第16話:一歳の子猫たちとメイラのスパルタ育児! アマチ、ケットシー家に入門する!?
第16話:一歳の子猫たちとメイラのスパルタ育児! アマチ、ケットシー家に入門する!?
◯月◯日(育児日記 126日目)
タイトル:子猫たちはすっかりお姉さん・お兄さん。そしてアマチを『うちの子』にするメイラさんの提案に、パパの核が大暴走!?
「……バイオ学者として、いや、一人の父親として……私の存立危機事態が発生したと言わざるを得ない……!!」
丸木小屋の中、私は自らのスライムボディを『ドッジボールサイズ』にまで小さく凝縮させ、震えていた。
日記は126日目(生後約4か月)を迎えている。
誕生から36日目を迎えた三つ子たち(クララ、ナララ、ミララ)は、ケットシーの10倍スピード成長により、ついに「ケットシー年齢での満1歳」に到達! 昨日までのヤンチャな赤ちゃん子猫から一変、立ち姿もしなやかで、知恵もつき、しつけや生活マナーを学ぶ「幼年期(人間でいう幼稚園児〜小学校低学年相当)」へと劇的な進化を遂げていた。
そして今、お隣のメイラさんの家で、その三つ子たちとともに「ある衝撃的な授業」が行われていたのである。
◇
「いいこと、クララ、ナララ、ミララ。そして……アマチちゃん」
母猫メイラさんが、ぴんと背筋を伸ばし、威厳に満ちた優しい声で子どもたちに語りかけていた。
「今日からあなたたちは1歳。ケットシーとして、自分の身の回りのこと、森の安全、そして正しく生きるための『しつけ』をしっかり学んでもらいますよ」
「「「はいっ、お母様ニャ!」」」
三つ子たちが綺麗に整列し、背筋をピシッと伸ばして返事をする。
長女のクララは、すっかり落ち着いたお姉さんらしく前足を揃えて座っている。 長男のナララも、食べ物の誘惑に負けず、背筋を伸ばしてじっと耳を傾けている。 そして三女のミララは、天智の隣にぴったりと寄り添い、お行儀よくしっぽを丸めていた。
そして、その列の端っこには——。
「あぅ……! はいっ、おかあしゃまニャ!」
両手を膝に置き、頭の髪の毛猫耳を「ピーン!」と直立させて、三つ子と一緒に真面目な顔で正座している我が娘・天智の姿があった。
「あ、アマチが……ケットシーの家庭教育を並んで受けている……!?」
私は物陰(部屋の隅)から、プルプルと震えながらその光景を見守っていた。
そう、1歳を迎えた子猫たちの「しつけ(教育)」を始めるにあたり、メイラさんが私にこう提案してきたのだ。
『天山さん。アマチちゃんは人間ですけれど、自分をケットシーだと思い込んでいますし、なにより三つ子たちと離れたがりません。アマチちゃんが1歳になる(人間としてしっかり立つ)までの間……この子を『うちの子(ケットシー家の一員)』として、私に預けて教育させてみませんか?』
「うちの子として預ける!?」
その言葉を聞いた瞬間、私の核は危うく融解して泡になるところだった。
「だ、ダメだ! 我が愛娘・アマチがメイラさんの家の子になってしまったら、私の存在意義は!? 身を削ってオムツになり、ミルクになり、抱っこ紐になり、キャットタワーになってきた私の愛の居場所はどこへ行ってしまうのだーっ!?」
◇
「天山さん、声が大きいニャ。物陰でコソコソ暴れないで静かに見守るニャ」
隣で一緒に社会科見学をしているルークが、呆れ顔で私のスライムボディを突っつく。
「だってルーク殿! アマチが……アマチがメイラさんを『おかあしゃま』と呼んでいるのだぞ!? パパの立場が完全に消滅しているではないかーっ!」
「落ち着くにゃ。メイラさんはアマチちゃんを奪おうとしてるわけじゃないニャ。人間であるアマチちゃんが、この村で正しく健やかに育つために『躾』と『お友達との社会性』を教えてくれようとしてるんだニャ」
「うぐぐ……理屈では分かっている……分かっているのだバイオ学者としても! だが父親の感情がそれを拒否するぅぅぅっ!」
そんな私の悶絶をよそに、メイラさんの「ケットシー流・1歳児教育」は着々と進んでいった。
「まずは、身だしなみとご挨拶の練習です。クララ、見本を見せてあげなさい」
「はいニャ、お母様!」
長女クララが、すっと立ち上がり、美しい動作で前足を揃え、頭(お耳)をキュッと下げてお辞儀をした。
「『おはようございますニャ。今日もよろしくお願いいたしますニャ』」
「素晴らしいわ、クララ。では次は、アマチちゃん」
「あぅ……! はいっ!」
アマチが、ゴックンと唾を飲み込んで立ち上がった。 首のすわった生後4か月の身体で、一生懸命に姿勢を正そうとする。
「あぅ……『おはよーございますニャ! きょうも、よろしく……なのニャ!』」
ペコリと頭を下げるアマチ。頭の「髪の毛猫耳」が、お辞儀に合わせてペコンと前におじぎをする。
「あらあら、とっても上手よ、アマチちゃん!」
メイラさんが、優しくアマチの頬を撫でて褒めてあげる。
「あはっ! ほめられた! おかあしゃま、ほめられたーっ!」
アマチは大喜びでメイラさんの膝元に飛びつき、すりすりと顔を甘えさせた。
「ぐはぁぁぁぁぁっっっ!??(吐血ならぬ魔素流出)」
物陰で見ていた私の核に、激痛が走る!
「パパ以外の膝に……あの愛らしいすりすりを……! しかも『おかあしゃま』と呼んで満面の笑顔……! 嫉妬……! スライム人生最大の嫉妬の炎で私の体温サーモが百度に達しそうだぁぁぁっ!」
「天山さん! 熱い熱い! 勝手に蒸気出さないでニャーッ!」
◇
続いての授業は、「食事のマナーと、分け合いっこ」であった。
メイラさんが、小さな皿に盛られた「冷ましたハーブ煮込みの小魚」を子どもたちの前に並べた。
「いいですか? 1歳になったのですから、ガツガツと奪い合ってはいけません。みんなで順番に、感謝していただくのですよ」
「「「はいニャ!」」」
食いしん坊のナララが、思わず手(前足)を伸ばそうとしたが、隣の長女クララが「ナララ、お母様のお話が終わるまで待つニャ」とピシッと嗜める。
「みゅ……ごめんなさいニャ」
なんと、三つ子たちの間で「注意し合う社会性」まで育っているのだ!
そして、三女のミララが自分の皿の小魚を、ちょいちょいとアマチの方へ押しやった。
「アマチ、これ、おいしいニャ。いっしょに食べるニャ」
「あぅ……! みららちゃん、ありがとう……!」
アマチはミララからもらった小魚を小さな手でつかむと、半分にちぎり、片方をミララの口元へ差し出した。
「みららちゃんも、はんぶんこ! おいちいね!」
「ニャッ! はんぶんこ! アマチ、だいすきニャ!」
二人は笑い合いながら、仲良く小魚をモグモグと噛み締めた。
「まあ……! 二人とも、なんて素晴らしい分け合いっこでしょう。アマチちゃんは、本当に優しくて立派なお姉さん(ケットシー)ね」
メイラさんが目を細め、アマチとミララをまとめて抱きしめ、頭を「なでなで」と撫でてあげる。
「あはっ! おかあしゃま、だいすきーっ!」
アマチがメイラさんの胸元にすっぽりと埋まり、幸せそうに目を細める。
その光景は、どこからどう見ても「温かい母猫と、可愛い四つ子の子猫たち」の完璧な家族像であった。
◇
「……終わった……。私という存在は、もう不要なのだ……」
物陰で平べったい水たまり状態になり、絶望に暮れる私。
「アマチはメイラさんのお母さん効果と、1歳になった三つ子たちの社会性に包まれ、完璧に『ケットシー家の子ども』として歩み始めてしまった……。パパはただの青い床として、ここで一生を終えるのだ……」
「天山さん、いい加減にいじけるのはやめるニャ。ほら、授業が終わったぞ」
ルークに突っつかれ、重い身体を起こす私。
すると——授業を終えた子どもたちが、一斉にこちら(物陰)に向かって走ってきたのだ!
トトトトトッ!
「あぅ! パパ! パパだーっ!」
一番に飛び込んできたのは、他ならぬアマチだった!
アマチは『猫足ハイハイ』で一直線に私に駆け寄ると、水たまり状になっていた私の身体に「ドスンッ!」とダイブ!
「あぐっ!?」
「パパ! みてた!? わたし、おじぎできたよ! はんぶんこもできたよーっ!」
アマチは私のスライムボディに顔をうずめ、すりすりと頬を寄せてきた。 その瞳は、メイラさんに見せていたものとは違う、「世界で一番大好きなパパを見つめる瞳」そのものであった。
さらに、後ろから走ってきたクララ、ナララ、ミララの三つ子たちも、私に向かってダイブ!
「天山さん! ボクたちもお辞儀できたニャ!」「小魚おいしかったニャ!」「天山さん、だいすきニャー!」
「ふぐっ……!? みんな……!?」
4人の子どもたちが、平べったい私のスライムボディの上に重なり合い、キャッキャと大はしゃぎでまとわりついてきたのだ!
◇
「ふふふ……困ったお父様ね、天山さんは」
メイラさんが、優しく微笑みながら歩み寄ってきた。
「天山さん。私がアマチちゃんを『うちの子』として預かると言ったのは、あなたからアマチちゃんを奪うためではありませんよ?」
「メ……メイラさん……」
「アマチちゃんは人間です。私たちがどんなに愛しても、彼女には人間としての成長と、スライムであるあなたという唯一無二の父親が必要です。でもね……この村で育つ以上、ケットシーたちのマナーや、お友達との付き合い方を学ぶ場所が必要でしょう?」
メイラさんは、私の身体の上で嬉しそうに跳ねるアマチと三つ子たちを温かく見つめた。
「昼間はうちで三つ子たちと一緒に学び、夜はあなたの元へ帰って、たくさん甘える。そうやって、みんなでアマチちゃんを育てていきましょう? あなたは一人で抱え込みすぎるから……私に、お母さん役をお手伝いさせてほしいの」
「っ……!!」
メイラさんの言葉が、私の核の奥深くにまで優しく染み渡った。
そうだ。私は「嫉妬」に目を奪われ、メイラさんの本当の優しさを忘れていた。 手足もなくて、失敗ばかりのスライムである私一人では、どうしても教えきれない「社会性」や「しつけ」。 それを、メイラさんはお母さんとして、三つ子たちと一緒に温かく包み込んでくれようとしていたのだ。
「メイラさん……! 感謝……感謝いたします……! 私の狭量な嫉妬を、どうかお許しください……!」
私はスライムの体を大きく盛り上げ、深々と「頭(上面)」を下げた。
「いいのよ。それだけアマチちゃんを愛している証拠ですもの。ね、天山お父様?」
「あはっ! パパ! おかあしゃま! みんな、だいすきーっ!」
アマチが私のスライムボディとメイラさんの手を同時にギュッと握りしめ、満面の笑顔を咲かせた。
頭の「髪の毛猫耳」が、パパとメイラさんの間で、幸せそうにピコピコと踊っている。
1歳を迎えた子猫たちと、すくすく育つアマチ。 そして、温かい母猫メイラさんと、身を削りながら愛を注ぐスライムパパ。
二人のお父さんとお母さん、そして4人の兄弟(姉妹)の、新しくも温かい日常が、ここにスタートするのだった。
(第16話・完)




