて、みんなにミルクをあげるの。でもね、時々『あわあわ』になって、爆発しちゃいます!」
「みゅあぁぁぁっ! 爆発するパパニャーッ!」
長男ナララと三女ミララが、「すごーい!」「カッコいいニャーッ!」と目を輝かせて拍手を送る!
「フッ……描かれている絵は村を滅ぼす凶悪な魔竜なのだが、アマチの口から語られると、なんだか心温まる親子のストーリーに聞こえるから不思議だな……」
私はローソファー形態のまま、温かい目で見守った。
しかし、アマチの『でたらめ読み聞かせ』は、さらにヒートアップしていった!
パラッ……(ページをめくる音)。
「そしてね、おっきいパパのところに、すっごく可愛い『三つ子の子猫ちゃん』がやってきました」
アマチが指さしたのは、古代ドラゴンを退治するために武器を構えて群がる「古代の小人戦士たち(※槍や斧を持ったゴツい戦士の挿絵)」であった!
「えっ……これがボクたちニャ……?」




