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第20話:秋の冷や雨と、ほかほかスライム毛布の雨やどり ◯月◯日(育児日記 145日目)後編

◇


ポカポカポカ……。



大樹の洞の中。 外では冷たい秋雨が「ザザザザーッ」と激しく音を立てて降り続いているが、私のスライム毛布の内側は、まさに「楽園の温室(ぽかぽか温泉)」であった。



「ふぅ……ふぅ……みんな、体温は戻ってきたかい?」


私はステータススクリーンで全員の体温をリアルタイム監視する。


ピコン! ピコン!


【アマチ】 体温:36.6度(正常復帰!) 【クララ】 体温:38.2度(猫の平熱・快適) 【ナララ】 体温:38.1度(快適・お腹が空き始めている) 【ミララ】 体温:38.3度(極めて快適・入眠モード)


「よし……! 全員、正常体温に復帰! 低体温症の危険は回避された!」


私は胸の核(コア)をなで下ろした。


私のスライムボディの内部は、ただ温かいだけではない。 私が発熱のために微量に放出した魔素の香りが、甘い「ぽむの果実のハーブ香」となって充満しており、子どもたちの緊張した心を優しく解きほぐしていたのだ。


「あぅ……パパのおふとん……おうちより……あったかいねぇ……」


アマチが、私のスライム毛布の表面に小さな顔を「すり……すり……」と寄せた。


頭頂部の「髪の毛猫耳」が、ぽかぽかの温もりに包まれて、気持ちよさそうに「くた〜っ」と脱力している。


「みゅ〜……(すやすや)」「にゃは〜……(ぽかぽかニャ)」


三つ子たちも、私のスライム毛布のひだ(折り目)の間にすっぽりと挟まり、うっとりとした表情で喉を「ゴロゴロ……ゴロゴロ……」と鳴らし始めた。


「ふふ……みんな、安心したんだね」


私は『自動温調』の温度を三十八度に微調整し、子どもたちが寝冷えしないよう、吸着面を優しく密着させた。


外の雨足は、一向に弱まる気配を見せない。


冷たい雨音と、木々の揺れる音。 だが、この小さな大樹の洞の中だけは、世界で一番温かく、世界で一番安全な空間となっていた。


◇


「あ……パパ」


スライム毛布の中で、アマチがうっすらと目を開けた。


「どうしたんだいアマチ? まだ寒いかい?」


「ううん……とってもあったかいの。あのね……パパ」


アマチは小さな手を伸ばし、私の核(コア)の近くの体表を「なで……なで……」と優しく撫でてくれた。


「アマチね……パパがスライムで……よかったよ」


「え……?」


思いがけない言葉に、私の核(コア)がドクンと大きく脈打った。


生後145日。 言葉の発達が著しいアマチだが、こんなにもハッキリとした「自分の気持ち」をパパに伝えてくれたのは、これが初めてだった。


「パパ、手も足もないけど……おふとんになれるし、あめから守ってくれるし……世界でいちばん、あったかいもん」


「あ……アマチ……!」


バイオ学者として、かつて人間だった男として。 手足もなく、ゼリー状の魔物として生まれ変わったこの身体に、どこかで劣等感や申し訳なさを抱いていた私。 「普通の人間のお父さんのように、手で抱きしめてあげられない」という悔しさが、心の底にずっとあったのだ。


だが——我が愛娘は、この青くてプルプルした身体を、「手足がないからこそ、自分を全部包み込んでくれる最高のお父さん」として、全身全霊で愛してくれていたのだ!


「う……うう……ぐすっ……! ありがとうアマチぃぃぃぃっ!」


感動のあまり、私のスライム毛布から「ぽろぽろ」と温かい魔素の涙(雫)が溢れ出た!


「あはっ! パパ、泣いちゃダメー! あたたかい涙、いっぱい出てきたーっ!」


アマチが嬉しそうに笑い、私の涙(魔素の雫)を小さな手でペチペチと弾いて遊ぶ。


その声に反応して、三つ子の三女・ミララも目を覚ました。


「みゅ〜……? アマチ……パパ……?」


「あ! ミララちゃん、おきた! パパのおふとん、あったかいね!」


「ニャ! パパのおふとん、最高ニャ!」


ミララがアマチの身体にキュッと抱きつき、二人で私のスライム毛布の中で「ころころ」と転がり合った。


冷たい雨の日の、小さな大樹の洞。 そこは、スライムパパと人間の娘、そして子猫たちが身を寄せ合う、世界で一番温かい約束の場所であった。


◇


一時間後。


ようやく雨が上がり、雲の隙間から夕焼けの黄金色の光が森へと差し込んできた。


「天山さーーーっん! アマチちゃーーーっん! 無事かニャーーーッ!?」


雨上がりの森に、大きな叫び声が響き渡った。


大きな葉っぱを傘代わりにして走ってきたのは、心配して探しに来てくれたルークと、母猫のメイラさんだった!


「あ! ルーク! おかあしゃまーっ!」


洞の中から、アマチが元気に顔を出して手を振った。


「まあ……! みんな、無事だったのね!」


メイラさんが胸を撫で下ろし、洞の中を覗き込んで目を丸くした。


そこには、濡れて冷えるどころか、ぽかぽかのスライム毛布に包まれて、ツヤツヤと顔を輝かせている子どもたちの姿があったのだから。


「天山さん……あなたって人は、本当にすごいお父様ね。こんな冷たい大雨の中でも、この子たちをこんなに温かく守ってあげるなんて」


メイラさんが、心からの感嘆を込めて微笑んでくれた。


「イエ……バイオ学者として、そして父親として……当然の義務を果たしたまでです……(※実は感動で泣きすぎて体力を使い果たし、ヘロヘロになっている私)」


「天山さん、なんだか身体が透き通って小さくなってるニャーッ!?」


ルークが叫ぶ!


「あははっ! パパ、また小さくなった! おうち帰ったら、アマチがまた『レベルあげ』してあげるね!」


「ひ、容赦しておくれぇぇぇっ!?」


夕暮れの森に、子どもたちの楽しそうな笑い声が弾けた。


冷たい秋の雨は去り、家族の温かい絆だけが、雨上がりの空に美しい虹を描くように、どこまでもどこまでも広がっていくのであった。


(第20話・完)

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