第21話:つむじ風と『空を飛びたい』子猫たち! 巨大気球スライム大冒険 ◯月◯日(育児日記 148日目)後編
◇
「あぅ……? これ……なぁに……?」
ゴンドラの底で遊んでいたアマチが、何かを発見した。
それは、私が浮力と内部温度を一定に保つために、ゴンドラの中央に設置していた「緊急熱気排出バルブ(スライムの突起)」であった。
アマチの視界には、ステータススクリーンがバッチリと投影されていた。
ピコン!
【名前】 アマチ 【目の前の物体】 『ぽちっとボタン(押すとパパが熱くなるニャ)』
「あ……ぽちっと……ボタン……?」
アマチの瞳が、悪戯っぽくキュピーンと輝いた。
「あっ! ダメだアマチ! その突起に触っては——」
「ぽちっとなーっ!」
ペシッ!!
「ぬわぁぁぁぁぁっ!???」
アマチが小さな手で、熱気排出バルブを全力で「ギューッ!」と押し込んだ!
【緊急警告:内部加熱炉が誤作動を起こしました】 【内部温度:40度 ➔ 60度 ➔ 80度(急上昇中!)】 【浮力が想定値の500%に達しました!!】
ブワァァァァァァァッッッ!!!!
「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!? 熱い! 熱いというか浮力がヤバいぃぃぃぃっ!?」
私の気球部分が、まるで熟した風船のようにパンパンに膨れ上がった!
自慢の『生体ロープ(地面と繋いでいたスライムの触手)』が、猛烈な上昇圧力に耐えきれず——。
プチんッ!!
「あにゃあぁぁぁぁっ!? ロープがち切れたニャーッ!?」
下で見守っていたルークが、目を飛び出させて絶叫した!
ロープを失った巨大気球スライム(私)は、まるで解き放たれたロケットのように、秋の空へとドカンと急上昇を開始したのだ!
「あははははっ! はやーい! パパ、もっとお空あがったーっ!」
「みゅ〜〜〜〜っ!?(お空高すぎるニャー!?)」
視界に浮かぶステータススクリーンが、真っ赤な警告音を鳴らし響かせる!
ピコン! ピコン! ピコン!
【高度】 5m ➔ 10m ➔ 15m(危険高度!) 【状態】 「上空の秋風(つむじ風)に煽られて暴走中ニャ!」
「高度十五メートルーーーっ!? あかん! あかんぞアマチ! これ以上上がったら酸素が薄くなる……いやそれ以前に風で村の外へ流されるぅぅぅっ!」
「ひゃーっ! 風さん、きたーっ!」
上空吹いていた強い秋風が、パンパンに膨らんだ私の巨体を直撃!
ビューーーーーッ!!
「「「「きゃあぁぁぁぁっ! / みゅ〜〜〜っ!」」」」
私と子どもたちを乗せた巨大気球スライムは、上空でくるくると旋回しながら、流星のような勢いで村の中心部へと流されて行った!
◇
「た、大変だニャーッ! 天山さんたちが空の彼方へ飛んでいっちゃったニャーッ!」
地上ではルークが死に物狂いで追いかけて走る!
上空の私(気球)の内部では、バイオ学者としての脳内コンピューターが超高速回転していた。
「落ち着け……落ち着くんだ風海天山! 内部温度を下げれば浮力は落ちる! だが、急激に降下すれば落下の衝撃で子どもたちが怪我をする! 目標地点を設定し、安全な軟着陸を計算するんだ!」
私が眼下の村を見下ろすと、ちょうど進行方向に、藁と頑丈な木材で作られた「村長クロードさんの家の巨大な屋根」が見えてきた!
「よし……あの屋根の勾配を利用する! 体内の熱気を徐々に放出しつつ、着陸と同時に身体を『超巨大スライム滑り台』に変形させる!」
私は必死に体温を下げ始めた!
シューーーーーッ……。
「あぅ……? パパ、お空下りてきた……?」
高度:15m ➔ 10m ➔ 5m!
狙い通りの角度で、村長の家の屋根へとアプローチ!
「みんな、衝撃に備えるんだ! 『変化』・低反発衝撃吸収スライムマット&屋根滑り台ロールアウトぉぉぉぉっ!!」
ズザザザザザザッ!!!!
ドスンッ! ぽよんっ! ぽよぽよんっ!!
「「「「きゃあーっ! / みゅ〜〜〜っ!」」」」
私の狙いは完璧だった! 村長の家の藁屋根の上に「ぽよんっ!」と着陸した私のスライムボディは、衝撃を完璧に吸収。そのまま屋根の傾斜を滑り台のように滑り降り、庭の柔らかい落ち葉の山の上へと、子どもたちを優しく着地させたのだ!
ポンッ、ポンッ、ポンッ、ぽよん。
「……ふぅ……ふぅ……着陸……成功……!! 全員……怪我はないかい……!?」
体内の熱気を使い果たし、へなへなと落ち葉の上に潰れる私。
すると、落ち葉の山から顔を出したアマチと三つ子たちが——。
「「「「パチパチパチパチーーーッ!!!(大拍手)」」」」
「あははははっ! すごーい! お空のたび、すっごくたのしかったーっ!」
「みゅ〜! もう一回飛びたいニャー!」
大歓声と大爆笑! 死ぬ思いをしたのは私だけで、子どもたちにとっては「世界一エキサイティングな空の冒険アトラクション」でしかなかったのだ!
◇
「……あらあら? 屋根の上から凄まじい音がしたと思ったら……賑やかねぇ?」
落ち葉の山で大はしゃぎする私たちの前に、静かな足取りで現れた影があった。
お隣の母猫——メイラさん(Lv.42)である。
彼女の手には、村長さんの家へ届け物に来たらしいカゴが握られていた。
メイラさんは、屋根の上から庭にかけて残された青いスライムの軌跡と、落ち葉まみれの天智たち、そして潰れている私を交互に見つめた。
そして、いつもの天使のような笑顔を浮かべたまま、静かに口を開いた。
「天山さん? 村長さんの家の屋根の上で、一体『何』をして遊んでいたのかしら……?」
にこっ。
その笑顔の後ろに、ゆらゆらと立ち上る漆黒のオーラ。
視界に浮かぶステータススクリーンが、容赦なく警告を発する!
ピコン!
【名前】 メイラ(Lv.42) 【状態】 『母性の威圧(屋根を壊されたら困るニャ)』
「「ヒッ……!!!!」」
私とアマチは、一瞬で顔を見合わせ、即座に落ち葉の上で『正座(正スライム)』の姿勢をとった。
「も、申し訳ありませんメイラさんっ! 熱気球の浮力計算を誤り、村長殿の屋根に緊急着陸いたしましたっ! 屋根の修繕は私のスライム補修で完璧に行いますっ!」
「あぅ……! おかあしゃま、ごめんなさいニャ! アマチがボタンぽちっとしちゃったの!」
アマチも頭の「髪の毛猫耳」をペショッと平らに倒し、頭を地面にすりつけて謝罪した。
「……ふふ。お怪我がなくて良かったわ。でもね、空を飛ぶ時は、ちゃんとお母さんにも許可を取りなさいね?」
メイラさんは優しく微笑み、アマチと私の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
「は……はいっ! 二度と暴走気球にはいたしませんっ!」
◇
夕方。
無事に屋根の補修も終わり、丸木小屋へ戻った子どもたちは、大冒険の疲れから完全にお昼寝モードに入っていた。
私のスライムボディの中央で、アマチと三つ子たちが重なり合って「すー……すー……」と幸せそうな寝息を立てている。
アマチは眠りながらも、小さな手で空を掴むような仕草をし、笑顔を浮かべていた。
「あぅ……パパのお空のふね……たのしかったねぇ……」
小さな寝言。
ステータススクリーンに映る、アマチの【ご機嫌度:100%】の文字。
危険な大冒険だったけれど、アマチの瞳に映った「空からの景色」は、きっと彼女の心に素敵な思い出として刻まれたはずだ。
「やれやれ……明日からは『絶対上昇制限付き・安全熱気球』の設計だな……」
すやすやと眠る4人の小さな天使たちの可愛い寝顔を見つめながら、スライムパパの愛と科学の奮闘は、どこまでも続いていくのであった。
(第21話・完)




